田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)
主要なマスコミ全てで、安倍晋三首相が臨時国会の会期中に解散・総選挙に打って出るという観測記事を流している。訪米していた安倍首相は、帰国した時点で解散か否かを決断するといわれている。
現在の衆議院議員の任期は来年の年末まである。つい最近までもっともらしいと思われていた解散スケジュールは、憲法改正案の国民投票とセットで来年末に衆議院を解散して信を問うというものだった。また嘉悦大学の高橋洋一教授のようにその段階で、同時に消費税凍結についても安倍首相は提示するのではないか、とする論者もいた。
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もし、各種報道の観測記事の通りであるとすれば、最近の内閣支持率の上昇傾向と北朝鮮リスクへの長期的に対応するための政治的な基盤固め、というのが解散の主要な動機になるだろう。
安倍政権に反対を述べる勢力では、「解散の大義がない」と主張する人たちもいる。素朴な観察では、最近まで反安倍の人たちの多くは、森友学園問題・加計学園問題の責任から首相に退陣を迫っていたはずである。ならば、今回の解散風は「大義がない」どころか、反安倍派の人たちにはまたとない「大義」を問うタイミングではないだろうか。解散に反対かのような発言をするのは全く首尾一貫していない。
ちなみに私見では、連載でも何度も書いたように、森友・加計学園問題には、首相の責任を政治的・道義的に問うものは存在しないので、反安倍の人たちの学園問題を理由にした「大義」には賛同しかねる。
もちろん歴代首相はみな党利党略で議会解散を利用してきただろう。そして反対する陣営もまた同様である。東京都の小池百合子知事を事実上の党首とするだろう新党が本格的に機動する前や、または民進党がスキャンダルや同党議員の大量離脱で混乱する機会を狙って解散する、というのはありそうなことである。また同時に、反安倍派の人たちが、選挙のタイミングとしては得策ではないので、現時点の解散に「大義」などを持ち出して批判的なのも理解できる。理解できるだけでもちろん賛同はしていない。
例えば、共産党の小池晃書記局長の発言はこの種のわかりやすい例を示している。小池氏は、8月3日のツイートでは、森友・加計学園問題隠しなどで内閣改造を行っているとした上で、「内閣改造ではなく、内閣総辞職、解散・総選挙が必要」と記者会見で発言したと書いている。ところが、9月17日には「臨時国会冒頭解散。いったい何を問うのか。もともと『大義』とは縁もゆかりもない政権だとは思っていたがここまでとは。森友隠し、加計隠しの党利党略極まれり」と書いている。このような矛盾した発言は、なにも小池氏の専売特許ではない。わりと頻繁に出合う事例である。