経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の心

プラグマティックな経済政策

2017年09月17日 | 経済
 今は景気が良くなったね。どうして良くなったのかな。景気が悪い時に、どうするか分からないのは、まだしも、良くなっても、未だ理由か知れないのでは、ちょっと情けない。変化を目の当たりにしても、ここまで不明なのは、理解に必要な基本的枠組みが欠けていることの表れだ。例えば、今になって異次元な金融緩和の効果が出たとは、なかなか信じられないと思うんだよ。

……… 
 どんな経済政策が有効かについて、SコーエンとBデロングは、『アメリカ経済政策入門』中で、実利に則るプラグマティックなものが成功を収めてきたと説く。その反対は、イデオロギーに動かされる政策で、規制緩和によって金融業を肥大化させた1980年代以降の米国が該当するというわけだ。ただ、現実に即した政策が役に立つのは常識的だし、それだけでは何も言ってないに等しい。

 しかも、色々と試して上手くいったものを展開するプラグマティックな手法は、金融業の肥大化路線にも当てはまる。規制と金融の緩和によって資産が高騰した当初は上手く行っていたのであり、バフルが弾けて大きな損害を被ってから、「罠」だったと気づいたのである。コーエンらが推奨する産業政策とて、政府の保護や支援が、一旦は生産性を向上させても、甘えを呼んで次第に競争力を失わせることはしばしばだ。

 とは言え、コーエンらが経済政策の歴史をたどる中で、カギとなるものが垣間見えてくる。それは輸出だ。そして、足元の日本の景気回復も、輸出が主な要因であることは明らかだろう。輸出が伸びれば、経済は成長するというのは、輸出も経済の一部なのだから、当たり前ではある。しかし、そこにとどまり、「なぜ」を繰り返さないから、経済の本当の姿が見えてこないように思う。

(図)



………
 まず、なぜ、輸出が産業政策と相性が良いかの説明は簡単だ。世界市場で競争しなければならない以上、甘えが許されなくなるからだ。政策も、輸出実績で明確に評価される。戦後の日本は、資源や食糧を確保するために、輸出振興が至上命題だったから、自然と正しい経済政策を採ることができた。例えば、トヨタは、乗用車の輸入を求めるタクシー業界に猶予をもらいつつ、必死になって性能を向上させ、遂には対米輸出まで実現する。

 逆に、競争のない産業政策は腐敗と隣り合わせだ。途上国での輸入代替政策の失敗は言うに及ばずである。件の獣医学部の問題だって、海外大学に伍する研究教育の水準を厳しく追求していたら、利権を縁故者に与えるものと疑われたりしなかった。日本の新たな資産になると胸を張れたはずで、国家戦略特区とは名ばかりで、国家的とも戦略的とも言えず、参入させただけの意味しかないから、まともな政策とみなされない。

 次に、輸出とマクロ経済の関係はどうか。成長の原動力は設備投資だが、金利では調整されず、需要リスクが遥かに強く作用する。これは、人生が限られていて、大きなリスクを負いきれず、期待値に従った行動ができないためである。輸出は、その乗数効果と相まって、需要リスクを癒し、期待値を取りに行く合理的な行動を呼び覚ます。ゆえに、製造業のみならず、非製造業まで及び、経済を好循環させる。今の日本は、そのとば口にある。

 輸出には経済を起動させる力があり、競争力を持つ国は幸いだ。ところが、日本は、この力を過信し、失敗を繰り返してきた。金融緩和による円安で輸出を伸ばし、景気が上向くと早々に緊縮財政へ走り、成長が軌道に乗らないまま、円高の揺り戻しに見舞われた。つまり、当初は上手く行っても、結局、瓦解の憂き目をみる。そこは、米国のバブル頼りの経済政策と奇しくも共通する。

………
 プラグマティクな経済政策は、試して良ければ展開する手法だが、バブル頼りも輸出依存も当初は上手く行くがゆえに、容易に誘い込まれる罠であり、失敗の危険を感じていても、やみ難い習慣性がある。あえて言えば、場当たり的なプラグマティクさが、長期的な失敗に通じてしまう。金融緩和で得られる不動産投資も自国通貨安も、一時的な需要の前借りだと肝に銘じなければならない。

 今の経済学が現実を的確に理解する枠組みを示せないのも、金利がある程度の影響力を持っていることに誤魔化され、需要リスクが経済を動かしているという本質に迫れないからである。リスクを前に、人は死せる存在である以上、利益の機会を捨ててしまう。逸失を承知していようと、長期に渡ろうと、決して変わらない強固さだが、ひとたび、政府が需要を安定させさえすれば、すぐに消え去る不合理でもある。


(今日までの日経)
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