これでいい? 有識者「憲法の規定逸脱」
先進諸国は行使に抑制的
安倍晋三首相が28日召集の臨時国会冒頭で断行する衆院解散。政府・与党は「首相の専権事項」とするが、「大義なき解散」との批判は強い。海外に目を転じると、解散制度を持つ主要国では解散はむしろ減り、任期いっぱいまで務めて信を問う傾向が強まっており、国際的な潮流とはかけ離れた日本の解散の状況が浮かぶ。首相の「大権」はどこまで許されるのか。【佐藤丈一、福永方人】
「解散は首相の専権事項だ。安倍政権は国会に丁寧な説明を行っており、そのような考えは全くない」。菅義偉官房長官は21日の記者会見で、臨時国会で質疑を行わないまま解散することを「国権の最高機関に対する愚弄(ぐろう)」とする野党の批判に反論した。
憲法69条は内閣不信任決議案が可決されれば解散か総辞職を義務づけているが、「69条解散」は現憲法下で4回のみだ。それ以外の19回は、天皇が内閣の助言と承認に基づき行う国事行為として解散を列記した7条を踏まえ、「内閣が独自に解散権を持つ」との考えに立って実施された。
今回も「7条解散」となる。元検事でコンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士は「解散は69条に限定され、7条は解散手続きを定めただけというのが素直な解釈だ」と指摘。7条解散でも「政府が基本政策を転換するなど、民意を問う特別の必要がある場合に限定すべきだ」と語る。
首相は衆院選で自衛隊を明記する憲法改正や、消費税率を10%に引き上げる際、増収分の使途を変更して子育て支援に充てることを訴える考えで、政策変更を迫られた自民党は公約作りに奔走している。郷原氏は「今回は民意を問う理由を後付けしようとしており、さらにおかしい。解散権を大きく逸脱している」と批判している。
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議会の解散は、国政上の対立が解消できなくなった場合、民意を問うことで局面打開を図る制度だ。経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国中、大半の国で採用されており、そのあり方は各国の成り立ちに基づいている。
「議会の母」と呼ばれるイギリスでは2011年、解散権を制限する「議会期固定法」が成立。不信任案の可決か、下院の3分の2以上の賛成などがなければ解散できなくなった。
英国議会に詳しい成蹊大の高安健将教授(比較政治学)は「固定法の成立前も、首相が恣意(しい)的に解散しようとすれば強い批判を浴びた。この40年ほどは支持率が高ければ4年、低ければ5年の任期切れ直前まで続けるサイクルがほぼ確立している」と指摘する。
ドイツは解散を厳格に制限している。ワイマール共和国時代、ひんぱんに解散・総選挙が行われて国情が不安定となり、ナチスの台頭を招いた反省からだ。解散に関する判断は憲法裁判所の審査対象で、解散自体も戦後3回に過ぎない。フランスでも00年以降は全て任期満了選挙だった。
日本と同じく内閣に幅広い裁量を認めるのはカナダなどわずかだ。東洋大の加藤秀治郎名誉教授(政治学)は「政府・与党の都合のみで解散できるのは、横綱だけに『待った』を認める相撲のようなものだ。無条件の7条解散は不公平で、解散権の制限を検討してもいい」と話している。