北朝鮮が26日、米韓合同軍事演習の最中に短距離ミサイルを発射した。一見、強気のように見えるが、実態は逆だ。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は追い込まれている。
金正恩氏は当初、米領グアム近海への弾道ミサイル発射を検討していた。それを棚上げして日本海への短距離ミサイル発射に切り変えた点にも弱気がうかがえるが、それだけではない。背景には、中国に見放された事情がある。
中国の政府系新聞である環球時報は10日、北朝鮮が先に米本土をミサイルで脅かし「米国が報復攻撃した場合、中国は中立を保つ」と表明した。そのうえで「米国が朝鮮半島の政治的版図を変えようとするなら、中国は断固阻止する」と警告した。
中国の中立宣言は、米国の報復攻撃に対する事実上の「ゴーサイン」でもある。これで米国はいざとなったら、安心して報復攻撃に踏み切れる形になった。
金正恩氏にしてみれば、これは中国の裏切り同然である。北朝鮮と中国は軍事同盟を結んでいる。一方が攻撃されれば、他方が全力で支援するという取り決めだ。約束を反故(ほご)にしたも同然の中国の姿勢に、金正恩氏は肝をつぶしたのではないか。
こうなると、金正恩氏はグアム近海への発射は見送らざるをえない。かといって体面を保つためには、何か格好をつける必要があった。それが今回の中途半端なミサイル発射だったのだ。
一方、米国のティラーソン国務長官とマティス国防長官は連名で14日、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し「体制転換の意図はない。朝鮮半島統一の加速にも関心がない。(北朝鮮に)米軍を駐留させる口実を求めているわけでもない」と表明した。
一連の展開は事実上の「米中往復書簡」と言える。中国が報復を容認した見返りに、米国は北朝鮮を自分の勢力圏に組み入れる意図はないと明確にした。
トランプ大統領は22日、支持者らの集会で「金正恩委員長は状況を理解し、我々に敬意を払い始めたのではないか。何か前向きなことが起きるかもしれない」と語った。米国はどう出るか。
北朝鮮が核とミサイルの実験を凍結して交渉に応じたとしても、それでは問題の解決にならない。軍事施設が廃棄されない限り、米国にとって北朝鮮は潜在的脅威であり続ける。米国の最終目標は凍結ではない。あくまで施設の恒久的な廃棄だ。
北朝鮮が施設廃棄に応じなければ結局、軍事オプションが残る。とはいえ、米国の先制攻撃はありえない。それは国際法が禁じている。攻撃はあくまで自衛のための報復に限られる。中国が容認したのも報復攻撃だけだ。
となると、北朝鮮が先に手を出すのを待つか、あるいはあえて挑発して北の攻撃を誘発する可能性もある。かつてのベトナム戦争では、トンキン湾事件が米国参戦のきっかけになったが、事件は後に(少なくとも一部は)米国のでっち上げだったことが明らかになった。
日本はどうするか。
陸上型イージスシステムの導入など防御を固めたうえで、攻撃に対する抑止力を高める敵地攻撃能力の検討を急ぐべきだ。トランプ政権の強硬姿勢が中国の中立化と北朝鮮の軟化を引き出した。軍事力の裏付けがあってこその外交である。この成果に日本も学ぶ必要がある。
(東京新聞・中日新聞論説委員、四国新聞特別コラムニスト)
@hasegawa24|https://twitter.com/hasegawa24