ありがとう熊さん

食品スーパーのおやじが、生き方について辛いことも楽しいことも含めて、心を込めて書かせてもらいました。

犯罪を犯したお客様をさらし者にしてもいいのだろうか?

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なかなか捕まらない万引き犯にいらいらする。苦労の末、やっと捕まえた万引き犯。しかし、捕まえた後も警察を呼び、犯人が逃げないように見張るなど、大きな時間を取られる。

そんな迷惑を考えずに、反省の色を見せない万引き犯に我慢できなくなる。

忙しい現代ではよくあることですが、なんとかギャフンと言わせたいと思う気持ちが空回りすることもあると知ってもらいたいと思います。

「あっ今入れたな!」

勤め先の食品スーパーで、頻繁に出没する恐らく万引きをしているであろう人に頭を悩ましています。その人が来るたびに、時間を取られるからです。

明らかに店に入ってきた時よりも、手持ちのカバンが大きく膨らんでいたとしても、私達に見つからないようにすばやく商品を入れているようで、なかなか商品を入れた瞬間を確認出来ないことが多いです。

しかも、ポケットやカバンの中に商品を入れたのが確認できたとしても店内では「万引きしましたよね?」とは声をかけられません。「今からレジで精算するつもりだった」と言われれば万引きを立証出来ないからです。

レジを通さず店の外までカバンの中に入れっぱなしのお客様にやっと声をかけられます。それまでずっと見張らないといけないわけで、とても大変です。さらに・・・

犯人を一人では捕まえてはいけないことになっています。

万が一、犯人が逆上すると危険だからです。そのような大変な思いをさせられればさせられるほど、捕まえた時に従業員にある感情が芽生えます。

その感情とは「やっと捕まえた万引き犯を責め立てたい」というものです。しかし、その感情にとらわれ周囲が見えなくなる事は危険だと思う出来事がありました。

従業員の様子をうかがう万引き犯

とても、やっかいな万引きばあさまがいました。ばあさまが来るたびに私はアルバイトから、「来てますよ」と呼ばれて、さりげなく見張ることを繰り返してきました。

万引き犯は声をかけられるのが嫌いと良く聞く話ですが、このばあさまは私が後を付けていることに気付くと、自分から声をかけてきます。

「ちょっと、すみません」と。

私は最初、この行動が理解出来ませんでした。万引き犯は情業員の目を極端に意識するもので、なぜ自分から声をかけてくるのかと思ったからです。

しかし、後で警察の人と話をすることがあったのですが、良くあるパターンでそれは、自分から声をかけることで相手の表情や声の調子から自分がどれだけ疑いをかけられているのか探る意味があるそうです。

そんな、ばあさまですが、ついに捕まりました。捕まえたのはパートさんです。万引き犯は絶対に一人で捕まえてはいけないという社内ルールがありますが、目の前で起こっている犯罪行為に我慢出来なかったパートさんは捕まえてしまったのです。

そして、自分がやった犯行に「何のことですか?」ととぼける万引き犯に、パートさんは腹を立てました。

「もしもーし、聞いてますか?」

私がかけつけた時にはパートさんはばあさまに顔をぐいっと近づけながら・・・

「もしもーーし、聞いてますか?」
「お母さん。いつも見てたんですよ」
「とぼけないで!」

と言っていました。なぜこの様なことをパートさんが言ったのかと言うと商品をレジを通さずに店から持ち出したと言う言い逃れの出来ない状態でばあさまは・・・

「えっなんのこと?」ととぼけたからです。

私はこれはまずいと思いました。その理由は最後に書きますが、とにかくばあさまをバックヤードに連れていくのが先だと言うことでバックヤードに誘導しました。

そして、警察を呼び、私がばあさまを監視しながら待つこと15分で警察が到着しました。そして、警察からの質問にばあさまは・・・

「年をとると分からなくなるんです」と話をはぐらかしました。

「お名前は」と聞かれても、「うーーん何だったかな?」と返し、「住所は?」の質問にも、「えーーと、歩いてきたんですけどね」と返し、どことなく・・・

認知症のふりをして罪から逃げようとする雰囲気がありました。

今まで私に何度も話しかけてきた姿からは想像も出来ない行為です。今まで散々後を付けてきたので分かるのですが、ばあさまは元気です。

それなのに、いきなりしゃがみこんで、「イタタタタ・・・」と起き上がれない振りをしたのです。何を質問してもそんな調子でどうしようもないと言うことで・・・

署に連れていく」ということになりました。

警官二人がかりで、「お母さん起き上がってくださいね」と肩を貸されてなんとかパトカーに乗せられて行きました。

ちなみにうちの店にはもう出入り禁止となりました。そして肝心の捕まえたパートさんに私は言いました。

「『何あの人?怖――い』って言われてましたよ」

ガーーンとショックを受けるパートさん。

店頭でパートさんが万引き犯を責め立てていた時、他のお客様が小声で、「何あの人?怖――い」と言っていたのです。

そのことを伝えるとパートさんは「そ・・・そうなんですか」と言っていました。実はパートさんがばあさまを責め立てた気持ちはとても分かります。

今まで散々貴重な時間を割いてばあさまを見張り続けてきたのですから。

そこは私も認めつつも、「あっ!これはまずいな」と思ったのです。決定的な証拠をつかんだのだから、警察に引き渡すことも、出入り禁止にすることも出来ます。

だから、そんなに責めなくてもいいのです。

犯罪を犯したお客様をさらしものにしてもいいのだろうか?

昔、私が住んでいた地域のスーパーで、万引き犯の顔写真を貼り出した店がありました。すぐにその貼り紙は撤去されたのですが、その撤去された理由を、たまたま友人がそこでアルバイトをしていたので知ったのですがそれは・・・

地域住民からの苦情があったからです。

「なにもそこまですることはないだろ?」
「はっきり言ってその様なことをする怖い店には行きたくありません」
と本社に苦情が入ったそうです。

万引き犯を責めたい気持ちは理解できますが、必要以上に責め立てると、他のお客様から「何もそこまで責めることはないのに」と反感をもたれることもあるようです。