IMFも警鐘を鳴らしている日本の地銀経営の将来
金融機関・地銀
1990年代のバブル崩壊以降、わが国経済を悩ませた最大の問題が銀行の抱える不良債権であった。しかし、過去10数年にわたって不良債権比率は減少を続けており、金融庁が8月10日に発表した2017年3月期の「不良債権比率」は1.7%と過去最低となった。景気回復や企業業績の改善、さらには銀行自身の経営努力もあって不良債権問題が過去のものとなった事実を表わしており、このこと自体は大きなグッドニュースである。
その一方で、銀行、特に地方の銀行は、かつての不良債権問題よりもさらに深刻と言うべき経営問題に近年は直面しつつある。それは、銀行に預金ばかりは集まる一方で、少子・高齢化を背景にして貸出しが低迷して行くことで、銀行の基本的なビジネスモデルである「預貸業務」の将来性に危機が囁かれていることである。この結果、特に少子高齢化の著しい地方を基盤としている地銀には存続リスクさえもが懸念され始めている。このような地銀の将来経営に関しては、後述のとおりIMF(国際通貨基金)も、「今後の20年間に一部の地方銀行の預貸率は40%低下する可能性がある」、との警鐘を鳴らしているのであるが、では、銀行に特有の財務諸表用語である「預貸率」とは何か。また、それと対応する「預証率」とは何か。
先ず、預貸率とは、ある銀行の預金残高に占める貸出金の割合であり、預証率とは預金残高に占める有価証券の割合である。「預貸業務」が経営の骨幹である銀行にとって、集まった預金のほぼ全額が貸出しに回る状況、つまり預貸率が100%に近い状況が本来は望ましい。それを一部の大手銀行についてみると、ピーク時の1998年には預貸率が137%に達していた。つまり、預金よりも貸出金の方が大きい「オーバー・ローン」の状況にあった。銀行が企業などからの活発な資金需要を賄うには預金だけでは足りなかったから、である。そこで、大手銀行は銀行間の貸借市場(コール市場)にて、地銀や信用金庫・組合から資金を調達し、活発な資金需要に応えていた。このようにして、例えば1999年3月末で見ると、銀行全体の預貸率が99.3%であった一方、信用金庫は70.7%、信用組合が76.3%であった。しかしながら、それ以降、今日に至るまで、預金(預貸率の分母)は銀行、信金・信組に集まり続けて増加する一方で、景気低迷を背景とした貸出金の伸び悩みや、「間接金融から直接金融へのシフト」から、銀行、信金・信組ともに、預貸率はほぼ一貫して減少傾向が続いている。そして、直近の2017年7月末で見ると、銀行全体の預貸率が65.6%、信金は49.3%、信組が53.0%にまで低下している。99年当時も今も、銀行の預貸率が信金・信組よりも高いのは、銀行、特にメガバンクには大規模企業との取引が多く、大口の貸出金も多いからである。
次に、「預証率」の推移を見てみたい。金融機関には預金が集まり続けている中で預貸率は減少しているので、金融機関は余資運用として有価証券を買わざるを得ない状況が続いてきた。この結果、預証率は近年までは増加傾向にあった。金融機関は、有価証券の中でも特に国債を大量購入してきたので、これが国債価格の下落を防止してきた。つまり、長期金利の上昇を防いできたのである。しかしながら、銀行については、2013年以降、預証率が急激な減少に転じている。これは、日銀による長期国債の大量買い上げの影響を受けたものである。それでは、預金のうち、貸出しにも有価証券(国債など)の購入にも回らない部分をどうしているのか。それは、主に日銀への当座預金である。もともと、金融機関の場合、「支払い準備制度」の下で、一定限度の準備金を日銀に預ける義務があるが、限度額を上回る日銀当座預金(超過準備)に対しては、年利0.1%の金利を日銀より受領できることとなっている。これが「付利(ふり)」制度であるが、この超低金利の時代に0.1%でも金融機関には重要な収入源の一つであり、金融機関は余資運用の一環として日銀に超過準備を積み上げてきたのである。
上記のような預貸率、預証率の推移は、金融機関の経営にどんな影響を及ぼしてきたか。
先ず、金融機関どうしの激しい貸出し競争である。限られた融資先と資金需要のパイを巡って低金利競争を繰り広げてきた。これに拍車をかけたのが日銀の「マイナス金利政策」(注5)である。これらは、預金と貸出し金利との利ザヤを薄くして、銀行経営の根幹である預貸業務を圧迫してしまう。また、国債の運用にしても、10年物国債の金利がゼロ%近傍に張り付くなか、国債の利息収入も僅かであり、保有する国債を高値で売って目先の利益を確保する地銀が増えている。さらに、日銀への超過準備の一部に対し導入されたマイナス金利政策により、付利制度による金利収入も減少することとなった。
上記のような諸要因が銀行、特に地銀の経営を苦しくしており、直近で判明した上場地銀の2017年4~6月期の決算を見ると、82行・グループの半数以上が減益となった。こうした中で、銀行の中には「銀行カードローン」や「不動産担保ローン(アパートローン)」による過剰な貸付けが懸念され始めている。これを受けて、金融庁は9月1日の記者会見にて、銀行カードローンについて地銀等に対して9月から立ち入り検査に入る、との発表を行ったばかりである。
冒頭にも記載の通り、IMFも日本の地銀経営の将来に対して警鐘を鳴らしている。つまり、8月10日に発表したスタッフブログの中でIMFは、「地域への融資に依存する小規模銀行は、家計や企業からの需要が落ち込む中で特に脆弱である。高齢者世帯は依然として銀行を必要とするが、これは融資が預金よりもはるかに早く、落ち込むことを意味する。その結果、今後の20年間に一部の地方銀行の預貸率は40%低下する可能性がある」、としている。上記にも記載の通り、銀行全体の預貸率が直近では65.6%である中で、個別には50~60%台の地銀も少なくない。仮に預貸率が60%だとしても、IMFが言うとおりに40%も下がるとすると、預貸率は20%に落ち込んでしまう。つまり、預金のうち融資に回るのは2割のみ、ということであり、これでは預金を集めて融資を行うのを本来業務とする銀行としては存続が不可能である。日本のマクロ経済や金融システム全般に目配りをするのが本来の役割であるIMFが、地方銀行の経営にまで踏み込んでその将来に警鐘を鳴らしていること自体に、問題の深刻さがうかがえる。
バブルの崩壊以降の金融機関の動きを見ると、猛烈な勢いで再編やM&Aが進んだ大手銀行(都銀や長銀など)と比べて地銀や信金・信組の動きは遅かったが、数年ほど前より地銀にも再編の動きが急速に広がっている。また、信用金庫や信用組合にも再編の波が押し寄せている。金融庁も、発足して20周年を迎える2018年に、検査局廃止などの大きな組織変革の予定である、と報じられている。金融庁自身も、自らの組織変革を通じて、地域の金融機関によるさらなる経営改革努力と自立を促している、と言えよう。
その一方で、銀行、特に地方の銀行は、かつての不良債権問題よりもさらに深刻と言うべき経営問題に近年は直面しつつある。それは、銀行に預金ばかりは集まる一方で、少子・高齢化を背景にして貸出しが低迷して行くことで、銀行の基本的なビジネスモデルである「預貸業務」の将来性に危機が囁かれていることである。この結果、特に少子高齢化の著しい地方を基盤としている地銀には存続リスクさえもが懸念され始めている。このような地銀の将来経営に関しては、後述のとおりIMF(国際通貨基金)も、「今後の20年間に一部の地方銀行の預貸率は40%低下する可能性がある」、との警鐘を鳴らしているのであるが、では、銀行に特有の財務諸表用語である「預貸率」とは何か。また、それと対応する「預証率」とは何か。
先ず、預貸率とは、ある銀行の預金残高に占める貸出金の割合であり、預証率とは預金残高に占める有価証券の割合である。「預貸業務」が経営の骨幹である銀行にとって、集まった預金のほぼ全額が貸出しに回る状況、つまり預貸率が100%に近い状況が本来は望ましい。それを一部の大手銀行についてみると、ピーク時の1998年には預貸率が137%に達していた。つまり、預金よりも貸出金の方が大きい「オーバー・ローン」の状況にあった。銀行が企業などからの活発な資金需要を賄うには預金だけでは足りなかったから、である。そこで、大手銀行は銀行間の貸借市場(コール市場)にて、地銀や信用金庫・組合から資金を調達し、活発な資金需要に応えていた。このようにして、例えば1999年3月末で見ると、銀行全体の預貸率が99.3%であった一方、信用金庫は70.7%、信用組合が76.3%であった。しかしながら、それ以降、今日に至るまで、預金(預貸率の分母)は銀行、信金・信組に集まり続けて増加する一方で、景気低迷を背景とした貸出金の伸び悩みや、「間接金融から直接金融へのシフト」から、銀行、信金・信組ともに、預貸率はほぼ一貫して減少傾向が続いている。そして、直近の2017年7月末で見ると、銀行全体の預貸率が65.6%、信金は49.3%、信組が53.0%にまで低下している。99年当時も今も、銀行の預貸率が信金・信組よりも高いのは、銀行、特にメガバンクには大規模企業との取引が多く、大口の貸出金も多いからである。
次に、「預証率」の推移を見てみたい。金融機関には預金が集まり続けている中で預貸率は減少しているので、金融機関は余資運用として有価証券を買わざるを得ない状況が続いてきた。この結果、預証率は近年までは増加傾向にあった。金融機関は、有価証券の中でも特に国債を大量購入してきたので、これが国債価格の下落を防止してきた。つまり、長期金利の上昇を防いできたのである。しかしながら、銀行については、2013年以降、預証率が急激な減少に転じている。これは、日銀による長期国債の大量買い上げの影響を受けたものである。それでは、預金のうち、貸出しにも有価証券(国債など)の購入にも回らない部分をどうしているのか。それは、主に日銀への当座預金である。もともと、金融機関の場合、「支払い準備制度」の下で、一定限度の準備金を日銀に預ける義務があるが、限度額を上回る日銀当座預金(超過準備)に対しては、年利0.1%の金利を日銀より受領できることとなっている。これが「付利(ふり)」制度であるが、この超低金利の時代に0.1%でも金融機関には重要な収入源の一つであり、金融機関は余資運用の一環として日銀に超過準備を積み上げてきたのである。
上記のような預貸率、預証率の推移は、金融機関の経営にどんな影響を及ぼしてきたか。
先ず、金融機関どうしの激しい貸出し競争である。限られた融資先と資金需要のパイを巡って低金利競争を繰り広げてきた。これに拍車をかけたのが日銀の「マイナス金利政策」(注5)である。これらは、預金と貸出し金利との利ザヤを薄くして、銀行経営の根幹である預貸業務を圧迫してしまう。また、国債の運用にしても、10年物国債の金利がゼロ%近傍に張り付くなか、国債の利息収入も僅かであり、保有する国債を高値で売って目先の利益を確保する地銀が増えている。さらに、日銀への超過準備の一部に対し導入されたマイナス金利政策により、付利制度による金利収入も減少することとなった。
上記のような諸要因が銀行、特に地銀の経営を苦しくしており、直近で判明した上場地銀の2017年4~6月期の決算を見ると、82行・グループの半数以上が減益となった。こうした中で、銀行の中には「銀行カードローン」や「不動産担保ローン(アパートローン)」による過剰な貸付けが懸念され始めている。これを受けて、金融庁は9月1日の記者会見にて、銀行カードローンについて地銀等に対して9月から立ち入り検査に入る、との発表を行ったばかりである。
冒頭にも記載の通り、IMFも日本の地銀経営の将来に対して警鐘を鳴らしている。つまり、8月10日に発表したスタッフブログの中でIMFは、「地域への融資に依存する小規模銀行は、家計や企業からの需要が落ち込む中で特に脆弱である。高齢者世帯は依然として銀行を必要とするが、これは融資が預金よりもはるかに早く、落ち込むことを意味する。その結果、今後の20年間に一部の地方銀行の預貸率は40%低下する可能性がある」、としている。上記にも記載の通り、銀行全体の預貸率が直近では65.6%である中で、個別には50~60%台の地銀も少なくない。仮に預貸率が60%だとしても、IMFが言うとおりに40%も下がるとすると、預貸率は20%に落ち込んでしまう。つまり、預金のうち融資に回るのは2割のみ、ということであり、これでは預金を集めて融資を行うのを本来業務とする銀行としては存続が不可能である。日本のマクロ経済や金融システム全般に目配りをするのが本来の役割であるIMFが、地方銀行の経営にまで踏み込んでその将来に警鐘を鳴らしていること自体に、問題の深刻さがうかがえる。
バブルの崩壊以降の金融機関の動きを見ると、猛烈な勢いで再編やM&Aが進んだ大手銀行(都銀や長銀など)と比べて地銀や信金・信組の動きは遅かったが、数年ほど前より地銀にも再編の動きが急速に広がっている。また、信用金庫や信用組合にも再編の波が押し寄せている。金融庁も、発足して20周年を迎える2018年に、検査局廃止などの大きな組織変革の予定である、と報じられている。金融庁自身も、自らの組織変革を通じて、地域の金融機関によるさらなる経営改革努力と自立を促している、と言えよう。