憲法改正論議が迷走している。その原因は、一にも二にも、時々の政治状況によって二転三転する安倍晋三首相の言動にある。

 歴代の総理で安倍氏ほど、憲法改正への強い意思を示し続けてきた首相はいない。

 内閣に改憲案を発議する権限はなく、現職の総理は憲法を尊重し擁護する義務を負っているにもかかわらず、改憲を「私の在任中に成し遂げたい」と公言してきた。

 だが、自民党内でも議論は深まっていない。

 自民党は12日、憲法改正推進本部の全体会議で、安倍氏が打ち出した改正案を取り上げ議論したが、意見はまとまらなかった。

 安倍氏は憲法記念日の5月3日、読売新聞のインタビューなどで、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べ、新たな改正案を示した。憲法9条の1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文化するという内容である。

 当初、安倍氏や側近は、秋の臨時国会で自民党の改憲案を各党に示し、来年の通常国会で発議という日程を描いていた。ところが、党内だけでなく公明党からも、議論がないまま結論を先に決めるやり方に異論が噴出した。

 局面打開を図るため安倍氏が出した結論は、野党の選挙準備が整わないうちに衆院を解散し、政権維持と改憲の二(に)兎(と)を同時に追う、という奇策だった。

 大義名分が何一つないにもかかわらず首相の政治的野心のために、再び有権者が振り回されることになったのだ。

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 昨年7月の参院選で安倍氏は、憲法改正を選挙公約の中に盛り込んだものの、演説ではほとんど触れなかった。 投開票直後の会見では「わが党の案(12年改憲案)をベースにしながらいかに3分の2を構築していくかが、まさに政治技術」だと強調した。かと思うと10月の国会では持論を封印し答弁を避けた。

 今年の憲法記念日で安倍氏は憲法審査会の頭越しに新たな改正案を公表、6月には臨時国会に改憲案を提出したいとの考えを明らかにしたが、都議選惨敗で一気にトーンダウン。内閣改造後の会見では「スケジュールありきではない」と弁解した。

 改憲意思だけがぎらつき、その時々の状況に対しては、ご都合主義というしかない対応を繰り返す。ころころ変わる首相発言に有権者は振り回されっぱなしだ。

 憲法改正の手続きを定めた96条を改正し、改憲の発議に必要な「3分の2以上」を「過半数」に緩和すべきだと主張したこともある。

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 まっとうな議論もせずに「政治技術」や「手練手管」「情報操作」で改憲を実現しようとする姿勢は、その後も基本的に変わっていない。

 自民党は解散・総選挙に向け公約づくりに着手したが、意見が割れている9条改正をどう盛り込むつもりなのか。

 安倍首相は25日に記者会見し、28日の臨時国会冒頭の衆院解散を正式に表明する方向だという。おそるべき国会軽視である。

 都議選敗北後に表明した「反省」は口先だけなのか。