〒 みなさま
こんにちは円野まどです!
すこし前に、女の子同士でご飯にいって「普通とは・・・。」と考えてしまったお話です。ただのできごとの記録となります。
登場人物
*Yちゃん 大学生の時バイト先で知り合ったお姉さん
*私 筆者円野まど。引きこもりのあまったれ。
*Aちゃん Yちゃんの後輩。
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*
「どんな男の人なら合うんですかね。」
胸の前で組まれた手から、同情が滲み出ていた。
苦笑いをして横を見ると言われた当人はきれいな笑顔を作っていた。
Yちゃんから、「苦手な後輩と飲む事になったから来て。」と言われたのは二時間前くらいのことだった。知らない人と食事をすると熱が出る私は、スマホを持って少し考え込んでしまった。それに気づくかのように、二分後の再メッセージ。「本当にお願いします。」敬語だ。これは行かなければいけない。
それから頭からスポッとかぶるだけでらくちんなワンピースに着替えて、出かける。
二駅離れた、毎日どこかの大学生が朝まで飲んでる街に。
Yちゃんが敬遠しているAちゃんは、とてもかわいい女の子だった。
シンプルだけど形のきれいな白い無地のTシャツ、黒いハイウエストのワイドパンツ、押さえてるけど押さえすぎない鞄。ゆるく巻かれた髪の毛は肩くらいで、茶色。
私と目が合うと「こんにちは!」とにっこり笑ってくれた。
明るくて人懐っこい女の子。
彼女とYちゃんと合流して15分もしないうちに、話題がYちゃんに彼氏がいないことに集中した。何とか話をそらそうとするのだけど、なかなかうまくいかない。
「ずっと一人かもしれないなって思ってる最近は。子供は欲しいけど、結婚はわからない。」
最近恋愛はどうですか、の質問に対してYちゃんが答える。口調は決して重いトーンではなく、笑いながら、それがらくちんなのが伝わってくるように。
「結婚しないなんて!想像がつかないです。私は、想像したこともないです。まだ分からないじゃないですか。そんなこと考えちゃうなんてかわいそう。」
どきっ、とした。悪気のない目で、料理を口に運んでいる。サイコロステーキをグサリと刺して味わうようにゆっくり咀嚼した。フォークが鋭利に見えてくる。
「そっか。高齢出産になりますもんね・・・。どうしたって結婚するなら赤ちゃん欲しいって言う男性も多いだろうし、難しいですよね。」
この後冒頭の、つぶやくような「どんな男の人なら・・・」に繋がる。
この人はYちゃんの仕事関係の人だから、あからさまにこの話やめようかと言うことはできない。てもしそれがすこしでも威圧に聞こえたら「Yちゃんがいじめた」という事になりかねないからだ。考えすぎ、と思う人の気持ちもわかる。最初に聞いた時の私もそれはずいぶん慎重なんだな、と感じたからだ。
Yちゃんの職場では以前飲み会の席で、家庭内の話に切り込み続けた後「それはちょっと失礼かな。家々の事情があるからね。」と注意された新入社員が次の日から来なくなるという事例が発生していた。言葉は慎重に。ノーモア退社。
すこし停滞しはじめた会話のテンポを心配してか、「最近はシェアハウスとかもあるからいいですよね、見守り家族とかもあるらしいですよ」とか立案が次々始まる。
さらにAちゃんはグーグルで「孤独死 なぜ」「高齢 シェアハウス」とか検索し始めた。こちら側にも画面が見えるようにスマホをテーブル中央に押し出しているのはもしかしてその結果を今からシェアする感じなのかな?もしかしてこの話、掘り下げる方向になってきている?横を向く、Yちゃんはずっと楽しそうな顔を貼りつかせてメニューを眺めているが一ページも動いていない。
これは、私としても思考停止のワードが出ざるを得ない。
やばい。
「あっこれ食べたい!他に注文する人いますか?」
緊張のあまり敬語になったけれど、私の数少ない知人であるYちゃんを助けねばと思った。食べたいのか食べたくないのかわからないムール貝を注文した。
「そういえば、まどちゃんって大学の時の友達とかでY先輩に紹介できる人いません?ちょっと年下になっちゃうけど、最近はひとまわり下とかもあるから10個以内ならセーフだと思うんですよ!」
そういえば、前にYちゃんがこの子の事を「結婚相談所」と呼んでいたことを思い出した。しかしなんとか笑う、顔を笑わせる。くれぐれも、いじわるされていると思わせてはいけない。とりあえず口角をあげねばと表情筋のリフティングを続ける。
「友達いないなあ。たまに連絡とる子は彼女いるし、そもそも紹介できるほど誰とも親しくないなあ・・・。」
「エーッ、じゃあ他の、地元とかの友達は?」
「友達ほとんどいないなあ・・・。」
思い浮かんだ人は2,3人いたけれど、ちょっと友人と呼んでいいのか自信がなかった。
「えっそれちょっとやばくないですか?結婚式とかすることになったらどうするんですか?」
Aちゃんが、結婚相談所の名に恥じない質問を私にする。お心遣い痛み入ります・・・。
「するとしても親族だけでいいんだ・・・それも恥ずかしいから、二人だけかドレス着て写真撮れるくらいでいいなあ・・・。Aちゃんは、どんな所でしたいの?」
「私は、うーん。どこがいいかな?こじんまりとしたところもいいですけどやっぱりホテルがいいです。何年たっても結婚記念日そこで過ごせたら嬉しくないですか?」
「素敵だね!確かに式場がずっと残っているといいね。」
「まどちゃん、今はリア充代行サービスとか結構サクラって雇えるから頭数だけでも揃えたほうがいいですよ。友達ぜんぜんいないなんてことになったら、むこーの親御さんからしたらやばい子なんじゃないかって思われちゃいますよ!」
「それは確かに・・・。」
「かわいそう。こっからリベンジできるといいですね、女の人はっ結婚してっ子供うんだらっ、結構巻き返せちゃうからっだいじょーぶですよ!」
ひとつひとつの名詞の前に、ジェスチャーがつく様子を眺めているとパチンと箸を置く音がした。
「じゃあ私は巻き返せないね。」
Yちゃんが口元を拭きながら、微笑んだ。
怒っているわけではない、多分彼女は私に助け舟を出したのだ。
「あーーっそういう意味じゃないですよ!本当に!ごめんなさい!やだー失敗した。ごめんなさい!てか、私だってけっこう闇抱えてるんですよ。彼氏のこと最近好きかわからなくなってて。もう別れてもいっかなって思ってるんです。」
「あーそうなんだ。彼氏かっこいいのに。」
落ちてきた髪を耳にかけながら、Yちゃんは店員さんを呼んで日本酒を頼んだ。
「かっこよくなんかないですよー!あっまどちゃん見たことないですよね。見ます?」
そう言って今度は「高齢 シェアハウス」の検索結果が表示されたスマホを手元に寄せる。私は知らない女性から知らない男性を見せてもらって、できるだけ失礼がないように言葉を選んで曖昧な感想を述べた。
見る人が見れば、気が合わないなら会わなければいいのに。と思うだろう。
しかし、それが許されるならYちゃんは私を呼ばない。
彼女は管理職で、後輩の面倒を見てあげてくれだけではなく「傷つけて、退社させないように。」と言われている。「独身で管理職の女の人ってだけで、周囲にはとげとげしく見えるんだから、やわらかくね。」なんて応援のつもりで、上司に言われるのは週に二、三度。不機嫌な態度もご法度。それでなくても、173センチのYちゃんは背が高いから怖く見えるのだと言う。どれにつっこんで、どれに納得すればいいか考える事がしんどいから、いつも笑うようにしているのだと彼女は言っていた。今日も、どこかに連れていって欲しいとせがむAちゃんを何度も断ったけれど上司が意地悪しないで相談にのってあげて、とささやいてきたのだと、向かっている途中の電車の中でYちゃんから次々送られてくるメッセージになんだか私が悔しくなった。
何や誰に対してか分からないけれど。
誤解のないように付け加えると、私は新卒の人たちがこういう傾向にあるとか主語を大きくするつもりはない。ただ彼女の会社に入ってきた新入社員が、マナーを注意されたことでとてもショック受けて辞めてしまった。それによって社の教育方針が変わった。それだけだ。誰かが特別に甘えているとか、そういうネガティブな見方はしていない。多分育った環境や今までの経験によって、同じ言葉に対する受け取り方が大きく違ってしまうこともあるのかなと思っている。時代や文化で重みが変わるものは存在する。
だから目の前にいるAちゃんにも悪気はなくて、そうだからYちゃんは気持ちのやり場に悩んでいるのだと思った。
Yちゃんがお手洗いに立っている時、Aちゃんは私にこう話した。
「Y先輩って美人ですよね。ずっと仲良くなりたかったけどやっとご飯来てくれたんですよ!めっちゃ粘ったかいがありました!」
そうだったんだ、これは行き違いだったんだなと思うと、悲しくなった。
それから、空席になっているYちゃんの席を見つめながら「仲良くなりたいな~。」と言った。それから「先輩私の事なんか言ってます?」と期待を込めた瞳が輝く。
言えない。結婚相談所って呼んでいるとは。
「あんまり仕事の話にならないかな。」とさりげなく返事した、つもり。
「私って要領はよくて、まわりからは結構可愛がられるんですけど、何て言うか自分の生き方みたいなものがなくて。Y先輩みたいな感じ憧れます。先輩は仕事でいなくちゃいけない存在なんですよ~。しかも美人だし!美人で仕事できるとか最高じゃないですか?かっこいいんです。ただちょっと私生活アララな感じで心配ですけど!」
ほんとにずるい子なら、前半は言わない。きっとこの子は、悪い子じゃないんだなと思った。ただ、結婚相談所を開設しやすいだけなのだ。恋愛がこの子にとって得意な分野で、話しやすいだけなのかもなと思うとすごく不器用な女の子に見えた。
ムール貝の殻を取るのが難しくて孤独な戦いを繰り広げていた私のお皿に手を伸ばして「触っていいです?」と確認をとったあと、つるつるきれいに取り分けていった。
「まどちゃんって友達いないって感じする。ぎこちないしおどおどしてる。」
そう言って私に食べていいよと、お皿を渡した。貝殻は自分のお皿に残して、食べれるところだけこちらに差し出す。ちょっとだけ得意げなその顔をみて、かわいいなと思った。
「取ってくれてありがとう。いただきます。」
もどもどした声でそう伝えると、Yちゃんが戻ってきた。
「わー!先輩!帰ってきた!じゃあ先輩が孤独死しないように、計画たてましょう!」
Yちゃんは何かを押さえ込むような、唇を少し内側に吸うような、今日何度目か分からない顔で笑った。悪意はない、ないのは分かってるけど、のどまで駆け上がってくるような気持ちが走る。
「それより友達がいないこと相談にのってほしい!」
思いのほか大声が出て、振り返った人がいて顔が赤くなる。
私は何をしても野暮ったく、Yちゃんのようにさらりと空気を変えることができなかった。
「もーさっきから話を自分の方向にばっかり持っていくんだから~けっこう自己中ですね、そういうとこ、ですよぉ~。」
Aちゃんがけらけら声をたてる。
言葉ほど、きつい口調ではなくてからかうような、輪に入れてくれるようなそういう喋り方。Yちゃんはずっと、何かからガードするように、頬杖をついていた。その肘は侵入を拒むようにAちゃんの側につき出ていた。
それから一時間くらい、友達を作るご指導をいただいて解散することになった。
朝まで話したそうな勢いのAちゃんの熱視線をかわしながら、駅前で別れる。
Yちゃんは私の家に忘れ物を取りに行く、という名目で私を送った。
飲み屋街を抱える先ほどの駅とは違い、私の住んでいるところは駅前の商店街を抜けたらあとは静かだ。もう暗い道に声が響かないように彼女は切り出す。
「ほんとごめん、必ずお礼するから。私あの子鬼門なんだよ~。鬼門にある結婚相談所なの。」
そう言って何度もYちゃんは謝った。私はただいてご飯を食べただけだったので、こちらこそごめんと一緒に頭を下げて、二人で笑った。
「Yちゃんに憧れてるって言ってたよ~好きなんだって。美人とも言ってた!」
「えー。私は無理だよ~一緒にいると、何て言うかいい人でいなくちゃいけないでしょ。悪気がないんだろうけど、悪気がないから許してもらえるのが当たり前みたいなのをつっぱねると、私が心が狭いみたいになるじゃん。でも、私はそれ辛いんだよ。狭いんだろうけど辛いの。いい人になること、寛容でいることを押し付けてくるみたいな、しんどさ。私のコンプレックスのせいなんだけどね。」
「コンプレックス?。」
「孤独死でいじられる人生を歩んできたのは自分のせいでしょ。でも、いじられるとさ~感じるんだよ。私は持っているのよ、あなたに足りないものを持っているのよ、かわいそうねかわいそうな人生ねって突きつけられているようで、苦しい。」
「仲良くしなくていいと思うけど、Aちゃんが言ってた事で、ひとつだけ手放しに信じていい事があるよ。」
「えー何。」
「Yちゃんは美人だと思う。それは、もらっとこ。」
自信がない、コンプレックスがばかりだと嘆く人を見上げると、透けるような茶色の髪、細くて白くて長い足。切れ長で奥二重のまぶたが、呆れた顔をしていても何かのワンシーンのよう。私が同じ顔をすれば、とってもまぬけな感じになるだろう。
いつも、胸の空くほど彼女はきれいだ。
その夜、案の定私は頬が膨らんでいると錯覚するほど熱を出した。
天井を見上げながら、考える。
三人のうち、相手を傷つけようと思っている人はたぶん誰もいない。
ただみんな自分が普通より欠けている部分を探して、詫びながら誇りながら、そうすることが当たり前と思って生きていた。
その気持ちからでる言葉が時には誰かを傷つけたり、押し返したり、飲み込んだりしていく。ただ普通である自信がなかったり、あったりするだけで。
それを決めているのは誰なんだろう。
答えはすぐに分かってしまって、悲しくなった。
目が覚めると、ご飯を作っている音がした。ベッドから這い出て、歯を磨く。
曖昧な悲しみを引きずってダイニングに向かい、コーヒーを淹れた。
椅子に座って雑誌を広げる私に、その人は笑いかけた。
「昨日は楽しかった?」
朝ごはんを並べながら私にたずねるその声を聞いた時、あたまがすっと軽くなった。
楽しかったか、楽しいか。
私が大切にしなくてはいけないことは、きっとそこなんだなと思った。
それだけを見て、選んでいけたらいいのになと思った。
*あとがき
普段あまり考えないようにしているのですが、社会というのはいろんなひとの気持ちが混ざり合ってときどき難しく思います。
大切なことは誰かをわるものにしないことだし、自分も楽しくすることかなあというところでおいしいものでもいただくのが平和の・・・近道(〃`・н・´〃)ですね!
それではまたお便りします
円野まど