◆スイス・アーミー・マン 感想◆
評価/オススメ:★★★★☆
(この映画に何を求めるかで★の数は無限に変化します)
この作品ジャンルは?:コメディ、ヒューマンドラマ
オススメしたい人は?:『自分』を探しているすべての人
印象を一言で?:らーらー、ららららーらー
グロテスクですか?:お下品で、ちょっと汚らしい。そう思われる方が多いでしょう。◆synopsis◆
無人島で助けを求める孤独な青年ハンク。
いくら待てども助けが来ず、絶望の淵で自ら命を絶とうとしたまさにその時、
波打ち際に男の死体(ダニエル・ラドクリフ)が流れ着く。
ハンクは、その死体からガスが出ており浮力を持っていることに気付く。
その力は次第に強まり、死体が勢いよく沖へと動きだす。
ハンクは意を決し、その死体にまたがるとジェットスキーのように発進!
様々な便利機能を持つ死体の名前はメニー。
苦境の中、死んだような人生を送ってきたハンクに対し、
メニーは自分の記憶を失くし、生きる喜びを知らない。
「生きること」に欠けた者同士、力を合わせることを約束する。
果たして2人は無事に、大切な人がいる故郷に帰ることができるのか──!?
※公式HPより
◆comment◆
ご機嫌いかがですか?文月陽介です。
さて、2017年は珠玉の作品が多い中で、とても異色な映画が公開されました。
この作品はおそらく『ゲット・アウト』(10/27公開)と双璧を成すであろうイカれた部類の作品です。
このイカれ具合がすごいところは、作品の解釈自体を極めて難しくしている点でもあります。
単なるバカの妄想か、ふざけているのか。
あのポッターくんに『こんなこと』をさせるなんて!とお怒りのレイディもいらっしゃるかもしれませんね。
(「おれれれれれれ」から「にょきにょきーーん」まで。)
ネット上の感想を拝見しても、がっかりした、笑えた/感動した、とまったく正反対な声があがっていて、もしもこれから劇場に足を運ぶつもりで事前情報を見られている方の中は、それらを見て躊躇されるかもしれないですね。
・・・・何を隠そう、文月もエンディングを迎えた後に少々呆気にとられて。
「なんじゃこりゃ?」
もしも頭の上にポップアップでメッセージが表示されるとしたら、
わたしには、「あの怒涛のオープニング」からエンディングまでずっと浮かんでいたことでしょう。
ぽわーんとしたお花畑をずっと眺めていたような。
しかし、しかし、ですよ。
公開初日の鑑賞からまる一日頭をクールダウンしながら本作について、アレヤコレヤと思いを巡らした結果。。。。
この映画は文月としては
「誰もが抱えている心の弱さをさらけ出し、浄化させていくロードムービー」
なのだと解釈しました。
無茶苦茶な例えを承知で書くと、
ものすごーーーーーーーーく明るいテイストの
『世界の中心でアイを叫んだけもの』
(庵野監督のあのアニメの最終回)ですわ。。。
あのアニメファンの方、すんません!
だって、あたくしラストシーンで思わず
「おめでとう」
と、顔の前で両手を軽く組み合わせながら呟いてしまったんですもの。。。。
予告編でも、公式サイトでも、公開前のニュース記事でもさんざん取り上げられているので、ネタバレではないのですが、この物語は世に失望して生命を絶とうとした青年が、偶然にも死体を発見し、その死体のありえない能力によって危機を脱し、交流し、故郷を目指すの過程が描かれています。
ダニエル・ラドクリフ演じる死体は、万能サバイバルツールとしてだけではなく、ポール・ダノ演じる主人公と言葉を交わし、交流し、文字通り『生ける屍』として旅を共にする重要な役割を果たします。
すべては、この「メニー』と名乗る死体とは一体何であったのか?
ここを観る側がどう解釈するかが鍵となります。
「おめでとう」
そう呟いたわたしは、おそらく、好意的に作品を飲み込めたのだと思います。
わたしのキーボードの前で硬直してしまったのは、メニーどう受け止めればいいのかに戸惑ったからなのです。
別作品になるのですが、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(2013)
に登場したトラのように、メニーとは何か別のものであると。
うーん、と唸っていたのですが、
結論はやはり、
―
苦境の中、死んだような人生を送ってきたハンクに対し、
メニーは自分の記憶を失くし、生きる喜びを知らない。
「生きること」に欠けた者同士、力を合わせることを約束する。
と公式サイトに書かれた言葉どおり、
主人公の「自分を見失っている姿」がラドクリフくんなのでしょう。
メニーは劇中のさまざまな場面で主人公を助けるサバイバルツールとして活躍(このあたり、ドラ○もん的に見えるのは日本人だからでしょう)するのですが、実はそれこそが、
「自分自身の隠れた可能性」
を暗喩しているのだと文月は想到して、ようやく腑に落ちました。
―自分にはまったく価値がない、何もできない。
物語はポール・ダノが無人島で首に縄をかけるところから始まります。
これを額面通り受け止めるのではなく、
主人公が観ている(思い込んでいる)心の風景だと捉えたらどうでしょう?
つまり
この作品の風景、出来事はすべてポール・ダノ演じるハンクの心の中で巻き起こっていて、ある若者の迷いと葛藤、そして再生と浄化を無駄に壮大な演出で(笑)描いている
と文月としては消化したのです。
心の風景とは、結局のところその人の現実を映し出すものですから、心が灰色だと見るものすべてが同じ色に見えてしまうものです。
流れ着いた死体であるメニーはそんな自分の姿の象徴であり、お下品で腹を抱えてしまうような驚きのギミックも、AIアシスタントとの会話のようなやりとりも、前者は若者らしいノリと勢い、後者は素直になれない不器用な自分の本心をストレートに表現している。
そうだとするならば、トンデモ展開にも妙に合点がいくのです。
無人島から森にたどり着き、その森のなかで迷い、それでも自分の意思で家に帰えろうとし(=自分を受け入れる)、通過儀礼として現実を知り(彼の場合は両親との関係と初恋)、
最後に過去の自分と決別をする。
誰もが通る「あの道」をここまでストレートに描いた作品はなかなか魅力的です。
そういう訳で、
「いやー、なんだか意味わからんし、つまんないねー」
とバッサリしてしまうには、惜しいのではないかなぁ。
終着点を迎える過程がもどかしく、それでいて馬鹿げているのだけど、誰にも打ち明けることができない人の心の内側って、彼らが96分の旅路で見せてくれたものと、大差ないのではないのでしょうか?
ただしこの物語のように、
過去の自分も、もうひとりの自分も、
「自分の一部」であって、
捨て去るのではなく、
「還してあげる」
という非常に大切で忘れがちなことを、見つめ直してみるのも必要なのでしょう。
今の自分も過去の自分も、ともに完全ではありえない。
結局のところ生きることは、大小様々な過ちとどうにか折り合いをつけ続けることなのかも知れません。
「おめでとう」
2017年映画鑑賞 155本目
次回更新予告:『ドリーム』(予定)にわたしは夢を託すのです!!!
◆overview◆
・原題:Swiss Army Man 2016年アメリカ公開・上映時間:96分
・監督・脚本:
ダニエル・シャイナート
ダニエル・クワン
代表作:『Interesting Ball』(2014)
・メイン・キャスト
ポール・ダノ
ダニエル・ラドクリフ
メアリー・エリザベス・ウィンステッド
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