水原希子さんが出演したビールのCMが大炎上しております。
水原さんは、アメリカ人の父親と在日韓国人の母親の間に生まれ、国籍はアメリカでありますが、芸名は日本名なので、その件に関して色々攻撃しているネットユーザーがいますが、この騒動をまとめると、水原さんはコスモポリタンでも何でもなく単なるモデル上がりのDQNで、ファッション左翼にすぎず、それが各方面を怒らせたということです。
さて今回の問題をもうちょっと掘り下げましょう。
まず問題の一つは、水原さんの狡猾さが様々な人を怒らせた、ということです。
そもそもの発端は、水原希子さんががInstagramで中国の現代芸術家のアイ・ウェイウェイさんが発表した「天安門に対して中指を立てる画像」に対して「いいね!」をしたことが、ネットで炎上した件であります。
後日、中国の動画サイトで英語での謝罪動画をアップして説明していますが、ネットに写真が出回っているが写ってるのは他人で自分は靖国神社には参拝していない、旭日旗の前でポーズをして写真をとっていない、天安門写真の「いいね!」に悪意がないとのことで、結論は「私は日本人じゃないから許してね」というものでした。
私はしばらく南部の現地の家に住んだり、大学学部と大学院時代は中国出身の留学生とかなり深いおつきあいをしていたり、中国残留孤児の日本人を二人も育てた中国人学者さんの家にも滞在したことがあるので、中国には色々縁があるわけですが、その中で実感したのは、中国というのは大変広い国で、人も多く、そこには様々な人がいるということです。
民主化を望む人もおりますが、保守的な人もいますし、共産党の人もいます。アレだけ人が多いので政治的主張が様々なのは当たり前です。
水原さんは中国大陸ですでに知られていて、中国市場相手に商売をやっているので、お客様を怒らせるような言動は自殺行為であります。あえてそれをやったというのは、何か思想があってのことだと思う人は多いはずです。
私も最初はそう思いました。
水原さんが「いいね!」をした写真のアイ・ウェイウェイおじさんは、その髭達磨的な親しみのある見た目と違い、中国政府に対して批判的な作品を発表することで有名な反体制の騎士であります。
ロンドンでもテート・モダンや英国王立芸術学院など現代美術系の美術館で展示会をやることもあり、昨年の英国王立芸術学院での展示会も大人気で、午後になっても大混雑で、私はアイ・ウェイウェイおじさんグッズを買うのにも難儀いたしました。普段はあそこの売店は空いてるんですが。
このように人気者のアイ・ウェイウェイおじさんは、欧州ではしばらく姿をみせないと、「もしかして消されたのか?」とちょっとしたニュースになるのです。
親は文化大革命でひどい目にあい、ご本人も中国政府に軟禁されたり、パスポートを取り上げられたりと大変な目にあっているからです。
アイ・ウェイウェイおじさんは、命をかけて作品を発表しています。そういう真剣勝負の方の作品に「いいね!」とすることは、政治的に重い重い意味があるということです。
「いいね!」は、私は中国政府を敵に回します、中国市場での商売は気にしません、という主張と同じで、リチャード・ギアと同じ立場をとると主張することです。一方で、中国を相手に商売したいなら、香港返還後のジャッキー・チェンのような態度をとらざる得ません。
しかし「いいね!」の後で「悪意はなかった」とさらっというというのは、自分の主張を取り消すことになります。そして、自分の保身のためならどっちにも転びますよ、ということですね。ちょっとボタンを押すことに大変な重みがあるのです。中国に対しては。格好つけのためだけに人権やら環境保護だのいうファッション左翼のお手軽さは許されないんです。これは中国の人に対しても大変失礼なことです。
若気の至りだからというお方もおられるようですが、20代半ばといいますのは、一般人であれば、もうサビ残も上司からの説教も経験している立派な大人でありまして、日本と近隣国の政治的関係とか、中国の反体制芸術家がどう思われているか等は「一般常識的」にわかることであります。
私が20代なかばの頃は大学院を終えてすぐで、国際政治を専攻していたというのもありますが、様々な国からやってきた同級生は20代前半でも大人として「一般常識」を身につけているのが当たり前でした。
水原さんは釈明動画の中で「私は地球人」と自称しておられますが、コスモポリタンだからこそ、国際政治や国家間関係のことはよく学ばなければならないし、友人であれば反体制芸術家がどんな危険にさらされているか、理解しているはずでしょうし、真剣なら彼を支えなければなりません。
コロコロ立場を変えるような根無し草は地球人でも博愛者でもありませんし、友人としては最も敬遠したい人間です。
中国や日本のネットユーザーが激怒しているのは、水原さんのそういう軽薄さと、狡猾さと、不勉強さと、薄っぺらさであります。
二点目の問題は、普段は日本人であることを商売のネタにしているのに、自分の狡猾さや軽薄さを、「私は日本人じゃないから許して」と釈明したことであり、態度に一貫性がないことです。
そもそも水原さんは、芸能活動において、本名ではない日本名を使って商売しています。
その方が日本市場でも受けがいいですし、井川遥さんやにしきのあきらさん、松田優作さんのように在日韓国朝鮮人として知られている人々も日本名で活動しています。
また日本人である方が、中国大陸、台湾、香港、東南アジアでも日本人女優として受けが良く、マーケットが広がります。なんだかんだ言って、近隣アジアでは日本人プレミアムというのがまだまだ通じます。日本人というのはオシャレで、お金があって、ちょとシックで、繊細でというイメージがあります。ハーフ名よりも受けは良いです。
ご本人は多分日本の永住権を持っていて、日本で育っているので、国籍はアメリカでも、中身は日本人そのものでしょうから、日本人名も違和感がないのでしょう。
しかし、そういう風に普段日本人というのをネタに商売していて、分が悪くなると「私は日本人じゃないし~」と逃げる。
それは怒る人がいて当たり前です。
これは海外だって同じです。
イギリスの場合。イギリス国籍ではなく、血統的にもイギリス人ではない人が、普段はイギリス人であることをウリに海外市場相手に商売をしていて、旧植民地の国を代表する設備に中指をたてて、様々な方向から批判されたら、「私はイギリス人じゃないんで」「イギリスの戦没者墓地なんていったことないし、それは悪いものだわ。参拝なんかしないわ」といったら、年寄りを中心として怒る人は多いです。
少なくとも、うちの義両親やその周辺はカンカンになるでしょう。北部の炭鉱地帯の炭鉱夫や重工業の労働者はとても頑固で誇り高く、身内が戦争でなくなっているからです。
私は多国籍企業や国連専門機関で働いてきたので、多種多様な人と一緒に仕事しましたが、多国籍多人種な世界で暮らす人ほど、自分や他人のルーツに尊敬を払うものです。
だからこそ、国籍や出自というのを、自分の利益で使い分けないのは当たり前です。それは使い分けるものではなく、自分が何者かというアイデンティティの一つです。
そして自分の言動には自分で責任を持つ。それは何人だから、ではありません。
これが本来のコスモポリタンであり、地球人であり、つきつめると、個人主義、そしてリバタリアン的世界に生きる人間です。コスモポリタンは根無し草ではなく、自分と他人のルーツに最大限の敬意をはらうのです。
さらに普段は日本人であることを売りにしているのに、靖国神社は参拝してません、私は日本人じゃないと中国人に釈明することは、私の感覚からすると、中国へのリップサービスであり、国籍すらない「滞在国」の戦没者墓地や過去の歴史に一方的にクレームを付けているようなものです。
そもそも訪問したという疑問が持ち上がった靖国神社の「みたま祭り」は、戦没者や戦争被害者の慰霊のためで、日本で夏に開催される数多くの花火大会と同じ理由です。死者を弔うことに良いも悪いもありません。
靖国神社には祀られているのは戦犯だけではなく、私の祖母の最初の旦那のように、南方で戦死し、遺骨さえない一般人も含みます。祖母のところのように、母子家庭で貧困だった家は墓が買えませんでしたから、あそこに拝みに行くしかないのです。靖国神社は多くの人にとって、様々な、複雑な意味があるところです。一方的に批判することで悲しい気持ちになる人も大勢いるのです。これは他の国の戦没者墓地も同じです。
今後企業が宣伝に出る芸能人を選ぶ際に、外国にルーツを持つ人は炎上するので避ける可能性があると危惧している方もいるようですが、むしろ心配すべきなのは、企業がDQNを選んでしまうリスクでしょうね。
炎上するのは外国にルーツがあるからではなくDQNだからなのです。