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賢者の孫 作者:吉岡剛
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最高潮に高まりました

お待たせしました。

短いですが投稿します。

それと、活動報告にお知らせがあります。
 今さらながらに戦力の確認を行っていた俺たちだったが、その最後にオーグが俺に聞いてきた。

「ところで……例の切り札のことなんだが」

 オーグがそう言った瞬間、周りの皆が緊張した。

 オリビアなんかはマークの後ろに隠れてプルプルしてるし。

 シシリーは実験の時のことを思い出したんだろう、表情が青ざめていた。

「……本当に大丈夫なのか? お前が逆に世界を滅ぼすとか無いだろうな?」
「……」
「おい!」

 あれは、もし誤射してしまうと、世界は滅びないまでも深刻な爪痕は残す。

 それを考えると、安易に『大丈夫』とは言えなかった。

 その沈黙に対して、オーグが慌ててツッコミを入れてきた。

「あ、ああ悪い。こればかりは簡単に答えられなくてさ」
「……つまり、その可能性はあるということか?」
「滅びはしない。けど……」
「それなりの被害は出る……ということか」
「誤射すれば……ね」

 とりあえず魔法に指向性を持たせることには成功している。

 それでも、撃つ方向を間違えると大惨事になる。

 本当に気を付けないとな……。

「全く……物騒な話をしてるねアンタたちは……」
「あ、ばあちゃん」

 俺たちの会話を聞いていたんだろう、ばあちゃんたちが話に入ってきた。

「ホッホ、頼もしいことじゃて。のうシン、良かったら後でその魔法の概要を……」
「絶対に教えるんじゃないよ! この無自重爺さんに教えたら絶対に使おうとするからねえ!」
「いや……そんなことは……」
「あるから言ってんだよ!」

 不用意な発言をした爺さんがばあちゃんに締め上げられてる。

 なにやってんだか……。

 仲良くじゃれ合ってる爺さんとばあちゃんを見ていると、別の人から話しかけられた。

「まさか、シンと共に戦場に出る日が来るとはな」
「あ、ミッシェルおじさん」
「師匠!」

 ん? 師匠?

「ミランダか。まさか、お前まで参加することになるとはな」

 ああ、そうか。

 ミランダって今ミッシェルさんの指導を受けてるんだっけ。

「自分の意思じゃ無いですけどね……」
「なによお、まるで私が拉致してきたみたいじゃない」
「拉致はされてないけど拒否権もないでしょ! こんな……世界の命運を分ける戦いにアタシが必要だなんて言われて……」
「あれ? 意外とやる気だった」
「こういう戦いに憧れるのと、現実は違うのよ……」

 途中からマリアも入ってきた。

 まあ、なんだかんだ言ってミランダは頼まれたことは最後までやってくれるんだけどね。

 バイブレーションソードの指導もやってくれたし。

「なに、こういう戦いに参加することは自分を高めることになる。私も若い頃魔人討伐に駆り出されたことがある」

 そうか、ミッシェルさんは年齢的に前の魔人討伐に関わってたのか。

「ど、どうだったんですか?」

 ミランダは聞いたことがないんだろう。

 俺もミッシェルさんの話は聞いたことない。

「当時、私はまだ騎士団に入って間もない若造でな。魔人の力に圧倒されて……正直、ここで死ぬんだなと思った。マーリン殿が駆けつけてくれなければどうなっていたか……」

 ちょっと……皆の士気を下げるようなことを言わないでくれる?

「まあ、今回は前回とは大分様子が違うがな。我々にはシンがいる。君たちアルティメット・マジシャンズがいる。随分と希望に満ちているよ」

 一瞬不安そうな顔をした俺たちに気を使ったのか、そんなことを言うミッシェルさん。

 剣聖にそんなこと言われたもんだから、皆まんざらでもなさそうな顔してる。

 現金なもんだ。

「あの……ミッシェル様、よろしいですか?」
「ん? おお、誰かと思えばドミニクではないか。久しいな」
「ミッシェル様も……随分とお元気そうで」

 タイミングを見計らっていたのか、軍務局長のドミニクさんが、ミッシェルさんに話しかけた。

 ミッシェルさんが前の騎士団総長って本当だったんだな。

 あの強面のドミニクさんが超恐縮してる。

「それで、どうしたのだ?」
「いや……これから魔人戦なので、皆の士気を高めようと思ってまして……」
「そうか、大事なことだな」
「はい、なので私語は慎んでいただけると……」
「おお、すまんな」
「ありがとうございます。それでは……」

 そう言って皆の方を向こうとした時、ブツブツ言ってるのが聞こえた。

「これから魔人と戦うのになんであんなに余裕なんだ……しかもミッシェル様、バイブレーションソードじゃないし……」

 そういえば、ミッシェルさんバイブレーションソードじゃないな。

 まあ、余裕があるのは過去にも魔人と戦ったことがあるからだろうな。

 死にかけたらしいし。

 やがてドミニクさんが隔壁の前に集まっている各国の兵士に向かって演説を始めた。

 ちなみに、今回の作戦の総責任者はアールスハイドの軍務局長であるミッシェルさんだ。

『全員、準備はいいか! いよいよこの時が来た!』

 ドミニクさんが拡声の魔道具を使って話し出すと、皆静まり返った。

『今回の我々の相手は大量の災害級、そして大量の魔人だ』

 改めて言葉にすると凄いな。

 本来、滅多に出ない災害級の魔物に、過去一度しか例のない魔人。

 それが大量発生しているという。

 まさしく異常事態だ。

『だが臆することはない! 諸君らはそれに対抗するすべを持っている! それを提供してくれた、救世の英雄がついている!』

 ちょっ、救世の英雄ってなにさ。

 大袈裟過ぎだよ。

『そして何より……今回の作戦には賢者殿と導師殿がついている!』

 ドミニクさんのその言葉で、兵士さんたちは一気に沸き返る。

 やっぱり、俺より爺さんたちの人気の方が凄い。

 まあ、生ける伝説だしな。

 皆爺さんたちの英雄譚を聞いて育った世代だ。

 その英雄と同じ戦場に立てるとなれば、そりゃあ士気も上がるってもんだ。

『自信を持て! 臆する必要などどこにもない!』

 そしてドミニクさんは最後の一言を言った。

『世界を救うぞ!!』

『ウオオオオオオオオオオッ!!』

 これは凄い。

 兵士さんたちの雄叫びで空気が震えている。

 ビリビリと服が震えているのが分かる。

 皆の士気が最高潮に高まったその時。

『フフフ、随分と勇ましいですねえ』

 まるで水を差すように、シュトロームの声が響いた。
 

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