プロ野球の日本シリーズが今日から始まる。
“神ってる”広島は、セリーグで25年ぶりの優勝を果たした。クライマックスシリーズ(CS)ではDeNAを圧倒し、直後に黒田博樹投手が引退を発表したため、“絶対に負けられない”頂上決戦となった。
かたや日本ハムは、独走したソフトバンクに一時11.5ゲーム差をつけられながら、“怒涛の追い上げ”で逆転してパリーグ優勝を果たした。クライマックスシリーズでも、再びソフトバンクを突き放しての日本シリーズだ。
勝負は時の運。どちらが勝つかは簡単には予想できない。
ただし野球中継の札幌と広島での視聴率対決は、どうやら広島が勝りそうな勢いである。地元の視聴率は、いわばファンの熱量を示すバロメーター。熱い応援を受けて戦う選手たちには、大いに追い風となる。
実際にCSファイナルでは、セパ両リーグとも地元の視聴率が高かったチームが日本シリーズ進出を果たした。
例えばソフトバンクと日本ハムが戦ったパリーグ。両チーム地元の視聴率を比べると、全試合で札幌が北部九州を大きく上回った。しかも第二と第四戦はソフトバンクが勝利したにも関わらず、北部九州は視聴率で札幌に負けている。日本ハムを応援するファンの熱量が、ソフトバンクを大きく上回っていた証拠である。
広島とDeNAが戦ったセリーグのCSファイナルについては、視聴率による厳密な比較ができない。広島では全試合が中継されたが、DeNAの地元・横浜は関東広域圏のため、同じようには中継されなかったからである。
ただし広島での視聴率は凄まじかった。
初戦が45.6%、第二戦43.5%。第三戦はDeNAに一矢を報いられたにも関わらず、48.1%と最高記録をマークした。そして日本シリーズ進出を決めた第四戦は、デイゲームだったにも関わらず31%という驚異的な数字を叩き出した。占有率にすると4戦で最高の67.9%となった。
しかも広島の“神ってる”視聴率は、CSに限らない。リーグ優勝を決めた試合でも異常な数字が出ていたのである。
例えば日本ハムは、9月28日(水)に優勝を決めているが、そこまでのプロセスを見ると、22日(木)25.2%、23日(金)24.2%、25日(日)26.3%と25%前後を連発し、優勝決定試合は30.4%と30%台に乗せた。
これだけでも驚異的な数字だが、広島は格が違う。一足早く9月10日(土)に優勝を決めているが、6日(火)37.0%、7日(水)30.8%、8日(木)42.0%と日ハムより6~16%ほど高い数字を連発し、優勝決定試合はなんと60.3%と60%台に乗せてしまった。この数字は広島地区の歴代2位。毎分の最高は71.0%。裏のチャンネルは全て一桁という惨敗ぶりだった。
このように広島25年ぶりのリーグ優勝には、歴史的な大記録が伴ったのである。
ところで広島の“神ってる”視聴率からは、2つの意味合いを読み取ることができる。1つ目は、テレビ離れが言われて久しいテレビ局冬の時代だが、視聴率は編成の工夫次第でまだまだ高い数字を出すことが可能という話だ。
リーグ優勝直前の数試合やCSで見ると、広島や日ハムより視聴率は5~15%高かった。地元の熱量の違いだが、優勝決定試合に限っては、30%まで差が広がっている。通常の2~4倍に差が広がった。実は優勝決定試合はNHKが中継したが、その直前の編成に工夫があった。
2日前の8日(木)には、『クローズアップ現代+』が「“神っている”広島カープ優勝へ」を放送し、関東では視聴率は6.2%に留まったが、広島地区では14.1%を獲っている。
前日の9日(金)には、よる7時32分から全国放送を脱して、広島地区だけ『カープ 25年ぶり優勝へ~悲願達成へカウントダウン~』を急きょ編成した。視聴率は14%。
そして当日も、夕方から『鯉昇れ、焦土の空へ』『5分で鯉に聞いてコイ!(中崎選手)』『39歳のがむしゃら野球~2000本安打 新井貴浩選手~』『5分で鯉に聞いてコイ!(新井選手)』などを再放送で縦に編成し、さらに野球中継も5時55分から広島地区だけ前倒しで中継を入れた。さらに6時からはサブchを使って全国ニュースの裏で試合の模様を中継し続けた。こうして夜7時30分からの本中継に入り、視聴率60.3%といういまどき“あり得ない”数字につなげていたのである。
ちなみに60.3%世帯のうち前日の特番を見た家庭は25.5%。当日の試合中継直前の数々の特番いずれかを見たのは39.5%に及ぶ。優勝決定戦ということが最も大きい要因ではあるが、“カープ25ぶりの優勝”を盛り上げる特番を幾つも並べたことが視聴率急膨張に大きく貢献したことは想像に難くない。
もう1つの意味合いは、プロ野球もいよいよ地元とのつながりが重要な時代に入ったという点である。
プロ野球とテレビの関係は、日本テレビが後楽園球場の放映権を独占したことで、野球人気もテレビ局経営も大きく潤った歴史を持つ。巨人戦のホームゲームを年間60試合以上の全国放送を続け、テレビの普及に大きく貢献した。これと共に巨人ファンは全国に広がり、1シーズンの平均視聴率も75年から90年まで連続で20%を超えるほどになっていた。特に83年は27.1%と驚異的な数字を出している。59年の天覧試合やONの活躍で、巨人戦中継は大いに数字を稼ぐようになり、同時に日テレにとってドル箱コンテンツに成長していった。
ところが巨人戦中継は2000年に20%を切った後、わずか5~6年で10%も切り、一桁コンテンツと夜の放送に値しない番組になっていった。事実16年の巨人戦(ナイター)中継は数えるほどしかなく、しかも伝統の「巨人vs阪神戦」でも、わずか7.2%しかとれていない(5月28日)。また巨人は10年連続でクライマックスシリーズに出場したが、日テレはDeNAとの試合をデイゲームとし、しかも第2戦は中継すらしなかった。
日テレ大久保社長も定例記者会見で「下がっているのは事実」「残念に思っている。このままではいいと思っていない」と発言。巨人戦中継打ち切りの可能性が取りざたされたほどである。
これほど巨人戦中継の価値が上がってしまったのは、全国区で売るためのプロモーションにウェイトを置いた半面、フランチャイズとしての価値開発を疎かにした結果と言えよう。1993年にサッカーのJリーグが開幕して以降、スポーツビジネスは明らかに地域重視の方向に動き始めた。生活者の価値判断は、“自分事”により傾いてきた。その時代にON時代のような大艦巨砲主義のままの球団のあり方に、多くの人が背を向けてしまったのである。いっぽう、地域に根差した球団経営に勤めた日本ハム(札幌)・東北楽天(仙台)・中日(名古屋)・阪神(関西)・広島(広島)・ソフトバンク(福岡)などは、地元で熱狂的なファンを多く集め、地元での試合中継では高い視聴率を保ち続けていたのである。
以上のような流れの中で、本日激突する「広島vs日ハム」の日本シリーズ第1戦。
二刀流・大谷翔平と“神ってる”広島打線との対決など、話題はいっぱいある。それでも試合の行方は時の運。どちらが勝つか興味は尽きないが、もう一つ札幌地区と広島地区での視聴率がどうなるか、歴史的な記録が出る予感に満ちている。注目したい。
- ツイート
- シェア
- ブックマーク