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「北朝鮮は何を狙っているのか?」(視点・論点)

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政策研究大学院大学 教授 道下 徳成
 
北朝鮮は昨年から3回の核実験、そして数多くのミサイル実験を行い、地域の緊張を高めています。また、先月末には、日本の上空を通過する形でミサイルを発射するなど、日本に対する圧力も強めています。
 それでは、そもそも北朝鮮は、何故、核兵器やミサイルの開発に、これほどまで力を注いでいるのでしょうか。今日は、核・ミサイル開発を進める北朝鮮の意図について考えるとともに、今後の対応についてお話ししたいと思います。

北朝鮮の核・ミサイル開発の目的として、しばしば4つの可能性が語られます。
まず、第1の可能性は、北朝鮮が、アメリカからの攻撃を防ぐために、核やミサイルを開発しているというものです。北朝鮮はこれまで、「核やミサイルを開発するのは、アメリカが北朝鮮に対して「敵視政策」を続けているからであり、アメリカの攻撃を抑止するために、仕方なく核やミサイルを保有した」と主張してきました。
 しかし、こうした北朝鮮の主張を鵜呑みにすることはできません。もし、北朝鮮が本当にアメリカからの攻撃を恐れているのであれば、次々とアメリカを刺激するような行動をとり、挑発的な発言を行なっていることの説明がつきません。
 事実、北朝鮮が核やミサイルを開発していなかったとき、アメリカは北朝鮮をほとんど無視していました。核やミサイル開発がない限り、アメリカにとって北朝鮮は重要な国ではないのです。「アメリカからの攻撃を抑止するために核やミサイルを持つ」、という北朝鮮の主張に、説得力はありません。
第2の可能性は、北朝鮮と韓国の間に戦争が起こったときに、アメリカや日本が韓国を助けられないようにする、というものです。現在、アメリカは韓国と同盟関係を結び、もし戦争が起こったら、韓国を助けて一緒に戦う体制をとっています。また日本も、朝鮮半島で戦争が起こったときには、米軍に基地を提供するとともに、自衛隊も、韓国のために戦う米軍を支援することになっています。最近では、集団的自衛権が行使できることになったので、自衛隊は後方支援ばかりでなく、より重要性の高い、機雷掃海などの任務を担うこともできるようになりました。日本は韓国の安全保障のために重要な役割を果たしているのです。
 しかし今、北朝鮮が核兵器や射程の長いミサイルを保有するようになったことで、アメリカや日本が韓国を支援することが難しくなりつつあります。戦争が起こった場合、北朝鮮はアメリカや日本に対して、「もし韓国を助けようとしたら、アメリカや日本を核攻撃する」、あるいは、「ソウルを守るためにワシントンや東京を犠牲にするのか」、などと言って、脅しをかけてくるでしょう。
 勿論、アメリカは北朝鮮より遙かに多くの核兵器を持っていますので、北朝鮮が実際に核兵器を使用する可能性は高くありません。しかし、このような脅しを受けた場合、アメリカや日本の国民、そして指導者は、それでも韓国を支援するのかどうか、厳しい選択を迫られることになります。
 しかしながら、本格的な戦争が発生すれば、北朝鮮も甚大な被害を受けることは間違いありません。従って、北朝鮮が戦争を念頭に置いて核・ミサイル開発を進めているとまでは言えないでしょう。
そこで、現実問題として懸念されるのが第3の可能性です。
第3の可能性は、強化された核やミサイル能力を背景に、北朝鮮が韓国に対して限定的な攻撃を行うというものです。これは「安定と不安定のパラドックス」と呼ばれるもので、本格的な戦争の可能性が低下することで、逆に、限定的な攻撃が起こりやすくなるという現象のことを指します。つまり、アメリカと北朝鮮の双方が核やミサイルを持つようになると、相互抑止によって朝鮮半島で本格的な戦争が発生する可能性は低くなる反面、「本格的な紛争にエスカレートする可能性はほとんど無い」という前提で、北朝鮮が韓国に限定的な攻撃を行うことが容易になってしまうのです。
 例えば、北朝鮮がソウルの近くに長距離砲を10発撃ち込んだとしましょう。これに対して韓国は30発の砲弾を北朝鮮に撃ち返して報復します。しかし、核戦争のリスクを避けるため、双方はここで停戦に合意します。砲弾の数だけ考えると北朝鮮の被害の方が大きいように見えますが、実際は、人口密度が高く、国際経済に深く組み込まれている韓国がより大きい損失を被ることになります。北朝鮮がこうした攻撃を繰り返すようになると、韓国は極めて厳しい立場におかれるでしょう。
 北朝鮮の存在そのものに脅威を与えることができるのは韓国だけです。韓国だけが北朝鮮を吸収し、朝鮮半島を統一する意図と能力を持っているのです。このため、北朝鮮は、常に韓国を牽制し、守勢に立たせておかざるをえないのです。核とミサイルはそのための強力な手段なのです。
最後に、第4の可能性としては、北朝鮮がアメリカや日本との関係改善を狙って、いわゆる瀬戸際外交を仕掛けてくることが考えられます。北朝鮮は、これまでにも核やミサイルの開発を取引材料に、アメリカや日本に国交正常化や、経済支援の提供を求めてきたことがありました。その結果、1994年にはアメリカと北朝鮮の間で合意が結ばれ、北朝鮮が核開発を凍結する代わりに、アメリカ、韓国、日本が中心となって、北朝鮮に重油や軽水炉を提供することになりました。

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2007年にも、北朝鮮が核開発を凍結するのと引き換えに、関係各国が、重油などの援助を提供するとの合意が結ばれました。今後、再び北朝鮮が、同様の合意を求めてくる可能性は十分あります。
それでは、日本をはじめとする各国は、どのように対応すれば良いのでしょうか。

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私は、北朝鮮問題に効果的に対処するには、強力な制裁、有効な防衛力、そして、巧妙な対話戦略、という3つが必要だと考えています。
 その意味で、今週、月曜日に国連安保理で採択された、北朝鮮への追加制裁は重要な役割を果たすといえます。日本は、中国をはじめとする各国に、これらの制裁の確実な実施を求めていくべきでしょう。 2つめの防衛力について、日本はミサイル防衛能力の強化や、国民保護訓練の実施など、1つ1つ、必要な措置をとりつつあります。今後も、引き続き、こうした努力を行うべきでしょう。また、ミサイル防衛を補完するために、日本が限定的な攻撃能力を保有することも検討に値すると思います。
 そして、最後に、圧力を背景としつつも、いつかは対話に臨む必要があります。日本をはじめとする関係各国は、早急に、北朝鮮に何を求め、何を与えるのか。持続可能性の高い合意とは、どのようなものかを具体的に考える必要があります。
 制裁、防衛力、対話という3つの手段は、相互補完的なものです。これら3つをどのようなタイミングで、また、どのような形で用いていくのか。それが、これから私たちが考えていかなければならない課題です。

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