すうけいの神社崇敬会ブログ

すべての神社に崇敬会を。初穂料でも玉串料でもない、神社ファンディング「すうけい」一般社団法人 神社崇敬会の活動報告。

「社にほへと」開発を中止した神社の擬人化ゲームは何が問題だったのか。

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社にほへとは何が問題だったのか。神社崇敬会ブログ

 

2017.09.14-読みにくい部分の修正、追記しました。

神社崇敬会の秀島です。

みなさんは「社にほへと」をご存知でしょうか。

「社にほへと」とは、実在する神社を擬人化した社巫娘(しゃみこ)と共に、妖化(あやかし)が蔓延(はびこ)る穢れきった日本を救うというゲームなんですが、先日、この「社にほへと」の開発が中止になったというニュースが発表されました。今回はこの件について詳しく解説してみようと思います。

スマホからお祓いするようなサービスをやっておいて「お前が言うな」と言われてしまうかもしれませんが、ネットと神社、神社に限らず今回のようなIP(知的財産 Intellectual Property)を活用したコンテンツ開発において、何が問題となり、どういう影響が起きるのか。私自身はIT系でもなく、知財の専門家でもありませんが、神社に関係している事柄ですので、私の立場なりに考察してみなさまにお伝えできればと考えています。

 

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本件の「社にほへと」 は具体的にどのようなゲームなのかというと、、、

 

f:id:kocb:20170913153951j:plainDMM GAMESより

 

このように実際に実在する神社を擬人化したキャラクターを集めて敵(妖化)と戦うというコンセプトのゲームです。「女神転生」シリーズなどで知られるゲームクリエイターの鈴木一也氏が監修を担当し、中島愛さんや小清水亜美さんらの人気声優陣が起用されるという一大プロジェクトだったようです。

これはご存知の方も多いと思いますが、本件と同じDMM社が提供する「艦隊これくしょん」(艦これ)や「刀剣乱舞(とうけんらんぶ)」(とうらぶ)などの、過去に実在(した)艦船や刀剣を擬人化したキャラクターを収集してレベルを上げていきながら敵と戦うバトルシステムを有したゲームです。

実在する神社を擬人化したキャラクターの社巫娘が戦う相手とされているのが、妖化(あやかし)と呼ばれる敵キャラクターです。

 

f:id:kocb:20170913133217j:plainDMM GAMESより

 

この「社にほへと」は、3月15日の発表後約1カ月間で10万人超の事前登録者を集めていたのですが、4月上旬、ゲームの趣旨に対して神社本庁が不快感を示していると一部のブログなどで書かれたのをきっかけに、ネット上でも批判の声が高まっていました。そして4月下旬に「緊急メンテナンス」に入り、プロモーション活動や事前登録者の受け付けを停止し、その後再開されないまま正式リリースされることなく開発終了となりました。 

一部のブログで「神社本庁が不快感」という表現がSNSなどで流れてますが、不快感という言葉を神社本庁側が直接発言したものではないということは、みなさん知っておいて欲しいです。このあたりの言葉のひとり歩きはネットの怖いところだと思います。

 

【事前登録開始 豪華特典プレゼント!】
社(やしろ)の化身と共に戦う純和風シミュレーションRPG「社にほへと(やしろにほへと)」登場。

『水樹奈々』や『中島愛』など豪華声優陣が生命を吹き込む個性豊かなキャラクターがゲームを彩り、「女神転生シリーズ」の『鈴木一也』×『西谷史』が織りなすシナリオが、重厚でダークな世界観を醸し出す。

現代から平安へ召喚されし貴方。
そこで見たのは妖化(あやかし)が蔓延(はびこ)り穢(けが)れきった世界だった……。
社の化身である社巫娘(しゃみこ)達と共に戦い、穢れたこの世と未来を守れ!
日本を救うため、いざ出陣!

--DMM GAMESより

 

「社にほへと」は何が問題っだたのか

本件「社にほへと」については、SNS上などで様々な意見が上がっていました。単純に感情的な感想から、権利について言及する意見、表現の自由について論じる意見、道義的な観点からの意見など、賛否両論さまざまな意見が飛び交い、DMM社からの正式なリリースがあるのを固唾を呑んで見守っていたような感じでした。

ネットニュースでもいろいろと書かれていますが、本件を考察するに私が一番適していると思うのは以下の記事です。実際に神社本庁に取材もされており、神道について考えられている内容もあるので、お時間がある方はぜひお読みください。(ちょっと長いのでボリューム感がハンパないです。)

news.nicovideo.jp

 

この記事にも書かれているのですが、多くの方が感じる不快感や違和感の原因は、「神社や神や信仰に対する畏敬が感じられない」という点に尽きると思います。神社を擬人化したキャラクター、いわゆる社巫娘を引き当てるためにゲーム内で「おみくじ」の抽選というイベントがあるのですが、キャラクターによって大吉から凶までのレアリティが割り当てられていたというのは、多くの人に違和感や不快感を感じさせたようです。このあたりは心情的なところなので、信仰心の有無によっては意見が別れるところだと思います。以下記事からの引用です。

 

「おみくじ」を引くと、大吉から凶までがキャラクターのレアリティによって分類されている。つまり、特定の神社は大吉、あるいは凶と分類されているようである。
信仰心や日本における神社の存在理由を少しでも知っていれば、ここに超えてはいけない線を越えていることを感じるのではないか。取材に応じてくれた神社本庁の担当者も、おみくじを見て「これはちょっと……」と顔を曇らせる。
また、凶の「おみくじ」を引くと登場するキャラクターに割り当てられた石清水八幡宮に話を聞いたところ「(神社の名前を)使用したい等の連絡は来ておらず、まったくの無断使用」というのである。
--ニコニコニュースより

 

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神社の名称は誰のものなのか?

さて、神社の名称はいったい誰のものなのでしょうか、神社の名称を使用する権利は規定されているのでしょうか。神社名は商標なのでしょうか?

現在、「◯◯神社」という特定の神社名でなされた商標の登録情報はあまり確認できません。神社の固有名称は当たり前のように当事者の神社に帰属しているという考えだと思います。twitterで書かれていたんですが、諏訪大社のように一社で数百の商標を登録している例もありますので、御柱祭のような唯一なお祭りに関しては商標で保護しておくべきなのかと感じました。別表神社の成せることなのかもしれませんが。

商標登録されていない神社の名称はフリーIPなのかという勘違いをする人がいても不思議ではありませんが、特許庁のサイト上には、このような説明が書かれています。神社とまったく無関係な人が神社名を商標として登録しようとしても拒絶される可能性は極めて高いといえます。

以下の1.~3.に該当する商標は、登録を受けることができません。特許庁では、出願された商標が登録できるものか否かを、商標法に従って審査しています。

  1. 自己と他人の商品・役務(サービス)とを区別することができないもの
  2. 公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反するもの
  3. 他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいもの

 

もし仮に神社が商標を出願するとした場合、以下の区分役務で出願すると考えられます。神社そのものの存在としての名称「◯◯神社」という商標は登録された実績が無いので、宗教行為に関する行為的な部分については商標を出願し、登録される可能性があります。

祈祷や祓いなどの宗教行為について独自の名称を考案して権利を守るということは可能ですが、神社庁包括の神社や古来の神道ではなく、教祖を置いたいわゆる新興宗教の類がサービス名称として商標登録している例が多く見られます。宗教関連で3万件の商標が登録されていると言われていますが、実際は防御のために宗教に無関係な商標が関連区分役務に登録されているようにも見えます。ちなみに宗教関連で商標出願する場合は第41類と第45類になります。

  • 第41類:宗教に関する知識の教授及び思想の教授
  • 第45類:宗教儀式の実施 宗教集会の運営

 

神社関連の商標と霊感商法の関係

神社における商標の必要性について少し補足しておきますと、固有のお祭りや土地の信仰において固有の神の名称などがあった場合、第三者がその名称を商標登録してしまう危険性があるので防御として商標を出願する必要があります。

神社に関する商標を第三者が登録してしまったときに起きうる問題としては、霊感商標に利用されて神社の名誉や神威を毀損する可能性が挙げられます。昔からある「伊勢」の名の付された商品などは、地域の商業と信仰が結びついた日本らしい文化といえますが、あたかも神社と関係があるような商標を登録して、霊感があるかのように誤認させて商品を販売するのは、やはり信仰心を悪用することとして認めてはいけないような気がします。

 

f:id:kocb:20170913133324j:plainDMM GAMESより

 

この画像、社巫娘の名前は「住吉」と表記されていますね。これは住吉大社をイメージして描かれたのでしょうか、キャプションの「海上の守護神」という文言は住吉大社で言われる「航海守護神としての信仰」と類似していますね。

仮にこのように神社の固有名称の一部を取り除いた形で商標出願した場合、おそらく拒絶査定が出ると考えられます。商標の審査では、出願者が実際に出願している商標をどのような形で使用しているか、使用しようとしているかも調査します。

この「住吉」というキャラクターの場合、実在しすでに公知となっている神社を擬人化したキャラクターの名称として「住吉」を使用し、住吉大社を連想させる説明文が付されているということで、「他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいもの」とされるのかもしれません。仮にDMM社が社巫娘の名称を商標出願しても登録査定は下りず、拒絶される可能性が高いと考えます。かと言って、自由に使っても良いのか、神社の名称の一部を改変した名前をつけたキャラクターを使用するという点については意見が別れると思います。

 

本当に怖いのはIPではなくイメージの乗っ取り

ここからは私の考える「社にほへと」の何が問題なのかという点について書いていきます。まずは下の画像を見てください。

 

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これは大日本帝国海軍の航空母艦である「瑞鶴」の文字を検索した結果です。見事に上位表示が「艦これ」で占められています。航空母艦の「瑞鶴」を検索すると、「瑞鶴」を擬人化したキャラクターが検索結果の上位を占めていますね。関連項目にも艦これのキャラクターで占められています。ちなみに同じ「瑞鶴」で画像検索するとこのような結果になります。

 

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さて、「瑞鶴」とは何だったのでしょうか。

いわゆる検索結果の汚染ですね。

艦これに登場する艦船の名称で検索した場合、画像検索の結果の上位表示に並ぶのは、艦これの艦娘のイラストやファンの二次創作の作品ばかりです。

これが第二次世界大戦で役目を終えた実在した艦船「瑞鶴」の情報だけなら良いのですが、艦船名で検索した場合に表示される情報のほとんどが、艦船のイメージの二次創作とも言える艦これの艦娘のイラストであり、その二次創作のまた二次創作とも言える同人作家達の作品が検索結果を占めてしまいます。

この検索結果を見て「瑞鶴」のオリジナルがなんなのか、正確に伝わるでしょうか。これが「社にほへと」が正式サービス開始した場合の未来を考えると、たとえば神社名で検索した場合にどのようになるのか考えてみましょう。厳島神社、鹿島神宮、伏見稲荷大社、白山比咩神社と検索するとこうなると思います。

 

f:id:kocb:20170913161426j:plainDMM GAMESより

 

さて、これで神社の何が伝わるでしょうか。

 

問題は、特定の神社を連想させるような特定の図柄を用いたキャラクターが別人格としてひとり歩きして、絵師が描いたキャラクターや、声優が吹き込んだキャラクターの音声など、イメージを形成する著作権のすべてをDMM社が握ってしまうということだと思います。

特定の神社を思い起こさせるような図案と音声を勝手に創作し、その著作権をDMM社が持ち、神社とは無関係のイラストや音声が神社名を連想させるキャラクターの拡散される。ネット上での神社のイメージコントロール権はDMM社に奪われ、擬人化されたキャラクターが神社の意図しないまったく別の人格として広く社会に認知される結果を生むでしょう。

 

オリジナルを連想させる二次創作で著作権を握られる恐ろしさ

収益事業を行う一法人が、宗教法人である神社のイメージコントロールを掌握してしまう。この場合、どのようなことが起きうるかと言うと、例えば、バトルシステムの中で社巫娘と言われるキャラクターがダメージを受けた場合、着衣が破れて肌が露わになるなどの表現はDMM社が自由に出来ることになります。ゲーム内のキャラクターは実在する神社とは別人格であり、著作権・肖像権・商号権はすべてDMM社が所有しているので、たとえそれが実在する神社をイメージさせるものであっても自由にすることが出来てしまうのです。

 

f:id:kocb:20170913133217j:plainDMM GAMESより

 

これは社巫娘の敵である妖化(あやかし)がダメージを負っているのでしょうか、妖化の着衣に損傷が見られますね。同様に実在する神社を擬人化した社巫娘がダメージを負った場合も、この画像の妖化と同様にコスチュームが破損して肌があらわになるのでしょうか、そう考えただけでも神社や神道、我々日本人の古来からの信仰の心に対する畏敬が無いと感じられても仕方ないのかもしれません。実際、SNSなどでもそのような意見が散見されます。

特定の神社をイメージさせる図案の著作権がDMM社にある場合、その図案を用いた二次創作に対してDMM社が訴えを起こさない限り、神社をイメージさせるキャラクターを使った性的表現やその他、相応しくない表現が多用されたいわゆる「薄い本」を同人作家は表現の自由を盾にして創作することが可能になります。神社を連想させるキャラクターの性的な表現、過激な表現、BLの薄い本が並ぶコミケの会場、、、

それが本当に我々日本人が古来から信仰してきた神社の望む未来なのか、私には分かりません。

 

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「死人に口なし」浮遊したIPを蹂躙することの怖さ

 

擬人化と言われるものは、オリジナルを連想させる世界観を作り、その世界の中に擬人化したキャラクターを配置してプレーヤーを没入させるわけですが、「艦これ」におけるオリジナルの艦船、「刀剣乱舞」におけるオリジナルの刀剣、それらには知的所有権というものが曖昧で、というか存在していません。すでに著名な存在で商標権や著作権が存在しない対象について、擬人化というソフトな言い方をしていますが、勝手に人格を奪い取って利用して商売に使い利益を出す。

艦これを始め、これらの擬人化ゲーム界隈では、死人に口なしとも取れるようなやり方で、権利の曖昧なIPを利用したゲームの開発や関連のマネタイズが盛んです。また、ファンによる二次創作が活発でありますが、しかし、これらの擬人化ビジネスは、オリジナルを支えた関係者たちに何らかの還元をおこなってきたのでしょうか。 

例えば、「艦これ」でいうと、ゲームに登場する艦船の設計者や乗組員、艦船と命を共にした人々、戦没者の遺族に利益が分配される訳ではなく、オリジナルに対しての畏敬は無く、宙に浮いたIPを利用したDMM社の利益のためだけに歴史的なストーリーが消費されてしまうことが関係者の心情的にどうなのか、想像してみるのも時間の無駄にはなりません。

このような「死人に口なし」という論理で言うと、神社はそうではありません。「社にほへと」で擬人化された神社は、氏子や崇敬者から信仰の対象としていまも存在しています。

仮に「社にほへと」が正式にサービス開始した場合、神社の社殿の建立に尽力し、護持運営に粉骨砕身し、奉賛活動に励んできた氏子、宮司、神職関係者、崇敬者たちのこれまでの努力に対して、何かしらの形で還元されることが無い、というのは容易に想像がつきます。神社を支えてきた人々が報われるような仕組みは無く、ただただDMM社に利益が蓄積されるだけの仕組みで、誰が幸せになれるのでしょうか。

 

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神社を支えてきた神職や氏子や崇敬者の気持ちを踏みにじってはいないか

同人作家達やマニアたちの承認要求や自己顕示欲のために神社の名称が使われ、検索結果が汚染されるのは、偽医療情報の拡散で問題なったWELQ(ウエルク)問題にも通じるものがあると言えます。

SNSに「とうらぶ(刀剣乱舞)の経済効果の件もあるから神社界は頭がカタい」という言及も散見されますが、どうして全てのコンテンツが二次創作者の利益のためにIPを利用されなければならないのでしょうか。存在しているものは全て二次創作者の飯のタネとして存在している訳では無く、「社にほへと」について言えば、宮司や神職、氏子や崇敬者が神社を護持運営してきたのは、二次創作のためではないのです。社殿の維持管理に必要な多額の資金を寄付してきた人たちは、二次創作してもらうために神社を支えてきたわけではないのです。

二次創作のためではなく、信仰のために神社を支えてきたのです。

ゲーム化による経済効果云々という言及も見られますが、「社にほへと」に関連したコンテンツのマネタイズで資金が神社に流入してくることが大切なのではなく、神を信仰し、神社を支える、神社は信仰の場だということが正しく認知されることがいちばん大切なのです。

 

私は本件「社にほへと」を否定する者でもなく、批判する気持ちもまったくありません。艦これで島風たん、連装砲ちゃん、とディスプレイの前でつぶやく者です。私の創設した神社崇敬会もさまざまな新しい取り組みを行い、中には強い批判を浴びてきた経験もあります。2年前に初めておこなった神社支援サービスも、神社において大切な事柄について勉強せず、大変なご迷惑をかけてきたこともあります。そんな中でも多くの神社関係者様の支えによって、新たな法人を設立し活動を続けてこれたのは、神社や信仰に対して畏敬の念を忘れずに真摯に取り組んできたからだと感じています。

神社の名前についても、神社の長い歴史や多くの人たちが関係したストーリーがあって、初めて神社の固有名称にその力が宿っているのです。本件「社にほへと」に対して、神社の長い歴史の物語を無視して、勝手に擬人化して音声を付けてイメージを創作するという行為は、私から見ると畏敬が感じられないと思うばかりなのです。

 

以上、「社にほへと」について私の意見を書かせていただきました。

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