テントウムシのはねを折り畳むメカニズムを解明
折り紙のような折線、テープ・スプリング構造の翅脈が工学的応用のヒントに
情報理工学系研究科
2017/09/08
人工のはねをもったテントウムシ
今回研究グループは、人工の透明な前ばね(さやばね)を、ナナホシテントウムシへと移植し(左)、はねの折り畳み過程を詳細に観察した。人工のはねは紫外線硬化樹脂でできており、さやばね内側表面のシリコン製の型から造られている。
© 2017 斉藤 一哉
東京大学生産技術研究所の斉藤一哉助教(当時、現:情報理工学系研究科特任講師)らの研究グループは、テントウムシがはねをどのように折り畳んでいるのかを、透明な人口ばねをテントウムシに移植し、その基礎となる折り畳みのメカニズムを観察することで解明しました。本研究成果は、はねがいかにして飛行時には強度と剛性を保ち、地上ではコンパクトに折り畳み収納ができる柔軟性を持つのかを明らかにし、人工衛星用アンテナからミクロな医療機器、傘や扇子などの日用品まで、形状変化構造を持つ製品の先進的なデザインへの幅広い応用が期待されます。
テントウムシは高い移動能力を持つ昆虫で、はねを素早く展開・収納できるため、歩行と飛行を容易に、かつ素早く切り替えることができます。テントウムシのはねは、見慣れた水玉模様が付いている硬くなった前側のさやばねと、飛翔に使われる柔らかい膜状の後ろばねから構成されています。歩行する際には後ろばねはさやばねで覆われ、守られています。
これまでの研究から、腹部の上下の動きや、複雑な折り紙のようなはねの折線パターンが、折り畳みに重要な役割を果たしていることが知られていましたが、その単純な動きでどうやって複雑な折り畳まれた形状にできるのかは謎のままでした。テントウムシははねを折り畳む前にさやばねを閉じるため、詳細な仕組みの観察が難しく、また、さやばねは折り畳みに必要であるため、その下に何があるのかを明らかにするために取り除くこともできません。
折り畳みメカニズムと構造を研究するため、研究グループは、ナナホシテントウムシからさやばねを取り除き、そのはねから取ったシリコンの型を使用して、ネイルアートでよく使われる透明な紫外線硬化樹脂から透明な人工さやばねを造り、それをなくなった前側のはねに置き換えるように移植しました。
グループは、高速度カメラを用いて後ろばねの折り畳みと展開の動きを観察しました。そして、テントウムシが、その湾曲が後ろばねの翅脈の特徴的なカーブの形状に一致するさやばねのエッジと下面を器用に使って、折線に沿ってはねを折り畳み、同時に腹部を持ち上げる動きで、後ろばねを背中の収納場所へとこすりながら引き込んでいることを、発見しました。
「ネイルアートの樹脂からできた人工さやばねで、テントウムシがはねを折り畳むことができるかどうかはわかりませんでした」と斉藤助教は話します。「テントウムシが折り畳むことができたとわかったときには驚きました。」
さらに、本グループは、飛翔に必要な剛性と強度、そして折り畳みを容易にする柔軟性のもととなるはねの変形メカニズムを解明するため、マイクロCTスキャナを用いて展開時と収納時のはねの3次元形状と、後ろばねの硬い部分における屈曲点を調査しました。研究者らは、巻尺でも知られる測定に使われる機構であるテープ・スプリング機構に酷似した翅脈のカーブした形状が、はねを支えるのに役立っていることを解明しました。テープ・スプリングのような類似の構造は、伸ばした際にも強く安定していますが、自由に折り曲げてコンパクトに収納できるもので、人工衛星用アンテナのような宇宙で展開可能な構造の延長ブームやヒンジとして広く利用されています。
「複雑な折り畳みを成し遂げるテントウムシの技術は、特にロボット工学、航空宇宙や機械工学の分野の研究者にとっては、かなり魅力的で新奇なものです」と斉藤助教は話します。
テントウムシが、飛翔のために後ろばねを強く安定させるという要件と、同時に着陸後は折り畳みコンパクトに収納するために後ろばねをしなやかにするという矛盾する要件をいかに満たすことができるかを解明することは、工学上重要な影響を持つものです。
論文情報
, "Investigation of hindwing folding in ladybird beetles by artificial elytron transplantation and micro computed tomography", Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America Online Edition: 2017/05/16 (Japan time), doi:10.1073/pnas.1620612114.
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