ワークスアプリケーションズの牧野正幸CEO 給料はどう決まっているのか、同業他社と比べて自分の会社は高いのか、低いのか。気になる人は多いはずだ。ワークスアプリケーションズの牧野正幸最高経営責任者(CEO)は「給料が安い会社はだめだ。とにかく給料で報いるべきだ」と主張する。同僚による多面評価を取り入れ、実力と実績に応じて大胆に報酬に差をつける同社。給与・評価制度や福利厚生に関する考え方を牧野氏に聞いた。
■「多面評価」定着に工夫
給料の決まり方や、それに大きな影響を与える評価の仕組みが気になるのは当然でしょう。当社では、半期に一度の「複数の上司・同僚による多面評価」の結果だけで年俸が決まります。「Works Way(ワークスウェイ)」と呼ぶいくつかの基準に照らし、同僚が「この人は優れているか」を評価します。評価の項目はいくつかありますが、基本は「自分で考えて仕事ができているか」という点に集約されます。
評価される人は、自分を評価する人を何人か指名します。そのため「いい評価をしてくれそうな人を選ぶのではないか」「自分を高く評価してもらえるように、自分より仕事ができていない人を選ぶのではないか」と思われるかもしれません。ですが、そうならないような仕組みにしています。「評価する人は、どう評価されている人なのか」を考慮するようにしているのです。評価者が前回低い評価を受けていた場合、そのコメントの「重み」を減らすという傾斜配分の形にしたのです。
「自分より仕事ができる人」の評価を受ける場合、厳しい「採点」になるかもしれません。しかし、できる人から評価してもらうほうが、結果として報酬は増える方向に働くのです。社員同士の生々しい評価が報酬に反映されるので、互いに成長できるのです。自分が受けた評価に納得しているかどうかもすくい上げるようにしています。
■世界人材、今の報酬が重要
私は、どんな会社でも「給料が低い」のはダメだと思っています。「給料が低いけどやりがいがあるから働いてくれ」という理屈が許されるのは、ベンチャーのごく初期のころまでです。
日本の学生が「人気の大企業」に行きたがるのはなぜでしょうか。いろいろ理由はあるでしょうが、結局は「大手は生涯賃金が高い」ことが大きいのではないでしょうか。先輩から話を聞いたり、インターネットで情報を得たりして、50歳ごろの平均年収を知っているんです。
牧野氏は「ベンチャー企業の人材が引き抜かれるのは給料が安いから」と話す グローバルな人材は、もっと給料に対してシビアです。今の賃金が高くなければ納得しない。海外で「うちは生涯賃金が高いんです」といえば、「じゃあ紙に書いて約束してくれ」となってしまいます。だから日本企業的な考えでは海外の優秀な人材を採用できないんです。彼らは、空手形になるかもしれない約束より、今現実に得られるものを求めます。その額が今の自分の評価だと受け止めるんです。
日本企業も「20代でも成果を出している人には、能力に見合った報酬を支払う」というふうにしないといけません。優秀な人材は、低い賃金では辞めてしまいます。特に、昔にくらべて若手の給料が上がっているため、長く勤めた場合に将来もらえるであろう給料と、入社直後の給料の差がどんどん縮まっています。長く勤めてもさほど給料はあがらないかもしれないのです。それでは、日本の学生も「将来の給料」に期待がもてず、そのうち日本企業を選ばなくなってしまうでしょう。
■ベンチャー企業、給料が安すぎる
特にベンチャー企業の給料は安すぎると思います。ベンチャー企業に競争相手が現れないとすれば、それはもうからないからなんですよ。人件費が安くないと成り立たないようなビジネスモデルの事業には誰も集まってきません。それで優秀な人材を集めるのは無理でしょう。
「ベンチャー企業はトップマネジメントとも仕事できるし、経験が積めるので給料が低くても我慢できる」という「報酬とは別のやりがい、働きがい」を感じる社員もいるかもしれません。しかし、経営者がそれに甘えていれば、その会社はブレークスルーすることなく、ただの中小企業で終わるでしょう。優秀なイノベーターは、進出してきた外資系企業に「給料は25%アップ」と声をかけられ、バンバン引き抜かれてしまいます。
「外資に引き抜かれても、どうせ使い捨てされるだけだ」という反論があるかもしれません。確かにクビになる人も多いでしょう。ですが、経営者としては「うちの会社の報酬は低いんだ、だから優秀な人が辞めるんだ」と現実を直視すべきなんです。待遇と人件費を削らなければ利益を出せない体制を見直さないといけないのです。
■給料を上げたら引き抜きが減った
もちろん、払える金額に限度はあります。「彼は優秀だ。1000万円払う価値がある」と思っても、原資がなければ払えません。当社もそうでした。昔は、個人の実績に応じて給料を上げたり下げたりして、優秀な人材には多く報いていました。一方、成果が出せなかった人の給料は下げていたのです。
「能力がある人間には高い報酬を払うべきで、それは新入社員でも同じ」というのが牧野氏の考えだ 3、4年前に給与制度を見直し、給料を底上げしました。同時に、できる人は、大幅に上げられるようにしました。世界と比べても高いレベルに持っていきたいと考え、とにかく給料を上げました。その結果、引き抜きも減りました。
当社は、採用活動の一環で行う1カ月程度のインターンシップで優秀と認めた学生には、ほかの採用プログラムで入社した社員より多くの報酬を払います。年に100万円ほど多くしています。これも「能力がある人間には高い報酬を払うべきだ」と考えているからです。一生懸命考える力を身につけた学生に見合った報酬を出さなければ、採用競争で勝つことはできません。
給料は高くなくても、保養施設や休暇制度といった福利厚生を厚くして報いようという会社もあります。ですが、私は福利厚生は「会社がやらなければどうにもならない」ものにとどめ、極力つくらないと決めています。
働きながら子育てする社員を助けるため、企業内保育施設をつくりましたし、部署が異なる社員同士が積極的にコミュニケーションをとれるように、カフェも設置しました。しかし、この程度で十分かなと思います。社員の満足度を上げるため、給料以外で報いるというやり方は必要ないと思っています。社員の貢献には給料で報いるのが大前提なのです。
(松本千恵)
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