IoTの決め手は職業研修と教育にあり

ドイツがIoT導入を政府によるトップダウンで行う理由(第2回)

2017年9月22日(金)

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 物のインターネット(IoT)については、日本でも多くの企業が研究を進めている。だがその推進の仕方に、ドイツと日米の間に大きな違いがあることは、あまり知られていない。日米では民間主導で始まったのに対し、ドイツは最初から政府主導で推進されてきた。なぜこのような違いが生じたのだろうか。前回に続いて、ドイツのIoT普及が、最初から政府によるトップダウンで行われている理由についてお伝えする。
(写真:Enis Aksoy/Getty Images)

 日本や米国のIoTについての取り組みは政府主導ではなく、大手企業が個別に研究を進める形で進んできた。これに対しドイツでは、2011年4月1日にドイツ連邦教育研究省と政府の諮問機関ドイツ工学アカデミー(acatech)が製造業のデジタル化計画「インダストリー4.0」を発表して以来、政府の強力なイニシアチブの下に進められている。

国がIoT推進機関のトップに

 前回の本欄では、ドイツ政府がIoT普及プロジェクトに最初から大きく関与している理由の1つとして、同国製造業の屋台骨である中小企業への配慮を挙げた。大企業に比べると資金面で不利な中小企業が、デジタル化の波に取り残されないようにするためである。

 その代表的な例が、IoTの推進機関「プラットフォーム・インダストリー4.0(PI4)」の活動である。PI4は、2013年にドイツ機械工業連盟(VDMA)などの経済団体が創設。2015年には連邦経済エネルギー大臣と連邦教育科学大臣が、PI4の最高責任者に就任した。

 PI4の執行委員会には、ソフトウエアメーカーSAP、大手機械・電機メーカーのシーメンス、自動車部品メーカーのボッシュなどIoTに最も積極的な企業やフラウンホーファー研究所などの研究機関が代表を送り込んでいる。また法務省、内務省、労働省などの中央省庁も代表を参加させている。PI4は、インダストリー4.0に関する戦略を策定し、進捗状況を監視するとともに、国際標準や規格をめぐり国際機関や個別の国々と協議する。

ノウハウ伝達で中小企業支援

 PI4の重要な任務の1つは、中小企業支援である。たとえばPI4は、インターネット上に「インダストリー4.0・デジタル地図」を公表している。

 この地図をクリックすると、どの町でどの会社がインダストリー4.0に関連した技術を実用化しているかを知ることができる。たとえば、バイエルン州北部アンベルクをクリックすると、シーメンス社がインダストリー4.0の技術を部分的に応用したパイロット工場に関する説明が浮かび上がる。CPS(サイバー物理システム)を利用したこの工場では、製造工程の75%が自動化されており、世界中から見学者が絶えない。またシュトゥットガルト郊外のフェルバッハという町をクリックすると、精密機械メーカー、ヴィッテンシュタインのパイロット工場についての説明が現れる。

 現在約300社がデジタル地図上にIoT技術の具体的な応用例を公開している。この地図を見ると、伝統的な物づくりのメッカで、トュフトラーが多いバーデン・ヴュルテンベルク州に、IoTを実用化している企業の数が多いことがわかる。全国で最多の数を誇る。特に同州の州都シュトゥットガルト周辺に、インダストリー4.0に関する技術を応用し始めた企業が集中する、「IoTクラスター」とも言うべき地域がある。

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「IoTの決め手は職業研修と教育にあり」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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