日本人には胃がんが多いが、その背景にはピロリ菌が作るタンパク質の結合様式の違いがある――そんな研究結果を9月20日、東京大学の研究グループが発表した。これまでも胃がんの発症にはピロリ菌への感染が関わっていると考えられており、日本を含む東アジア諸国と欧米のピロリ菌には発がん性の強さに違いがあったが、その原因は分かっていなかった。今回の研究で、東アジアと欧米のピロリ菌には生産するタンパク質の構造に違いがあり、それが発がん性の高さの違いにつながっていることが判明したという。
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、ヒトの胃粘膜にすみつく病原細菌で、感染すると胃潰瘍(いかいよう)や萎縮性胃炎を引き起こすほか、胃がんの発症原因にもなるといわれている。研究グループによると、発がんの過程にはピロリ菌が作り出す「CagA」(キャグエー)というタンパク質が関わっており、これがヒトの胃細胞に侵入して「SHP2」という酵素と結び付くことで、SHP2が異常に活性化し、細胞のがん化が促進されるとしている。
中でも日本を含む東アジアにまん延するピロリ菌が生み出すCagAは、欧米型CagAに比べてがん発症への影響が強いとされていたが、両者の違いがどのようにして生まれるかは分かっていなかったという。
今回研究グループは、2種のCagAを原子レベルで分析し、アミノ酸残基の違いによる立体構造の違いが発がん活性に影響していることを解明。欧米型の持つアスパラギン酸残基よりも東アジア型の持つフェニルアラニン残基の方が、よりCagAとSHP2の結合を安定化させるという。また、この安定した結合が胃細胞のがん化を強力に誘導するとしている。
今回の研究は、胃がん発症のメカニズムの科学的な解明に役立つほか、胃がんの予防や早期治療の開発などにもつながる可能性があるとした。
研究成果は、米国の科学誌「Cell Reports」(オンライン版)に9月19日付(アメリカ東部時間)で掲載された。
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