某指名手配みたいな名前のなんというか指名手配りぃみたいなそんな会社のインターンシップが叩かれていますねぇ。
やりがい搾取だとか残業多すぎとか、低賃金で働かされるとか、そういう叩かれ方をしているのをみて、なにかちょっと違和感があって。いや、ひどいことだとは思うし、そういうインターンシップをやっている企業が山ほどあるのも知ってるけど、なんていうか、指摘する角度がちょっと違うようなーと思ったので、書いてみる。
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僕は基本は「Webディレクター」という肩書きがしっくりくる人だけど、過去に専門学校の常勤講師、学科責任者もやっていたので。つまり、「インターンシップへ学生を送り出す側」だったっちゅうことです。
さきにちょっとだけ読んでいる人にひっかかりそうなこと書いておくと、インターンシップはべつに無給だっていいんだよね。
そんなわけで、うぇぶぎょうかいのむめいでぃれくたーのお時間です。
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インターンシップは「労働」ではないから
ほんとそれだけなんだけど、でも意外にこの事実が知られてなかったりする。学生側も企業側も外から眺めている大人も、インターンシップを「学生が就職前に採用も兼ねて企業の中で働いてみる」とだけしか捉えてない、と思う。
いや、インターンシップって本来そういうもんじゃないから。
さて、ここで文科省、厚労省、経産省が出している「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」ちゅう文書を参照してみましょうかそうしましょうそれがいい。
インターンシップの推進に当たっての基本的考え方 (PDF:163KB)
「2.インターンシップの意義」にこう書いてある。
①大学等及び学生にとっての意義
〇 キャリア教育・専門教育としての意義
大学におけるキャリア教育・専門教育を一層推進する観点から、インターンシップは有効な取組である。〇 教育内容・方法の改善・充実
アカデミックな教育研究と社会での実地の体験を結び付けることが可能となり、大学等における教育内容・方法の改善・充実につながる。また、学生の新たな学習意欲を喚起する契機となることも期待できる。〇 高い職業意識の育成
学生が自己の職業適性や将来設計について考える機会となり、主体的な職業選択や高い職業意識の育成が図られる。また、これにより、就職後の職場への適応力や定着率の向上にもつながる。〇 自主性・独創性のある人材の育成
企業等の現場において、企画提案や課題解決の実務を経験したり、
~中略~
課題解決・探求能力、実行力といった「社会人基礎力」や「基礎的・汎用的能力」などの社会人として必要な能力を高め、自主的に考え行動できる人材の育成にもつながる。
~以下省略~
すべて教育や育成に関することで、インターンシップとは本来「教育の一環」なんですよ。労働じゃない。労働は教育をするための一つの手段としてある"職業体験"の、もう一歩踏み込んだ「企業における実業務を行う」に過ぎない。
これをご覧の大人の皆さんには、いま一度思い出してくれるとありがたい。
学生の本分は「学ぶ」ことであり「働く」ことではない。
と、いうことを。
無給インターンや薄給インターンになぜ労基署が動かないのか
僕は法律家ではないので、本当のところはわかりません。
ただ、おそらくこうだと思います。
- インターンシップは労働ではない
- 労働ではないので労働基準法が適用されない
- やろうと思えば適用できるが、線引きが難しい
無給で働かせるなんて、普通に考えたら一発アウトですよ。議論の余地もない。しかしなぜそれが摘発されないのか?それがつまり、国がインターンシップを「労働だ」と捉えてないからなんですよ。
ちょっと専門家の人いないかなと思ってネットで調べたところ、こんな見解が書かれてた。
「就業体験という名目であっても、インターンシップ生が、単なる実習生ではなく、労働基準法第9条の労働者とみなされる場合には、当然、労働基準法の適用を受けるので、使用者には賃金支払の義務が発生することになりますし(労基法24条)、最低賃金法の適用も受けることになります。(本文とははずれますが、その他、労働安全衛生法や労災保険法等も適用されることになります)」
つまり、インターンシップというのは文科省などが出している資料のとおり「労働ではない」というのが基本線で、労基法が適用されるかどうかはインターンシップ制が労働者とみなされるかどうか、という判断基準が入ってくるというわけですね。
インターンシップにおいて学生に労働をさせることを禁止(正確には非推奨)しているわけではなく、「それが学生の教育に繋がるなら」というのがおそらくまっとうな捉え方なんでしょう。
そしてそれが労働にあたるならば、ちゃんと賃金を支払え、労基法の範囲内でやれっちゅうことになるので、たぶん多くのインターンシップをやっている企業がアウトになるでしょうね。ただ、では「どこからが教育でどこからが労働なのか」という線引きが難しいためになかなか告発されないのかな、と思います(学生が言いづらいってのがもっと大きな理由だろうけど)。
大学等の怠慢も見過ごせない
インターンシップに対して単位を付けるという大学もかなり増えてきていると聞きます。単位までいかなくとも、学校の行事や課外活動の一環として定義している学校もあるようです。
さて、実はこれが大変に問題なのです。
いや、インターンシップに単位を与えることそのものは悪いことではないです。むしろ良いことだとすら思う。しかしその実態が、学生がアルバイト同前のただの労働者として扱われているならば、大学や専門学校はいったい何をやっているんだバカヤロウが、という話なんですね。
だって、冷静に考えたらおかしいもん。
大学や専門学校は保護者ないしは学生本人から高い学費をもらってるわけです。学校機関において教育というのはまさしく「仕事」であり「メインサービス」です。にもかかわらず、たんまり学費を貰っておきながらその学生を企業に送り込んでアルバイトさせて「はい、じゃあ単位あげます」って、控えめに申し上げて「てめぇなめてんのか」という事案でしょう。
学校側は学生をインターンシップに出すならば、「そのインターンシップは学生の教育に繋がるのか」をちゃんと考えなきゃいけないんですよ。「学内でずっと学ばせるより、貴重な体験ができる」という判断があってはじめて許される施策、それがインターンシップなわけです。
実際、僕も専門学校教員だったときに、上司に口酸っぱくそれを言われました。とくに専門学校は基本的に平日毎日授業があるので、インターンシップに行くとなると授業を休んでいかなければならなくなるわけです。何の精査もなく送り出したら見事に職務怠慢ですね(笑)
そのインターンシップで、学生は何を体験し、そこから何を学ぶのか。それは、キャリア教育の中でどの部分に位置付けられ、これまでの学内での学習のどれと紐づくのか。そういうことが検討されるべきなんですよね(僕がいたところは実際にそうやってました)。
インターンシップの学生に対する対価は「教育」
賃金じゃないわけです。
勉学が本分である学生が、学びに来るわけです。その学生への対価はお金じゃない。現場で教育を受けることだったり、現場で体験することで自らの学びになること、これがインターンシップの本来の形だと思います。
だから、べつに無給でもいいんですよ。
そのインターンシップが学生の学びになるなら。そもそも本来の目的はそっちだし。インターンシップに賃金が発生し、労基法の話が出てくるとしたらそれは、インターンシップの中に労働が組み込まれているとき、そのときだけのはずです。
ゆえに、「やりがい搾取」とか「低賃金」とかいうツッコミはちょっと角度が違うんじゃないかな、と思うわけです。企業がインターンシップという名のもとに安い労働者として扱っていることは大変に問題なんですけど、そのときに僕ら周りの大人が訴えるべきことは「ちゃんと金を払え」ではなく「ちゃんと教育しろ」なんですよね。
インターンシップって言ってるんだから、ちゃんと学生を教育しろよって。未来ある若者が学びに来ているのだから、ちゃんと育成しろ、ちゃんと貴重な体験を積ませろっていう方をつっこむべきで、労基法をもとに労働環境の劣悪さを訴えるのはちょっと違うんじゃないかなと。
とかいって、実はインターンシップに決まった定義は無い
ここまで書いておいてなんですが、インターンシップって始まってもう20年以上は経つだろうに(正確にはいつからなんだろ?)、明確な定義ってないんですよね。だから、最初に引用した文科省などなどが出している文書も「~の考え方」に留められている。
そうなると、インターンに労働が含まれるかどうかという線引きのみが存在することになり、そこをクリアするためには企業はアルバイトと同様の賃金を学生に渡せばOKとなってしまう。
それは危険だと思うんですよ。
労働力が欲しけりゃアルバイトとしてフリーターなりを雇えば良いものを、職業体験がしたい学生を捕まえてインターンと称してアルバイト同然のことをさせるというのは、大きな機会損失だと思うわけです。
単純な作業なんて大人になりゃいくらでもできるわけで、学生には学生時代にしかできないことがある。
学生の本分は「学ぶ」ことであり「働く」ことではないんですよ。
これからこの国を背負って立つ若者が、「学ぶ」時間を削って「単純作業」に没頭するわけです。それがどれほどの損失か。おそらくたくさんの優秀な学生も含まれるだろうに、彼らが、なんの学びも得られずこき使われるというのは、労働基準法とかそういうことではなく、単純に日本の損失だと思います。
大学生がアルバイトに明け暮れることを否定したいわけじゃないです。そんなものは個人の自由だし、アルバイトに明け暮れることで得られる学びもあるはず。けれども、それはあくまで本人の判断によって選択され、与えられる結果であるべきで、インターンシップとして世の中のことを、企業の現場のことを学ぼうとしている若者に対して、その時間を「学び」なく浪費させるというのは、 大人として良い判断だとは思えない。
だから、僕は劣悪な環境にあるインターンシップにおいて、批判すべきは「労働環境」ではなく「きちんと教育する気が無いこと」の方だと思うんです。
大学や専門学校では学べない、現場に入り込んで様々な体験をすることで学べるっていう素晴らしい仕組みなのに、労働力として使ってたら意味ないです。
一つでも、良いインターンシップによって学生の学びになるものが増えたらいいなと思って長々書いてみました。