特集 PR

岸野雄一に聞く『札幌国際芸術祭』でなにが起こっているのか?

岸野雄一に聞く『札幌国際芸術祭』でなにが起こっているのか?

『札幌国際芸術祭』
インタビュー・テキスト
中島晴矢
撮影:小牧寿里 編集:宮原朋之

ゲストディレクターに大友良英を迎え、この夏から開催されている『札幌国際芸術祭2017』。国際展や芸術祭が乱立する現在に、「芸術祭ってなんだ?」というテーマを掲げ、芸術祭を根源的に問い直そうとする意欲的なアートフェスティバルだ。

現地では美術作品の展示ばかりでなく、地元の人たちに広く参加してもらったプロジェクトや、無数のイベントが開催されているという。パフォーマティブな実践が混ざり合い、「札幌でしかできないこと」が現地で立ち起こっている状況が、ダイナミックで非カタログ的な『札幌国際芸術祭』の最大の魅力だろう。反面、実際に現地に足を運ばないかぎり、様々な場所で日々勃発するプログラムの全体像を捉え難いのも事実だ。

そこで今回、現地の状況を伝えるべく、『札幌国際芸術祭』で複数のプロジェクトに関わった岸野雄一に話を伺った。現場の視点から『札幌国際芸術祭』、さらには今日の芸術祭のあり方を浮き彫りにし、ひいては「その先」にある可能性を占うきっかけになるかもしれない。

街頭テレビの時代とは違って、いま「皆で集まってなにかを見る」ということが失われているのではないか?

—まずは『札幌国際芸術祭』のプレイベントとして行われた『さっぽろ雪まつり』でのプロジェクトについてお聞かせください。

岸野:芸術祭は夏からの開催でしたが、先回りして冬の段階から、札幌の一大モニュメントである雪まつりで芸術祭の予告編をやろうと、大友さんから「北海道の皆さんの心を掴んで欲しい」と派遣されたんです。俗な言い方をすると芸術祭チームの特攻隊長(笑)。黒柳徹子さんがテレビを携えている雪像の舞台で『トット商店街』という作品を手がけました。表現としては影絵とアニメーション、プロジェクションマッピング、そして舞台上で演じられる演劇、それらを総合的にミックスした公演を行いました。

岸野雄一
岸野雄一

『トット商店街』の公演の様子 撮影:秋田英貴
『トット商店街』の公演の様子 撮影:秋田英貴

—実際に黒柳徹子さんがナレーションでも出演されているんですね。

岸野:黒柳さんはテレビの黎明期からご活躍されている方なので、皆で集まって見ていた街頭テレビの時代を知っている世代です。僕は、いま「皆で集まってなにかを見る」ということが失われているのではないかと考えていたんです。それを一度きちんと捉え直すために、巨大な街頭テレビが置かれたステージで、過去から現在、そして芸術祭までの時間をつなげていきました。

—具体的にはどんなステージだったのでしょう?

岸野:原始的な影絵の表現から始まって、段々とそこにアニメーションが加わってきたり、影絵を動かしていたはずの黒子がステージの表に出てきたり、メタ的な構造でメディア史の進化の過程を描きました。

『トット商店街』の公演の様子 撮影:秋田英貴
『トット商店街』の公演の様子 撮影:秋田英貴

岸野:ラストは、テレビ画面のなかに雪まつりの会場そのものがリアルタイムで映し出されて、さらにその映像が画面のなかで転倒して、舞台の向こう側に実際にあるさっぽろテレビ塔が透けて見える。「この場所でしかやれないこと」をやったわけですね。

—観客からの反応はいかがでしたか?

岸野:とても良かったと思います。コンセプトはいまお伝えした通りですが、描かれている内容は「日本の四季」というシンプル極まりない題材なので、言葉のわからない海外の方でも理解できた。大衆的ではあるけれども、その後の『札幌国際芸術祭』ともコンセプトの面でズレのないものができたと思います。

『札幌ループライン』は、市電に乗っていたときの記憶を思い出すような感触をテーマに共作しました。

—同じ雪まつりの会場にクワクボリョウタさんと共同制作された『札幌ループライン』という作品も展示されていました。

岸野:札幌に走っている市電は、40年以上ずっと一部分のループが欠けていたんですが、2015年につながったんです。そのことは意義深いことだと考えていました。市電がループでつながることで地域が活性化して沿線が賑わい、新しい人の行き来が生まれる。普段から路線図に興味があっていろんな地域のものを集めたりしているんですが、交通インフラでその土地の文化って決まってくるんですよ。

そのループを使って、もともとクワクボさんが制作されていた模型の電車の先頭に照明をつけて影を表出させる『LOST』という作品シリーズとコラボレーションしました。この装置をもとに、札幌の市電に乗ったとき見えてくる風景であるとか、かつてそこにあったものなどが浮かび上がるようにしたんです。

SIAFラボ アーティストセレクション クワクボリョウタ『LOST#13』

『札幌ループライン』 撮影:秋田英貴
『札幌ループライン』 撮影:秋田英貴

岸野:いまの現実の風景の完全な再現ではなくて、かつて沿線にあった誰もが見てきたものが見えてくるという仕掛けです。たとえば「声」という喫茶店名の看板はいまはもう無いけれど、それが作品のなかで浮かび上がってくると、徐々に子供の頃の個人的な記憶が掘り起こされてくる。「あ、見たことある!」と記憶が押し寄せてくるんですよ。そういった頭のなかの風景をそこに現出されるようにして、何気なく市電に乗っていた日常のことを思い出すような感触をテーマに共作しました。

『札幌ループライン』の光景が『トット商店街』ステージにも映し出される 撮影:秋田英貴
『札幌ループライン』の光景が『トット商店街』ステージにも映し出される 撮影:秋田英貴

—岸野さんは他にも『DJ盆踊り in さっぽろ夏まつり』というプロジェクトも主導されていました。

岸野:『トット商店街』が街頭テレビを取り上げたように、『DJ盆踊り』もかつてみんなで集まった「村祭り」をアップデートしようという試みでした。一見、アートとは無関係のようにみえる盆踊りですが、サイトスペシフィック(特定の場所に存在するために制作された美術作品)の文脈で考えると、作品のひとつでもあるわけですね。

開催場所は、戦後間もなくから毎年行われている伝統ある『北海盆踊り』。そこにお邪魔するということで、怒られないか不安もありました(笑)。

Page 1
次へ

イベント情報

『札幌国際芸術祭2017』

2017年8月6日(日)~10月1日(日)
会場:北海道 札幌 札幌芸術の森、モエレ沼公園、まちなかエリア、円山エリア、札幌市資料館、JRタワープラニスホール、札幌大通地下ギャラリー500m美術館ほか
参加作家:
ARTSAT×SIAFラボ
アーノント・ノンヤオ
EYヨ
相川みつぐ
Adam Kitingan
アヨロラボラトリー
有泉汐織
イ・カホ
五十嵐淳
イサム・ノグチ
石川直樹
伊藤隆介
WinWin
植野隆司
上ノ大作
上原なな江
宇川直宏
梅田哲也
MC MANGO
大黒淳一×SIAFラボ
大城真
大友良英
大友良英+青山泰知+伊藤隆之
オーレン・アンバーチ
OKI
勝井祐二
カミーユ・ノーメント
カリフ8
菊澤好紀
岸野雄一
グエン・タン・トゥイ
クリスチャン・マークレー
栗谷川健一
クワクボリョウタ
今野勉
斎藤歩
斎藤秀三郎
斉藤幹男
酒井広司
Sachiko M
札幌大風呂敷チーム×プロジェクトFUKUSHIMA!
さや
沢則行
さわひらき
C・スペンサー・イェー
篠原有司男
湿った犬
東海林靖志
白濱雅也
鈴木昭男
鈴木悠哉
高橋幾郎
タノタイガ
陳建年
鄭捷任
chi too
張惠笙
チョン・ヨンドゥ
珍盤亭娯楽師匠
都築響一
dj sniff
DJ方
荻部絲
テニスコーツ
テンテンコ
刀根康尚
中崎透
中ザワヒデキ
中村としまる
ナムジュン・パイク
のん
灰野敬二
陳世川
端聡
ハットコペ
原田郁子
東方悠平
PIKA
樋口勇輝
藤倉翼
富士翔太朗
藤田陽介
宝示戸亮二
堀尾寛太
松井紫朗
蜜子舞賽
マレウレウ
三岸好太郎
水内義人
南阿沙美
ムジカ・テト
毛利悠子
山川冬樹
ユエン・チーワイ
指輪ホテル
吉田野乃子
吉増剛造
米子匡司
リチャード・ホーナー
YPY
渡辺はるか
渡部勇介
ワビサビ
赤平住友の炭鉱遺産:坑内模式図
木彫り熊
大漁居酒屋てっちゃん
北海道秘宝館「春子」
三松正夫の昭和新山火山画
レトロスペース坂会館

プロフィール

岸野雄一(きしの ゆういち)

1963年、東京都生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科、美学校等で教鞭をとる。「ヒゲの未亡人」「ワッツタワーズ」などの音楽ユニットをはじめとした多岐に渡る活動を包括する名称としてスタディスト(勉強家)を名乗る。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

シャムキャッツ“Four O'clock Flower”

ただシャムキャッツの四人がフラットに存在して、音楽を鳴らしている。過剰な演出を排し、平熱の映像で、淡々とバンドの姿を切り取ったPVにとにかく痺れる。撮影は写真家の伊丹豪。友情や愛情のような「時が経っても色褪せない想い」を歌ったこの曲に、この映像というのはなんともニクい。(山元)