成長期のベンチャーにおける採用の失敗
2011年2月「任侠道」などのゲームがヒットし、売上が伴ってきたとき、それは終わらないマラソンが始まったことを意味していた。
そして、以後横展開した「道」シリーズがヒットを飛ばしていくために、様々な問題が噴出し始める時期である。
プロジェクトを広げようにも、どのプロジェクトも人が足らない。
加えてエンジニアだけではない「初期の頃のメンバー」が退職を重ねていく時期でもあった。
バックオフィスも開発も、見よう見まねでやっていたところに経験者が入ってきて、ポジションが入れ替わるようなことが頻繁に起きていた。
「自分の好きだったgumiは死んだ」というような事を言って辞めていく人たちもいた。
開発現場でも、のんびりと仲良く売れないゲームを運営していれば良い時代は終わってしまったのである。
「任侠道」が明確なヒットを飛ばしている傍らで、のびのび結果のでないプロジェクトをやっていることは許される筈もなかった。
(揶揄しているわけではなく、急激に求められる事とレベルが変わった)
國光さんの掲げる大きな「夢」は売上という結果とともに動き始めていたからだ。
加えて、2011年9月には事業拡大のために「福岡オフィス」を設立することもあり、オフィス立ち上げのために東京の人員を何人か割く必要もあった。(何もかも「やる」と決めてからの実行が早い)
とにかく平行していろいろなことが起きていた時期である。
そういう意味では一刻も早く人を採用し、アサインを行い、チームを強化する必要があるのだった。
しかしながら、役立たずの人を入れればそれだけでチームが崩壊しかねない。
なので、必然多くの時間を採用と問題解決に割くことになった。
この頃は、本当に毎日面接ばかりしていた。
一日に4回〜6回ほど面接が突っ込まれていて、ほぼほぼ面接のみで終わる日が続いていたし、福岡オフィスが立ち上がった当初は福岡での採用にも参加していたので毎週のように福岡へも通っていた。
育成をする余力が無い会社では「即戦力」を採用せざるを得ない。
なので、中途採用に力を入れるわけだが、ソーシャルゲームはブームだったこともあり、本当にたくさんの応募者がやってきていた。
人数だけで言えば優に数百人を超える人数を面接した筈だ。
ゲーム開発経験者よりは、SIerやB2B、B2Cなどビジネスやサービス系のエンジニアの応募が多くあった。
まだ、ガラケーが主体でポチポチゲーなんて、と言われていた時代でもあるから仕方が無い。
(悪い意味ではなく、ゲームを創ってみたいという人が多かった)
それでも「誰でも採る」ということはせずエンジニアの採用率はほぼ5%〜10%未満という状況だった。
そして、採用面接においても見よう見まねで色々と工夫を行った。
ソースコードを書かせてみたり、様々な採用面接の本を読みその方法を取り込んでみるなどだ。
私が特に強い影響を受けていたのが「Joel on Software」である。
(以前から愛読書であった)
この本が示す通り「頭が良く、物事を成し遂げる」人間を採れば、その人が会社を成長させてくれる筈だと考えていた。
(ただ、gumiはFog Creekではなかったのだが)
とはいえ、Joelを完全にトレースするわけではなく「何を訊くか」にこだわっていた。
採用面接で何を訊くか
採用面接において無意味だと考えていることが一つだけある。
「意味を持たない答えが返ってくる質問」だ。
例えば、「好きな(プログラミング)言語は何ですか? 嫌いな言語は何ですか?」である。
好きか嫌いかは実にどうでもいいし、好きでも嫌いでも何の判断の役にもたたない。
(もちろん、この頃流行っていたFizzBuzz問題なども何の役にもたたなかった)
では、何が役に立つと考えたのか。
その人の「強み」および「問題に対応する力」である。
強みについて深掘りする
まず、その人の「強み」について訪ねる。
強みは何でも良い、「ネットワーク」「人工知能」「C++」「マルチスレッド」「3D」「アニメーション」どんな分野でもかまわない。
分野が定まればその分野について深掘りをかけていく。
ネットワークであれば、TCPやUDP、HTTPの仕組み、
人工知能であれば、ステートマシンやビヘイビアツリー、遺伝的アルゴリズム、
C++であれば、STLやBoostの挙動、または仮想関数テーブルなど。
本当に強みを持っていれば適切な答えが返せる筈だと考えた。
無理な質問
次に私は「無理な質問」をよく使っていた。
その人の今の技術レベルでは答えようがない問題を投げかける訳だ。
「Joel on Software」の面接プランには同じような項目があり、ここでは
「シアトルには何人の検眼士がいるか?」
「ニューヨークに何人のピアノ調律士がいるか?」
といった、想像力、ロジカルシンキングをテストするような質問を投げかけているが、私のは違っていた。
ギリギリわからないレベルでの質問を投げかけることにしていた。
たとえば、DBに関する質問であれば、
「トランザクション」が理解できている人には「トランザクション分離レベル」を訊く、
それがわかれば、レースコンディションやロックについて訊く。
「インデックス」が理解できているなら、「実行計画によるチューニング」や「B+ Tree」について訊く。
知らなければそれがどのように、何のためにあるのかを訊くことにする。だいたい突き詰めていけば誰にだって「答えられない質問」というものは出てくる。
「わからない問題」に対してどう反応するのかをよくみていた。
決して「クイズショー面接」はやらないようにしていた。
では、何が間違っていたのか?
面接が「クイズショー」でなく「成し遂げる能力」を見極めるものだとしても、
多くの人は「会社に居続ける理由」というものを持っていないのだ。
特に「物事を成し遂げる人」というのは自分が生きない会社に居続ける理由がない。
結局のところ、人が働く理由というのは給与だけではない、環境だけではない、ということに気がつくことになった。(このときは気がつかない)
要するに技術的や能力的に高い人を採用し、選定して現場にアサインしているだけでは、組織の根本的な成長は成り立たないのである。
「明確な失敗」として「今必要な人」を採ってしまっていたのだ。
能力はあっても、あまりにも組織風土にあわない(=成長期のベンチャーにそぐわない)人を採ってしまうという失敗もたびたび重ねた。
そして、そんな混乱の最中、2011年11月には最も辛い試練となる「FIFA ワールドクラスサッカー」のリリースが迫っていた。