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政治経済

「北朝鮮のミサイル実験は茶番」と言い張るアラスカの住人たち|米国で最も標的とされるアラスカを訪ねてみた

From The Washington Post (USA) ワシントン・ポスト(米国)
Text by Julia O’Malley

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北朝鮮が先日、大陸間弾道ミサイルの発射実験をおこなったことを受けて、“アメリカ最後のフロンティア”であるアラスカ州は北朝鮮の核弾頭ミサイルの射程圏内に入った。そして「最も現実的な破壊の標的はアンカレッジだ」という推測がニュースをにぎわせている。

しかしアラスカの人々の多くは、もっと「目の前の危険」に注意を向けている。たとえば、幹線道路をふさぐ雪崩、キャンプ場で人がクマに襲われた事件、ボート事故、地震などだ。アンカレッジ市長のイーサン・バーコウィッツは皮肉交じりに言う。

「ミサイルよりヘラジカの被害のほうが心配です」

PHOTO: EDWIN REMSBURG / VW PICS / GETTY IMAGES


それに、いまは夏だ。この辺境の地に暮らす人々は、アウトドアを楽しむことに夢中になっている。日は長く、サケが川を遡上しているのだから。

空軍に15年勤務した経歴を持つ弁護士のトッド・シャーウッドは、アイスクリームを食べながら、もしも北朝鮮が何か本格的な行動に出たら、米軍の反応は、恐らく“不釣り合いなほど”厳しいものになると指摘する。だから、北朝鮮による脅威が本物だとは思えないのだと言う。

「それよりも、自分が今年の夏、アラスカの氷河湖でパドルボードから落ちるんじゃないか、というほうが心配だね」

なぜ彼らは北朝鮮が怖くないのか

MAP: TROY GRIGGS / THE NEW YORK TIMES SOURCE: THE JAMES MARTIN CENTER FOR NONPROLIFERATION STUDIES


アラスカの人たちが北朝鮮の動きを真剣に取り合わないのは、同州が歴史的に諸外国からの深刻な脅威にさらされてきたせいかもしれないと、ジャーナリストで歴史家のマイケル・ケアリーは指摘する。

第二次世界大戦中の1942年6月3日には、アラスカの町ダッチハーバーが日本に空爆され、その数日後には、アリューシャン列島のアッツ島とキスカ島が日本に占領された。

また、1950年代と1960年代には、民間防衛訓練や警報サイレンのテストがあったし、大気圏内核実験のせいで牛乳に放射性同位体が混入した事件も覚えている。アンカレッジには現在も、冷戦時代の核シェルターが残された家がある。

ロシアに対しては、距離の近さが脅威への懸念に現実味を持たせたのだとケアリーは言う。

「ロシアのことは、本当に危険な敵として恐れ、その行動も重く見ていました。一方で北朝鮮の場合、指導者の髪型ひとつとっても茶番にしか見えません。北朝鮮が地球の命運を握っている? そうなのかもしれませんが、そんなことを言っても一笑にふされるでしょうね」

アンカレッジの元消防隊長ベン・クレイトン(65)も、恐怖感はないと言う。彼は街の中心街にある床屋で散髪をしてもらいながら、こう説明する。

「俺たちはこれまでだって、ずっと核兵器の射程圏内にいたんだ。かなり悪名高いやつらと、それなりに近い距離で暮らしてきたんだよ」

そして、アラスカには、このような脅威を回避するための軍事基地がいくつもあり、訓練を積んだ兵士やパイロットが配置されていると指摘する。クレイトンがそう語るあいだも、エレメンドルフ・リチャードソン統合訓練基地を飛び立った戦闘機が2機、轟音を立てて上空を通り過ぎて行った。

予測できないのは、ワシントンにいる米国の大統領の外交スタイルだとクレイトンは続ける。

「国務省と職業外交官、そして大統領が、こうした脅威との均衡を保ってくれると思っていた時期もあったよ。でも、現在の状況は、まさに政治における“ブラック・スワン(ほとんど予測不可能で衝撃の大きい事象)”だ」

アラスカ最西端の町を訪ねてみた


アリューシャン列島の端に位置するアダックは、アラスカ最西端の町で、アンカレッジからは時差があるほど遠く離れている。かつては海軍基地で、数千人の人々が暮らし、米国の防衛システムの一環として特殊なレーダーが配備されていた。

基地は1990年代に閉鎖され、町には現在、100人ほどが暮らしている。住民たちは、島の週2回のジェット機便のスケジュールが変更されるという話に気が気ではない。一方で、北朝鮮は話題になっていない。

「アダックを標的に選ぶなんて、よほど頭がおかしくない限りしないと思うわ。どんなメリットがあるというの?」と、住民のイレイン・スミロフは言う。

木曜日の夕方、アンカレッジの中心街に近いシップ・クリーク川で、シプリアナ・ウィリアムズが川面に向かって釣り糸を投げている。狙いはベニザケだ。その隣には姪のユカリ・ウィリアムズが腰かけて、iPadでゲームをしている。

PHOTO: ASH ADAMS / THE WASHINGTON POST


シプリアナは、北朝鮮の弾道ミサイル発射実験という忌まわしいニュースから逃れるために、釣りをしに来たと言う。人生にはあらゆるリスクが伴うものであり、特にアラスカではそうだ、と語る。たとえばアンカレッジでは、1964年に壊滅的な地震があった。

「ここに住み、ここでの暮らしを愛しているけれど、いつ何時、1964年のような事態になって人生が終わってもおかしくないと思っているわ。サイコロの目みたいなものかもね」とシプリアナは言う。

多くの都市と同様に、アンカレッジも人為的災害と自然災害の両方に備えた対応計画を用意していると、バーコウィッツ市長は語る。しかし、たとえ計画が発動されることがあったとしても、北朝鮮が原因になることはないだろうと言う。

「私は、アラスカ州が財政計画を策定できるか心配しています。それから、米国政府が医療制度の問題を解決できるかを。こういった問題のほうが、ここの人々に大きな影響を及ぼしますから」

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