高口康太の「中国ビジネス最前線」

2017年9月22日

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高口康太 (たかぐち・こうた )

ライター・翻訳家

1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国・南開大学に留学後、ライター、翻訳者として活動。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)

 屋台の肉まん売りや農村にまで金融サービスを提供する。アントフィナンシャル社旗下のネット銀行「網商銀行」(マイバンク)のフィンテック(新たな金融テクノロジー)は革命的だ。

写真:ロイター/アフロ

 記事「中国でキャッシュレス化が爆発的に進んだワケ」において、私は支付宝(アリペイ)に代表される中国モバイル決済はインフラだと指摘した。モバイル決済を通じて収集された莫大なビッグデータは次なる革新的サービスを生み出す土壌なのだ、と。「『信用の可視化』で中国社会から不正が消える!?」で紹介した信用スコア「芝麻信用」、そして今回紹介する網商銀行のフィンテックはその具体例だ。

「3・1・0」の超高速融資システム

 網商銀行は2015年に設立された、アントフィナンシャル社旗下のネット銀行だ。銀行とはいっても店舗での預金業務は扱っていない。小規模企業、個人事業者、農家への融資に業務は絞り込まれている。

 「網商貸」と名付けられた小規模企業、個人事業者向けの融資サービスは凄まじくスピーディーだ。スマートフォンのアプリから融資申請を提出。すると即座にコンピューターで融資判断を下し、数分以内に送金されるという仕組みになっている。

 アントフィナンシャル社はこの超高速融資システムを「3・1・0」という言葉で説明している。融資申請の記入に必要な時間は約「3」分。提出すると「1」秒でシステムが融資可否を判断する。そして審査にたずさわる人間は「0」。AIによる審査のみで判断を下しているのだ。

 AIは何を材料に判断を下しているのか。それは芝麻信用と同じく、ネットショップの取引記録などアリババグループのデータなどを統合したビッグデータによって信用を評価している。利息も信用に応じて1日0.016%から0.047%まで変化する。信用を高めれば高めるほど低金利で資金が調達できるわけだ。

 ユニークなのが信用評価だけではなく、申請者がお金を必要としているコンテキストをも審査材料としている点だ。

 「セールのために在庫を増やそうとしている。あるいは売掛金の回収が遅れているためにつなぎ資金が必要だ。こうした融資の申請理由が正しいかどうかを人間ではなく、AIが判断します」と網商銀行広報担当者の劉婕氏は言う。いくらでもウソをつけそうに思えるが、網商銀行は過去の取引状況や現在の経営状況、さらには申請者の現在地といった情報を収集しているほか、AI技術によって「刷単」(架空取引によって店舗に実際以上の顧客、人気があるように見せかけること)を見破る能力もあり、正確な判断が下せると胸を張った。実際、返済不履行は1%未満にコントロールできているという。

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