病院王・徳田虎雄氏の実像 公選法違反容疑の徳洲会トップ
難病発症 文字盤で指示し、全国統率
公選法違反容疑で東京地検特捜部の強制捜査を受けた医療法人「徳洲会」グループを率いるのは、全身の筋肉が動かなくなる難病に侵された理事長の徳田虎雄氏(75)だ。徳洲会を日本最大の民間医療グループに育てあげる一方、衆院議員を4期務めた政治家時代には、現ナマが乱舞する金権選挙などで世間を騒がせた。「病院王」の実像を探った。
(小倉貞俊、榊原崇仁)
「功罪相半ばする『希代の怪人物』。嫌悪とともに強い魅力を感じた」。こう表現するのは、2011年にノンフィクション「トラオ 徳田虎雄 不随の病院王」(小学館)を出版したジャーナリストの青木理(おさむ)氏だ。
青木氏は同年、3度にわたり徳洲会の湘南鎌倉総合病院(神奈川県鎌倉市)で虎雄氏にインタビュー。全身の筋肉が萎縮する進行性の難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」を02年に発症し、入院生活を余儀なくされていたためだ。
ALS患者の多くは、眼球の筋肉だけは最後まで動かせる。病室で車いすに座った虎雄氏も同様だった。目を動かして文字盤の文字を追い、それを秘書に読み取らせて意思表示をした。青木氏との長時間のインタビューにも疲れた様子を見せず、「全国のグループ病院の会議をモニターでチェックするなどし、最高決定権を保持している。恐るべき生命力と執念を感じた」(青木氏)。
この虎雄氏が、今回の公選法違反容疑事件の鍵を握っている。グループへの容疑は昨年12月の衆院選で次男の徳田毅衆院議員(42)=自民党、鹿児島2区=の選挙運動のため、全国から職員多数を現地に派遣し報酬を支払ったとの内容だ。虎雄氏は病室から陣営の会合にテレビ参加し、直接指示をしていたともいわれる。
地域医療 「生命は平等」
徳洲会グループは現在、全国に66病院、280以上の医療施設を展開し、民間では日本最大規模を誇る。その原点にあるのは、極貧の少年時代を送った鹿児島県の離島・徳之島での出来事だ。容体の急変した3歳の弟が診療を受けられずに死亡。医師を志して猛勉強し、大阪大医学部に入学した。
1973年、虎雄氏は自らに掛けた生命保険を担保に銀行から金を借りるという奇手で、最初の病院を大阪に開設。その後、「生命(いのち)だけは平等だ」のスローガンの下、「年中無休・24時間オープン」といった革新的な方針を掲げ、離島やへき地にも病院を造っていった。その半面、急速な拡大路線から地方自治体や日本医師会と対立し、たびたび物議を醸した。
医療ジャーナリストの富家孝氏は「時に強引な病院建設で地域医療を混乱させたかもしれない。だが、医師会の既得権益に抵抗したことで、各地で救急医療が受けられるようになった。医療界に残した足跡は大きい」と評する。
虎雄氏は医療改革を推し進めるため、政治に目を向けた。その手法は猪突(ちょとつ)猛進と称される性格そのまま、「何でもあり」だったという。
金権選挙 奄美戦争、「現金を空輸」
初の国政選となった83年以降、衆院選旧奄美群島選挙区(定数1)で自民党現職の保岡興治氏(74)と激突。2度の落選を経て90年の選挙で初当選を果たす。その戦いは「保徳戦争」「奄美戦争」と呼ばれるほど激しく、この対立は地方選にまで持ち込まれた。
鹿児島の地方議員の1人はこう振り返る。「徳田陣営は選挙のたび現金入りの段ボール箱を飛行機で運んだ。虎雄氏自身はカバンに数千万円を入れ、票の買収を担当する運動員に現金を配って回った」
投票所の入場券を有権者から買い取り、徳田陣営の関係者が代わりに投票することもあった。91年の鹿児島県伊仙町長選では、こうした徳田陣営の「替え玉投票」に加担したとして選管委員長らが逮捕された。
集票マシンの中核が徳洲会の病院だった。奄美の離島にはくまなく系列病院が建設されており、先の地方議員は「地元住民は徳洲会の世話になっているという意識が強い。選挙となれば、票で恩を返す」と語る。
晴れて国政に進出した虎雄氏は2期目の94年、元外相の柿沢弘治氏ら8人でミニ政党「自由連合」を結党した。
「党名を決める際に彼から相談を受けた」。こう語るのは発明家のドクター・中松氏(85)。「彼は最初に会った時から『総理になりたい』と言っていた。豪放磊落(らいらく)で権力欲がすごいという印象が強く残る」
自由連合は党勢拡大に向け、2000年の衆院選で126人、01年の参院選は92人を擁立。中松氏や作家の野坂昭如氏、元プロレスラー、女優、落語家ら有名人が名を連ねた。
しかし、政治基盤を持たない候補者らはことごとく落選し、唯一の所属議員で代表の虎雄氏も衆院議員4期目の05年、ALSの悪化で政界を引退し、毅氏に地盤を引き継いだ。10年に解散した自由連合は徳洲会グループに借入金70億円あまりを返済していないことが発覚しており、候補者を大量擁立したツケだけが残った。
奄美地方での影響力は今も強い。10年に民主党の鳩山由紀夫首相(当時)が米軍普天間飛行場を徳之島に移転させる案を検討した際、虎雄氏に協力を依頼。虎雄氏が拒むと計画は頓挫した。
虎雄氏と徳洲会はどこへ向かうのか。
青木氏は「不正は不正として正されるべきだ。虎雄氏の健康問題もあり、徳洲会の方向性は変わっていくかもしれない」とした上で、こう続けた。「インタビューで虎雄氏は『これからが人生の勝負。世界中に病院を造る』と、情熱をみなぎらせていた。世俗的な善悪を超えた虎雄氏の挑戦を、もう少し見ていたい気がする」
- 同じジャンルの最新ニュース
- ヒアリ 正しい治療法 「毒」に致死性なし ショック症状注意 (2017年9月15日)
- <スマホと子ども>情報交換に欠かせず親が依存 ネグレクトかも… (2017年9月15日)
- 油の摂取 バランス考えて 魚を豊富に 和食お薦め (2017年9月14日)
- 〈社説〉受動喫煙の防止 家庭への介入は慎重に (2017年9月13日)
- ミトコンドリアDNA 増殖過程を初めて観察 (2017年9月13日)