東海地震 予知前提の情報取りやめへ 防災対策が転換
この東海地震について、有識者で作る国の検討会は先月、社会活動や経済活動を大幅に規制する「警戒宣言」の発表につながるような確度の高い予測は「できないのが実情だ」などと指摘しました。
これを受けて国は、予知を前提とした東海地震の情報の発表を取りやめる方針を固めたことが関係者への取材でわかりました。
年内にも南海トラフ全域の地震活動などを評価する情報を新たに作る見込みです。
発表されるケースとしては、例えば南海トラフで、想定される巨大地震よりひとまわり小さい地震が発生した場合などが考えられ、さらに規模の大きな地震が起きるおそれがないかを評価し、備えを呼びかけるということです。
国は近く、この方針を関係機関に説明したうえで、情報の具体的な内容や発表の方法などについて、さらに検討すると見られます。
「東海地震」は、国が全国で唯一、予知できる可能性があるとしてきた地震で、40年近くにわたって予知を一つの柱に進められてきた防災対策が大きく転換されることになります。
東海地震の情報とは
「東海地震に関連する調査情報」、「東海地震注意情報」、それに「東海地震予知情報」で、情報の意味を信号機の色になぞらえた「カラーレベル」でも表現されています。
このうち、青色の「東海地震に関連する調査情報」は、地殻変動など東海地域の観測データに現れた変化が東海地震と関係あるものかどうか判断できない場合に発表され、特別な防災対応をとる必要はないとされてきました。
次に、黄色の「東海地震注意情報」は、複数のひずみ計の変化など観測データに異常な現象がとらえられ、東海地震の前兆である可能性が高まった段階で発表されるものです。この情報が発表された場合、学校から児童や生徒を帰宅させたり、消防などが救助部隊の派遣の準備を行ったりするなどの対応が行われることになっていました。
さらに、赤色の「東海地震予知情報」は、観測データの異常を専門家で作る判定会が地震の前兆現象だと判定した場合などに政府の「警戒宣言」とともに発表されます。この情報と「警戒宣言」が発表されると、鉄道の運行や高速道路の通行が規制されるほか、金融機関やデパートが営業を中止するなど、社会活動や経済活動が大幅に規制されます。
こうした情報を出すために気象庁は、わずかな地盤の変化を観測できる「ひずみ計」と呼ばれる観測機器を静岡県などの27か所に設置して24時間体制で監視を続けてきました。
南海トラフ巨大地震 発生懸念4つのケース
(ケース1)
1つ目のケースは、南海トラフの一部がずれ動いてマグニチュード8クラスの巨大地震が発生した場合でその後、同じ規模か、さらに大きな地震が隣接する場所で発生することが懸念されるとしています。
この理由としては、南海トラフで、過去にも震源域の一部がずれ動いて巨大地震が起きたあと、しばらくして、隣の領域で別の巨大地震が起きたことがあるからです。
例えば、昭和19年に「昭和東南海地震」が発生した2年後には、その西側で「昭和南海地震」が、1854年には「安政東海地震」が発生した32時間後にはその西側で「安政南海地震」が発生しました。いずれもマグニチュード8クラスの巨大地震でした。
(ケース2)
2つ目のケースは、南海トラフ沿いで、想定される巨大地震よりひとまわり小さな、マグニチュード7クラスの地震が発生した場合です。南海トラフでは、巨大地震の前に、マグニチュード7クラスの地震が起きた記録はありませんが、6年前の東北沖の巨大地震では、2日前にマグニチュード7.3の大地震が発生しています。
世界では、1900年以降に発生したマグニチュード7.0以上の1300余りの地震のうち、地震後1週間以内に、同程度以上の規模の地震が起きた例が24あります。
この2つのケースについて、報告書の案では、巨大地震が切迫し避難など何らかの対策を取る必要があるとしていて、新たな情報では、こうしたケースについて地震活動の見通しなどを評価すると見られます。
(ケース3)
3つ目のケースは、南海トラフ沿いの地域で、地下水の水位が変化したり、プレートの境界が長期間にわたりゆっくりとずれ動くなど、複数の異常現象が観測された場合です。こうした現象は、6年前の東北沖の巨大地震の前に見られましたが、地震の発生につながると判断できないとして、「防災対応に生かす段階に達していない」としています。
(ケース4)
4つ目のケースは、地盤がずれ動く「プレスリップ」と呼ばれる現象が観測された場合です。この現象は、これまで東海地震の発生前に起きる可能性があるとされてきました。
報告書の案では「地震の可能性が相対的に高まっているおそれがあるので、少なくとも行政機関は警戒態勢を取る必要がある」などとしています。南海トラフでこうした現象が起きたときに今後、どのように情報を出すかが課題になります。
これまでの予知前提の対策とは
その核となったのが、39年前の昭和53年に施行された大規模地震対策特別措置法、いわゆる「大震法」です。
「大震法」では、東海地方を中心に激しい揺れや高い津波などで被害が予測される地域を「地震防災対策強化地域」に指定しました。現在は、8都県の157市町村が指定されています。
また、気象庁は、巨大地震が起きる前に地盤がゆっくりとずれ動く「プレスリップ」と呼ばれる前兆現象を捉えるため、東海地震の震源域の監視を24時間体制で続けています。
地震の専門家で作る「東海地震の判定会」が前兆現象だと判定すると、気象庁長官からの報告を受けて、内閣総理大臣が「警戒宣言」を発表し、気象庁も東海地震の「予知情報」を合わせて発表するとしました。
「警戒宣言」が発表されると、「強化地域」では鉄道や高速道路の通行が規制されるほか、金融機関やデパートが営業を中止したり学校が休みになったりするなど社会活動や経済活動が大幅に規制されます。
政府や強化地域内の自治体、それに企業は、「警戒宣言」が出たという想定で防災訓練を繰り返してきました。
こうした地震予知を前提に作り上げられてきた大規模な防災対策は、法律の施行から40年近く経過した今、大きな転換点を迎えることになります。
東海地震 予知前提の情報取りやめへ 防災対策が転換
国内で唯一、予知できる可能性があるとされてきた「東海地震」について、国は、予知を前提とした情報の発表を取りやめる方針を固めたことが、関係者への取材でわかりました。年内にも南海トラフ全域の地震活動などを評価する情報を新たに作る見込みで、40年近くにわたって予知を柱の一つとして進められてきた国の防災対策が、大きく転換されることになります。
「東海地震」は、南海トラフで起きるマグニチュード8クラスの巨大地震の一つで、国は、直前に予知できる可能性があるとして、39年前の昭和53年に「大規模地震対策特別措置法」、いわゆる「大震法」を制定し、予知を前提に防災対策を進めてきました。
この東海地震について、有識者で作る国の検討会は先月、社会活動や経済活動を大幅に規制する「警戒宣言」の発表につながるような確度の高い予測は「できないのが実情だ」などと指摘しました。
これを受けて国は、予知を前提とした東海地震の情報の発表を取りやめる方針を固めたことが関係者への取材でわかりました。
年内にも南海トラフ全域の地震活動などを評価する情報を新たに作る見込みです。
発表されるケースとしては、例えば南海トラフで、想定される巨大地震よりひとまわり小さい地震が発生した場合などが考えられ、さらに規模の大きな地震が起きるおそれがないかを評価し、備えを呼びかけるということです。
国は近く、この方針を関係機関に説明したうえで、情報の具体的な内容や発表の方法などについて、さらに検討すると見られます。
「東海地震」は、国が全国で唯一、予知できる可能性があるとしてきた地震で、40年近くにわたって予知を一つの柱に進められてきた防災対策が大きく転換されることになります。
東海地震の情報とは
「東海地震に関連する調査情報」、「東海地震注意情報」、それに「東海地震予知情報」で、情報の意味を信号機の色になぞらえた「カラーレベル」でも表現されています。
このうち、青色の「東海地震に関連する調査情報」は、地殻変動など東海地域の観測データに現れた変化が東海地震と関係あるものかどうか判断できない場合に発表され、特別な防災対応をとる必要はないとされてきました。
次に、黄色の「東海地震注意情報」は、複数のひずみ計の変化など観測データに異常な現象がとらえられ、東海地震の前兆である可能性が高まった段階で発表されるものです。この情報が発表された場合、学校から児童や生徒を帰宅させたり、消防などが救助部隊の派遣の準備を行ったりするなどの対応が行われることになっていました。
さらに、赤色の「東海地震予知情報」は、観測データの異常を専門家で作る判定会が地震の前兆現象だと判定した場合などに政府の「警戒宣言」とともに発表されます。この情報と「警戒宣言」が発表されると、鉄道の運行や高速道路の通行が規制されるほか、金融機関やデパートが営業を中止するなど、社会活動や経済活動が大幅に規制されます。
こうした情報を出すために気象庁は、わずかな地盤の変化を観測できる「ひずみ計」と呼ばれる観測機器を静岡県などの27か所に設置して24時間体制で監視を続けてきました。
南海トラフ巨大地震 発生懸念4つのケース
(ケース1)
1つ目のケースは、南海トラフの一部がずれ動いてマグニチュード8クラスの巨大地震が発生した場合でその後、同じ規模か、さらに大きな地震が隣接する場所で発生することが懸念されるとしています。
この理由としては、南海トラフで、過去にも震源域の一部がずれ動いて巨大地震が起きたあと、しばらくして、隣の領域で別の巨大地震が起きたことがあるからです。
例えば、昭和19年に「昭和東南海地震」が発生した2年後には、その西側で「昭和南海地震」が、1854年には「安政東海地震」が発生した32時間後にはその西側で「安政南海地震」が発生しました。いずれもマグニチュード8クラスの巨大地震でした。
(ケース2)
2つ目のケースは、南海トラフ沿いで、想定される巨大地震よりひとまわり小さな、マグニチュード7クラスの地震が発生した場合です。南海トラフでは、巨大地震の前に、マグニチュード7クラスの地震が起きた記録はありませんが、6年前の東北沖の巨大地震では、2日前にマグニチュード7.3の大地震が発生しています。
世界では、1900年以降に発生したマグニチュード7.0以上の1300余りの地震のうち、地震後1週間以内に、同程度以上の規模の地震が起きた例が24あります。
この2つのケースについて、報告書の案では、巨大地震が切迫し避難など何らかの対策を取る必要があるとしていて、新たな情報では、こうしたケースについて地震活動の見通しなどを評価すると見られます。
(ケース3)
3つ目のケースは、南海トラフ沿いの地域で、地下水の水位が変化したり、プレートの境界が長期間にわたりゆっくりとずれ動くなど、複数の異常現象が観測された場合です。こうした現象は、6年前の東北沖の巨大地震の前に見られましたが、地震の発生につながると判断できないとして、「防災対応に生かす段階に達していない」としています。
(ケース4)
4つ目のケースは、地盤がずれ動く「プレスリップ」と呼ばれる現象が観測された場合です。この現象は、これまで東海地震の発生前に起きる可能性があるとされてきました。
報告書の案では「地震の可能性が相対的に高まっているおそれがあるので、少なくとも行政機関は警戒態勢を取る必要がある」などとしています。南海トラフでこうした現象が起きたときに今後、どのように情報を出すかが課題になります。
これまでの予知前提の対策とは
その核となったのが、39年前の昭和53年に施行された大規模地震対策特別措置法、いわゆる「大震法」です。
「大震法」では、東海地方を中心に激しい揺れや高い津波などで被害が予測される地域を「地震防災対策強化地域」に指定しました。現在は、8都県の157市町村が指定されています。
また、気象庁は、巨大地震が起きる前に地盤がゆっくりとずれ動く「プレスリップ」と呼ばれる前兆現象を捉えるため、東海地震の震源域の監視を24時間体制で続けています。
地震の専門家で作る「東海地震の判定会」が前兆現象だと判定すると、気象庁長官からの報告を受けて、内閣総理大臣が「警戒宣言」を発表し、気象庁も東海地震の「予知情報」を合わせて発表するとしました。
「警戒宣言」が発表されると、「強化地域」では鉄道や高速道路の通行が規制されるほか、金融機関やデパートが営業を中止したり学校が休みになったりするなど社会活動や経済活動が大幅に規制されます。
政府や強化地域内の自治体、それに企業は、「警戒宣言」が出たという想定で防災訓練を繰り返してきました。
こうした地震予知を前提に作り上げられてきた大規模な防災対策は、法律の施行から40年近く経過した今、大きな転換点を迎えることになります。