昨日は、夜、美容院へ。
髪を染めてもらっているのは、5年ほどのお付き合いになる美容師さん。
座席が2つだけの小さな小さな美容室です。
40代半ばの男性の美容師さんが、一人で店を切り盛りされています。
隣の席のお客さんは、多分、私と同世代。
パーマ、カット、毛染めという長時間の拘束に少々退屈そう。
店長さんにあれこれと話しかける話好きの方でした。
高齢の女性が姿を現わす
それは、髪が染め上がるのを待っていた時のこと。
店の奥にあるドアが突然バタンと開いて、高齢の女性が姿を現しました。
「どうしたん?」と店長。
手にした紙を「これ、これ」とばかりに大きく差し出し、何かを言おうとする女性。
店長は、「ちょっとすみません」と私たちに断り、手袋を脱いでその女性の元に近寄りました。
「店に来たらダメやって言うてるやん!後、後、あとで!」と店長の声。
声を押し殺すようなやりとりが微かに聞こえた後、店長は、「すみません」と言いながら戻ってきました。
店長の介護事情
店長は、手袋をはめながら、
「母なんですけど、ニンチが入ってるもんで、すみません」と。
隣のお客さんが、すぐさま尋ねました。
「そうなん。店長さんも大変やなぁ。そんで、お母さん、年はなんぼになんの?」
「75です」
「75いうたら、若いわなぁ。で、お父さんはいてはんの?」
そんなやりとりから、店長さんは、介護事情を語ることになりました。
店長は一人っ子で独身。
両親は他県在住でしたが、父親が3年前に他界。
この前後から母親の様子がおかしくなったとのこと。
最初は、お店が休みの時に一人で暮らす母親の元に通っていたものの、
仏壇の線香から引火して周囲を焦がすという事件が発生。
一人で置いておくのが不安になり、先月、店舗件自宅のこの場所に引きとったとのこと。
お母さんは、慣れない生活、土地に戸惑い、認知症の症状が悪化。
今は、昼間はほぼ眠って過ごし、夜間に起き出すという昼夜逆転にまいっていると話していました。
そういえば、ここ数か月、店長さんは明らかに疲れている様子。
特に昨日は、何だかげっそりしているようにも見えました。
「ちょっと、介護保険、使ってるの?」
介護経験のあるお隣のお客さんが、尋ねます。
3年前に「要支援2」とされ、週1回、デイサービスに通っていたものの、その後行かなくなってしまったとのこと。
今は、全くサービスを使わず、自宅でのみ過ごしているようです。
独りで抱えたらあかんで~
「まだ、この店を建てた時のローンもたくさん残ってるしね、ホンマ、困ってるんですわ。何しろ、ボク一人だけやから・・。」
そんな店長の呟きに、しみじみ聞き入る二人の客。
「独りで抱えたらあかんで~。そんな、一人じゃ、どうにもならんわ。いろいろサービスをつこうて、皆に助けてもらわな」
「なぁ!」と私の方を向く隣のお客さん。
「そう、そう、その通り!」と慌てて応じる私。
一人暮らしの認知症の人でも
そして、「いや~、そりゃ、大変やわ・・・」とひとしきり語った後で、
「ほんでもな、この頃、一人暮らしの認知症の人でも、家で暮らしてるで」とお客さん。
「うちの家の隣のおばあさんも、ずいぶんボケてるけど、ヘルパーさんやら近所の人やらいろいろ入ってな、デイサービスにも行って、けっこう幸せに暮らしてるで」
そんな話しに、
「その方は、子どもさんはいてはらへんのですか?」と店長さん。
「いてるよー。いてるけど、めっちゃ遠いねん。仕事もあるさかいに、なかなかな。年に何回かは帰ってきはるけどな。そんでも、何とか回ってるで。そんで、何かあったら、施設やな。施設いうても、昔と違って、今は明るいし、よおやってもらえるもん。もう、これからは、そういう時代やんか。子供がおってもおらんでも、一緒や!」
「うん、うん・・。」と店長。
「まっ、とにかく、市役所行って相談してき。」
そう促され、心なしか店長に笑顔が戻ったよう。
それにしても、行きつけの美容院の店長も介護の問題を抱えているなんて!
これが超高齢社会の最先端を行く我が街の現実。
それでも、なぜか励まされ、力づけられ、ここで年老いていくのも悪くはない。
そう思った午後でした。
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