東芝 半導体子会社の売却先に“日米韓連合” 決議
買収総額は2兆円になる見通しで、アメリカのベインキャピタルのほか、東芝自身やほかの国内外の民間企業が出資します。
また、東芝と半導体事業で提携するアメリカのウエスタンデジタルが売却を阻止する動きを見せていることから出資を見合わせている官民ファンドの産業革新機構と政府系の日本政策投資銀行は、将来的な出資を検討しているとしています。
一方、関係者によりますと、東芝メモリの買収が半導体市場の公正な競争をゆがめないかを判断する各国の競争法の審査を通りやすくするため、韓国の半導体メーカー「SKハイニックス」は、出資ではない形で資金を拠出します。
“日米韓連合”を売却先に決めたことについて、東芝は、「事業の安定的な成長や、来年3月末までの株式の売却の確度を総合的に勘案した結果」としています。
決定が遅れていた東芝メモリの売却先がようやく固まったことで、東芝は経営再建に向けて一歩前進することになります。ただ、ウエスタンデジタルの反発がさらに強まることも予想され、売却の実現にはなお曲折も予想されます。
混迷した売却交渉の経緯
【日米連合】
東芝メモリの売却先として、政府が当初、推し進めたのは、アメリカの投資ファンド「KKR」を中心に日本の官民ファンドの「産業革新機構」と政府系の「日本政策投資銀行」、それに日本の民間企業が加わる“日米連合”です。
経済産業省は、東芝が必要とする2兆円規模の資金を確保するため、日本の民間企業に“日米連合”への参加を呼びかけました。しかし参加企業は思うように集まらず、グループ作りは難航しました。
【日米韓連合】
経済産業省は、「日米連合」の構想を断念し、新たにアメリカの投資ファンド「ベインキャピタル」や韓国の半導体メーカー「SKハイニックス」と組む“日米韓連合”のグループ作りを進め、東芝に対し、“日米韓連合”を売却先とするよう強く働きかけました。
東芝は6月21日の取締役会で、“日米韓連合”を優先的な交渉先に決めましたが、6月中の最終合意を目指した交渉は難航しました。
東芝メモリをみずからが手中に収めたいウエスタンデジタルが、ほかのグループへの売却を阻止しようと、裁判所に交渉の差し止めを申し立てるなど、反発を続けたからです。
“日米韓連合”の中核を担うはずだった産業革新機構は、裁判所の判断という不透明な要素が残るかぎり出資はできないという慎重な姿勢を貫きました。
【ウエスタンデジタルと集中的に交渉】
ウエスタンデジタルの抵抗が続くかぎり、売却の実現は困難だと考えた経済産業省は、今度はウエスタンデジタルを売却先とするよう東芝への働きかけを強めました。これを踏まえて、東芝は8月24日の取締役評議会で、ウエスタンデジタル側と交渉を加速する方針を確認しました。
しかし東芝メモリの将来の経営の主導権をめぐる両社の主張の隔たりはなかなか埋まらず、ウエスタンデジタルは東芝にとってさらに厳しい条件を示し、交渉は事実上、決裂します。
こうした中、“日米韓連合”側は、SKハイニックスの経営への関与を抑えることや、当初は産業革新機構が参加しなくてもよいという売却を急ぐ東芝の意向に沿った追加提案を行いました。
【再び“日米韓連合”】
こうした状況を踏まえて、経済産業省は、ウエスタンデジタルへの東芝への売却を求める働きかけを弱めました。そして東芝は、今月13日、“日米韓連合”の中核である「ベインキャピタル」と、今月下旬の契約を目指すという覚書を交わしました。
【最終局面で】
しかしウエスタンデジタルと組むアメリカの投資ファンドの「KKR」は、19日になって産業革新機構と日本政策投資銀行との連名で、産業革新機構が大幅に出資額を増やして経営の主導権を握るという新たな枠組みを示し、東芝の判断は最終局面まで揺れることになりました。
東芝売却実現へなお3つの課題
【訴訟リスク】
最大の課題は、「訴訟リスク」です。
東芝と半導体事業で提携しているアメリカのウエスタンデジタルは、ほかのグループへの売却を阻止しようと国際仲裁裁判所に売却交渉の差し止めを求めています。
裁判所が結論を示す時期は不透明ですが、もしウエスタンデジタルの主張が認められれば、売却の契約自体が、いわば“ご破算”になりかねません。
【各国の競争法の審査】
課題の2つ目は、日本の独占禁止法に当たる「各国の競争法の審査」です。東芝メモリが事業を行っている国や地域の当局は、東芝メモリが“日米韓連合”に売却されることで、半導体市場の公正な競争がゆがめられるおそれがないかどうかを審査します。
この審査に時間がかかれば東芝は、経営再建に必要な資金を手にすることができなくなるため、審査が終わらなかった場合でも、東芝が求める来年3月末までに資金の投入を受けられないか、“日米韓連合”側と交渉する必要が出てきます。
“日米韓連合”の枠組みでは、この審査を円滑にクリアできるように東芝メモリと同じ「NAND型フラッシュメモリー」を製造している韓国の「SKハイニックス」は、議決権を握る出資は行わず、ベインキャピタルに、買収資金を拠出する形で参加します。
また将来株式を取得する場合も、経営への関与の度合いを抑える方向です。しかし日本の企業が関係する再編では、中国などの審査が想定以上に長引いて、企業の合併や統合が先送りされるケースもあり、予断を許しません。
【株主の承認】
3つ目の課題は「株主の承認」です。
東芝メモリの売却を進めるには、来月末に予定されている臨時の株主総会で、株主の承認を得ることが必要です。このほか中長期的には、東芝メモリの「将来的な経営の主導権」も課題です。
今後、東芝とウエスタンデジタルの対立が解消したとしても、官民ファンドの「産業革新機構」が、出資するかどうかは改めて検討される見通しです。このため日本勢が経営の主導権を握ることができるかを含めて将来の経営体制はなお不透明な状況です。
日商会頭「産業革新機構などに出資要請必ず来る」
そのうえで三村会頭は「産業革新機構などには将来の出資要請が必ず来ると思うので、そういうことも踏まえて適切な時期にコメントしたい」と述べました。
東芝 半導体子会社の売却先に“日米韓連合” 決議
経営再建中の東芝は、半導体子会社、東芝メモリの売却先として、“日米韓連合”の中心となっていたアメリカの投資ファンド、「ベインキャピタル」のグループと近日中に契約を結ぶと発表しました。東芝は、半導体子会社の東芝メモリを売却して来年3月末までに債務超過を解消し、株式の上場を維持したい考えです。
発表によりますと、東芝は、20日の取締役会で、東芝メモリの売却先を、“日米韓連合”の中心となっていたアメリカの投資ファンド、「ベインキャピタル」のグループとすることを決議し、近日中に契約を結ぶとしています。
買収総額は2兆円になる見通しで、アメリカのベインキャピタルのほか、東芝自身やほかの国内外の民間企業が出資します。
また、東芝と半導体事業で提携するアメリカのウエスタンデジタルが売却を阻止する動きを見せていることから出資を見合わせている官民ファンドの産業革新機構と政府系の日本政策投資銀行は、将来的な出資を検討しているとしています。
一方、関係者によりますと、東芝メモリの買収が半導体市場の公正な競争をゆがめないかを判断する各国の競争法の審査を通りやすくするため、韓国の半導体メーカー「SKハイニックス」は、出資ではない形で資金を拠出します。
“日米韓連合”を売却先に決めたことについて、東芝は、「事業の安定的な成長や、来年3月末までの株式の売却の確度を総合的に勘案した結果」としています。
決定が遅れていた東芝メモリの売却先がようやく固まったことで、東芝は経営再建に向けて一歩前進することになります。ただ、ウエスタンデジタルの反発がさらに強まることも予想され、売却の実現にはなお曲折も予想されます。
混迷した売却交渉の経緯
【日米連合】
東芝メモリの売却先として、政府が当初、推し進めたのは、アメリカの投資ファンド「KKR」を中心に日本の官民ファンドの「産業革新機構」と政府系の「日本政策投資銀行」、それに日本の民間企業が加わる“日米連合”です。
経済産業省は、東芝が必要とする2兆円規模の資金を確保するため、日本の民間企業に“日米連合”への参加を呼びかけました。しかし参加企業は思うように集まらず、グループ作りは難航しました。
【日米韓連合】
経済産業省は、「日米連合」の構想を断念し、新たにアメリカの投資ファンド「ベインキャピタル」や韓国の半導体メーカー「SKハイニックス」と組む“日米韓連合”のグループ作りを進め、東芝に対し、“日米韓連合”を売却先とするよう強く働きかけました。
東芝は6月21日の取締役会で、“日米韓連合”を優先的な交渉先に決めましたが、6月中の最終合意を目指した交渉は難航しました。
東芝メモリをみずからが手中に収めたいウエスタンデジタルが、ほかのグループへの売却を阻止しようと、裁判所に交渉の差し止めを申し立てるなど、反発を続けたからです。
“日米韓連合”の中核を担うはずだった産業革新機構は、裁判所の判断という不透明な要素が残るかぎり出資はできないという慎重な姿勢を貫きました。
【ウエスタンデジタルと集中的に交渉】
ウエスタンデジタルの抵抗が続くかぎり、売却の実現は困難だと考えた経済産業省は、今度はウエスタンデジタルを売却先とするよう東芝への働きかけを強めました。これを踏まえて、東芝は8月24日の取締役評議会で、ウエスタンデジタル側と交渉を加速する方針を確認しました。
しかし東芝メモリの将来の経営の主導権をめぐる両社の主張の隔たりはなかなか埋まらず、ウエスタンデジタルは東芝にとってさらに厳しい条件を示し、交渉は事実上、決裂します。
こうした中、“日米韓連合”側は、SKハイニックスの経営への関与を抑えることや、当初は産業革新機構が参加しなくてもよいという売却を急ぐ東芝の意向に沿った追加提案を行いました。
【再び“日米韓連合”】
こうした状況を踏まえて、経済産業省は、ウエスタンデジタルへの東芝への売却を求める働きかけを弱めました。そして東芝は、今月13日、“日米韓連合”の中核である「ベインキャピタル」と、今月下旬の契約を目指すという覚書を交わしました。
【最終局面で】
しかしウエスタンデジタルと組むアメリカの投資ファンドの「KKR」は、19日になって産業革新機構と日本政策投資銀行との連名で、産業革新機構が大幅に出資額を増やして経営の主導権を握るという新たな枠組みを示し、東芝の判断は最終局面まで揺れることになりました。
東芝売却実現へなお3つの課題
【訴訟リスク】
最大の課題は、「訴訟リスク」です。
東芝と半導体事業で提携しているアメリカのウエスタンデジタルは、ほかのグループへの売却を阻止しようと国際仲裁裁判所に売却交渉の差し止めを求めています。
裁判所が結論を示す時期は不透明ですが、もしウエスタンデジタルの主張が認められれば、売却の契約自体が、いわば“ご破算”になりかねません。
【各国の競争法の審査】
課題の2つ目は、日本の独占禁止法に当たる「各国の競争法の審査」です。東芝メモリが事業を行っている国や地域の当局は、東芝メモリが“日米韓連合”に売却されることで、半導体市場の公正な競争がゆがめられるおそれがないかどうかを審査します。
この審査に時間がかかれば東芝は、経営再建に必要な資金を手にすることができなくなるため、審査が終わらなかった場合でも、東芝が求める来年3月末までに資金の投入を受けられないか、“日米韓連合”側と交渉する必要が出てきます。
“日米韓連合”の枠組みでは、この審査を円滑にクリアできるように東芝メモリと同じ「NAND型フラッシュメモリー」を製造している韓国の「SKハイニックス」は、議決権を握る出資は行わず、ベインキャピタルに、買収資金を拠出する形で参加します。
また将来株式を取得する場合も、経営への関与の度合いを抑える方向です。しかし日本の企業が関係する再編では、中国などの審査が想定以上に長引いて、企業の合併や統合が先送りされるケースもあり、予断を許しません。
【株主の承認】
3つ目の課題は「株主の承認」です。
東芝メモリの売却を進めるには、来月末に予定されている臨時の株主総会で、株主の承認を得ることが必要です。このほか中長期的には、東芝メモリの「将来的な経営の主導権」も課題です。
今後、東芝とウエスタンデジタルの対立が解消したとしても、官民ファンドの「産業革新機構」が、出資するかどうかは改めて検討される見通しです。このため日本勢が経営の主導権を握ることができるかを含めて将来の経営体制はなお不透明な状況です。
日商会頭「産業革新機構などに出資要請必ず来る」
そのうえで三村会頭は「産業革新機構などには将来の出資要請が必ず来ると思うので、そういうことも踏まえて適切な時期にコメントしたい」と述べました。