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【社会】

96歳先生「歴史伝えたい」 生徒もシルバー世代

96歳で韓国語を教える吉田博徳さん(左)=東京都千代田区三崎町で

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 十八日の敬老の日を前に、都心の雑居ビルの一室を訪ねると、「七十の手習い」で独学した韓国語を九十六歳の吉田博徳(ひろのり)さん=東京都小平市=が教えていた。生徒もシルバー世代。「六十すぎた人に覚えろというのが無理。繰り返しやって、慣れることです」。授業が始まるや、達観した決めぜりふが飛んだ。 (辻渕智之)

 現在の生徒は女性三人で、七十代が二人に六十代が一人。「二回休んだら忘れちゃった」。そんな嘆き節を吉田さんが悠然とたしなめる。「覚えようとせずに」。そして前半の一時間、四つの短文の朗読がひたすら続く。「チョンチュヌル クガハゴ、サランウルコベカゴー」(青春を謳歌(おうか)し、愛を告白し、の意)

 吉田さんは、市民団体の日朝協会都連合会の顧問。都連が始めた日本と朝鮮半島の歴史を学ぶ韓国ツアーに参加したのをきっかけに、七十一歳にしてラジオ講座で韓国語を学び始めた。旅行で使う程度の会話をマスター。約十年前から、都連が開くハングル講座で入門編の先生となった。

 五歳のとき両親、弟二人と九州から朝鮮半島に移住し、二十歳までを過ごした。当時は日本の植民地下。「朝鮮語を町で見聞きしても、覚えずに生活できた」という。今のソウルにあった京城(けいじょう)師範学校を卒業し、近郊の小学校で教壇に一年ほど立ったが、朝鮮人児童に日本語で教えた。

 「私にとっては朝鮮もふるさとで懐かしい。だから、不幸な歴史を繰り返さないようにしたい」。そんな思いが強く、誘われるままに一九六〇年代から日朝協会で活動してきた。元々は裁判所職員で、労働組合の役員も務めた。

 「韓国語を習えば、同時に韓国を知る。朝鮮も知る。歴史を正しく知るのに役立つ」。それが教え甲斐(がい)。生徒からは「間違えても決して怒らない。やさしい」と慕われる。体はいたって健康だ。講座は千代田区にある都連の事務所で月二回あり、電車で通う。

 教室のテキストは三年かけて自作した。「NHKのラジオ講座のテキストも割合いいんだけど。でも、僕の作ったのほど理論的にまとまったものは他にないんだよね」。さらりと真顔で言った。

◆シルバー世代向け 学習のポイント

1.短時間でいいから毎日反復する。覚えようとせず、繰り返すことが大切

2.近所に在日コリアンがいれば知り合いになり、会話してみる

3.韓国旅行に出掛けて、会話してみる

 

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