22歳女性研究者がインドでレイプ犯100人にインタビュー|明らかになった「底なしの闇」とは
Text by Toshihiro Yamada
山田敏弘 ジャーナリスト、ノンフィクション作家。米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員として国際情勢の研究・取材活動に従事。訳書、著書多数。プロフィール詳細
マドフミタ・パンデイ
PHOTO: COURTESY OF MADHUMITA PANDEY
インドでレイプ事件が社会問題になっているのは、日本をはじめ世界的にもよく知られるようになった。
本「イングリッシュ・ニュース・ブリーフ」でも何度か取り上げてきたが、とにかくインド発のレイプ事件はセンセーショナルなケースが少なくなく、世界的に物議になることが多い。
ここ最近だけでも、強姦被害の10歳少女が最高裁から中絶を禁止されて女児を出産したケースや、父親の同僚から強姦された13歳が出産したケースなどが、世界でも大きく報じられている。
そんなインドの性犯罪について、米紙「ワシントン・ポスト」が興味深い記事を掲載して話題になっている。
「インドで100人のレイプ犯をインタビューした女性、これが彼女の学んだことだ」というタイトルのその記事は、イングランドのアングリア・ラスキン大学で犯罪学の博士研究者であるインド人女性のマドフミタ・パンデイ(22)の活動を紹介している。
もともとこの研究は、大学に属している人なら誰でも記事を掲載できる豪コミュニティサイト「The Conversation(ザ・カンバセーション)」でパンデイが公開した記事がきっかけとなって、大手紙に取り上げられた。
毎日92件のレイプ事件が起きているインドではこうした研究は珍しい。パンデイは「なぜ彼らはレイプをするのか」との問いの答えを求めて、犯人たちと接見するために3年にわたり刑務所を回った。
そんな彼女は、インタビューから何を学んだのか。
パンデイは「ワシントン・ポスト」に、「研究を始めたとき、レイプ犯はモンスターだと確信していた。でも実際に話してみると、彼らは特別な男性たちではなく、本当にいたって普通だった。彼らがレイプを犯した背景には、彼らの育ちと思考プロセスに原因があった」と述べている。
「男性は男性らしさを履き違えており、女性は従順であるべきだという認識を彼らは学んできている。家庭のなかでもそれが起きている。だが人々は、レイプ犯は先天的な異常者だと片付けてしまおうとしている」
彼女はさらに、5歳女児をレイプした男性について詳しく触れている。彼はレイプをしたことは懺悔しているが、「あの子はもうお嫁に行けなくてかわいそうだから、私が受け入れる。出所したら結婚するつもりだ」と述べたため、パンデイは被害者を見つけ出して注意を促すためにその母親と話をした。
すると母親は、娘をレイプした犯人が服役していることすら知らなかったという。それでもパンデイは言う。
「だけど、犯人たちは私たちの社会の一員なのである。どこか違う世界から連れてこられた人ではない」
こうした現実を生み出しているのは自分たちの社会だという認識まで立ち戻らなくては、本当の対策はできないということらしい。
インドでは、下は6歳から上は60歳以上までが被害にあい、年間3万4000件(2015年)以上の事件が報告されているが、この数は実態からはほど遠く、現実には事件の90%近くは報告されていないとも言われる。また、インド紙「ヒンドゥスタン・タイムズ」によれば、インドでは強姦事件で有罪判決が出るのは4件に1件だけ。あまりに闇は深い。
言うまでもなく、レイプは世界中で起きている事件である。人口10万人あたりの発生率を見ると、米国では25.2%、英国では35.8%、フランスでは17.5%、ドイツでは9.2%(インドは不明)。もちろんレイプの定義も異なることから単純比較はできないだろうが、日本も判明しているだけで年間1400件以上の強姦事件が起き、発生率は1.1%になる。
研究をまとめているパンデイのコメントには、日本にも当てはまるかもしれないと言える発言もある。
「両親は子供の前で、ペニスやヴァギナ、レイプやセックスといった言葉は口に出さないでしょう。そこを克服せずに、どう若い男の子たちを教育できるというのだろうか」