国会に解散風が吹き始めた。今回は風だけに終わりそうにない気配である。

 安倍晋三首相が今月28日召集の臨時国会の早い段階で、衆院の解散を検討する意向を与党幹部に伝えていたことがわかったからだ。臨時国会冒頭での解散も選択肢に入っているようだ。

 自民、公明は具体的な選挙日程をすでに想定している。冒頭解散だと、「10月10日公示、22日投開票」「同17日公示、29日投開票」-の2案。

 10月22日投開票の衆院3補欠選挙(青森4区、新潟5区、愛媛3区)後だと、「11月解散-12月総選挙」を視野に入れているという。

 なぜ、いま解散なのか。国民に信を問う大義名分は何なのか。いずれも疑問だ。

 北朝鮮が日本上空を越える弾道ミサイルの発射を繰り返し、核実験を強行するなど東アジアの緊張が高まる一方の中で、政治空白をつくっていいのか。

 安倍首相の念頭にあるのは、代表が代わったばかりの民進党から離党者が続出し、小池百合子東京都知事の側近らが年内設立を目指す新党もまだ態勢を整えていないことや、東京都議選で自民が惨敗してから安倍内閣の低支持率が底を打ち回復傾向にあること、などであろう。

 今のタイミングで解散すれば、選挙戦を有利に戦えるとの読みだ。

 だが国民が納得できる解散の理由は見当たらない。身勝手の極みであり、解散権の乱用というほかない。

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 憲法には解散に関する条文は二つしかなく、解散権を明示した規定はない。

 内閣不信任決議案が可決された場合の69条に基づく解散と、天皇の国事行為を定めた7条に基づく解散である。7条に基づくのが実際は首相による解散である。

 最近の解散はすべて7条解散であるが、ドイツや英国では憲法などで首相が自由に議会を解散できることを縛る規定がある。首相が自由に議会を解散できるという考えは説得力を失いつつあるのが先進国の潮流なのである。

 解散権については「内閣の一方的な都合や党利党略で行われる解散は、不当である」(芦部信喜『憲法』)、「必然性が全然ないのに政権党の党利党略で解散するなどのことは許されない」(浦部法穂『憲法学教室』)というのが憲法学界の通説だ。

 首相に解散権を無制限に与えたものではないのである。解散の大義名分が問われるのはそのためだ。

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 野党4党は今年6月、憲法の規定に基づき、臨時国会召集の要求書を衆参両院に提出した。安倍政権はこれを拒否し続けた。自民党が2012年に決定した「憲法改正草案」には「要求から20日以内の召集」を明記しているにもかかわらずだ。

 3カ月もたってようやく臨時国会が召集され、その途端に衆院が解散されることになれば「横暴」のそしりは免れないだろう。

 「加計(かけ)学園」など疑惑の3点セットを帳消しにする狙いがあるとみるしかない。党利党略の解散は認められない。