戦場のメリークリスマスについて。そりゃ名作になりますわ!
初記事で上手く伝えられるか不明ですが、勢いで書きます。
今回語るのはタイトルにある通り、言わずと知れた大島渚監督の作品『戦場のメリークリスマス』についてです。
英国アカデミー賞の作曲賞を獲得した坂本龍一さんの耳に残るあの音楽や、今や世界の北野武となったビートたけしさんの「メリークリスマス。ミスターロレンス」の台詞などが有名であり、知らない人の方が少ない映画だと思います。
映画観賞が趣味の一つであるのですが、実はこの作品を見たのは結構最近の事です。今まで見なかった理由は、皆が名作と褒めてるからって俺は流されないぜ、みたいな器の小さな理由なのですが、これは失敗でした。
上映から三十年以上経っているにも関わらず、現代でも十分、いや、十二分に通用するであろうストーリー。戦争を扱った映画でありながら銃撃のドンパチみたいな戦争シーンが一切出てこないというのを三十年も前に作ったというのは、実はめちゃくちゃすごいことだと思います。
まあぶっちゃけ、最初の方は『たけしさんや坂本さん若いなー』とか『デヴィッド・ボウイめちゃハンサム』という感想しかなかったのですが 最後まで観た感想を一言で言えば、そりゃ名作になりますわ!
物語が進むにつれ、僕はどんどんと話に引き込まれていきました。とはいえ、この映画の様々なテーマ(おそらくこの作品のテーマは文化の違い、異文化交流、戦争の狂気などと思います)を深読み出来る程の感性や知性は僕には残念ながらありません。僕が一番引き込まれたのは、やはり皆が知る最後のあの「メリークリスマス。メリークリスマス。ミスターロレンス」とたけしさんが言って終わるあのシーンと、そこに至るまでの過程でした。
ここからは少し長くなります。また作品の内容(ネタバレ)を含むのでお気をつけください。
簡単に説明しますと、この作品は第二次世界対戦下でのジャワ島の俘虜収容所を舞台として、日本軍であるハラ・ゲンゴ軍曹(ビートたけしさん)、ヨノイ大尉(坂本龍一さん)とその日本軍の俘虜であったジョン・ロレンス(トム・コンティ)、ジャック・セリアズ(デヴィッド・ボウイ)の四人を軸に物語が展開します。
ですが、今回はハラ軍曹とロレンスに焦点を当てて記事を書きたいと思います。
冒頭ですぐ、朝鮮人軍属の兵士が俘虜であるオランダ兵士を襲い(性的な意味で)、朝鮮人の兵士を処分しようとするハラ軍曹と止めようとするロレンスというシーンがあります。このシーンで、ハラ軍曹とロレンスの対立(思想や考え方の違い)や二人のその時点での力関係などが示されます。
そしてこの事件について、襲われたオランダ兵士について保護して欲しいとロレンスはハラ軍曹に頼みます。台詞に関してはうろ覚えなのですが、この時の会話でロレンスはハラ軍曹に『貴方の助けが要る』と言い、それに対してハラ軍曹は『日本兵は敵に助けを求めない』と答えます。
また、別のシーンでのある会話で、ハラ軍曹はロレンスに『何故俘虜であるという恥に耐えられる。どうして自決しない』といった旨の発言をしました。それに対してロレンスは『俘虜は時の運で恥ではない。自分はまだ戦いたいし、最後には勝ちたい。だから自決はしない』という風に返します。これに対してハラ軍曹は『それは屁理屈であり、死ぬのが怖いだけだ。自分は違う。自分は命を捧げてここに来ている』と反論しました。
このあたりは僕の主観ですが、こうして交流をすることによって、相容れないながらも二人には友情関係のような、奇妙な関係が育まれていたように思います。
ある日、抜き打ちで俘虜の荷物検査を行ったさいに、俘虜たちが集まっていた部屋の中からラジオが発見されました。
ラジオの責任を取らせるという形でロレンスには体罰を与えられ、さらに翌日、ヨノイ大尉に呼び出されたロレンスは『形式上の手続きが完了し次第、処刑する』と告げられます。
独房に入れられたいたロレンスはその夜、ハラ軍曹の居る部屋まで連行されました。酔っぱらっていたハラ軍曹は、ロレンスに『ふぁーぜる・くりすますを知っているか』と尋ねます。ちなみに、『ふぁーぜる・くりすます』とは『ファーザー・クリスマス』の事で、サンタクロースの事らしいです。
その日がクリスマスだったということで、ハラ軍曹はにやにやとしながら、『今日は自分がそのふぁーぜる・くりすますだ』と言ってロレンスに釈放を言い渡します。つまり、サンタクロースとして彼を助けたのです。ロレンスはハラ軍曹に感謝を告げ、部屋を後にします。その去り際にハラ軍曹はロレンスに向かって、下手な英語で「めりーくりすます、ローレンス。めりーくりすます」と言いました。そんなハラ軍曹を見て、ロレンスと一緒に居たセリアズは、彼の事を狂っていると馬鹿にしていました。
しかし、これも僕の主観なのですが、きっとハラ軍曹は嬉しくて酔っぱらっていたのだと思います。このシーンのすぐあとに判明するのですが、実はハラ軍曹、ラジオの犯人を見つけていたのです。ハラ軍曹は友情のような奇妙な関係だったロレンスを処刑せずに済んで、そして嬉しくて酒を飲んで酔っ払っていた。
ここで僕は、序盤のハラ軍曹とロレンスの会話を思い出しました。敵兵に助けを求めたロレンスを馬鹿にいたハラ軍曹は、けれど本当に助けが必要になったこの場面で、彼の事を助けてあげたのでたと思います。
ハラ軍曹は、いつしか他の俘虜とは違った感情をロレンスに持った事が、ここで示されたのです。
物語の終盤、月日は流れ、戦争は終結。勝利国となった兵士のロレンスと、敗戦国の兵士であり、逆に俘虜となって独房に入れられていたハラ軍曹が久々の邂逅をします。ハラ軍曹は敗戦国の兵士として、明朝に処刑されることが決定していました。
ハラ軍曹は処刑されることに対して『覚悟は出来ている』と告げるも、『自分がやった事は他の日本兵と変わらない』と話しました。ロレンスは『貴方は犠牲者だ。かつての貴方やヨノイ大尉のように、自分が正しいと信じている人間の犠牲者なのだ』と言いました。
そうして、ハラ軍曹は言います『あのクリスマスの夜の?』 ロレンスは言います『憶えています』 ハラ軍曹『いいクリスマスだった』 ロレンス『素敵なクリスマスでした』
クリスマスの思いでを振り返り、ロレンスはハラ軍曹から去っていきます。そんなロレンスに向かって、泣きそうな笑顔のハラ軍曹が言います。『メリークリスマス。メリークリスマス、ミスターロレンス』
映画はこれで幕を閉じます。
この最後の言葉は、序盤の二人の会話と密接に関係していると思います。敵兵に対して助けを求めることを否定し、日本兵は敵に助けは求めないと豪語し、そして死の覚悟も出来ていると話していたハラ軍曹は、けれどこの時、初めてロレンスに助けを求めたのではないでしょうか。しかし、素直に助けてとは言えず、あのクリスマスの事を引き合いに出して、暗にロレンスに助けてと懇願をしたと、僕には捉えることが出来ました。
しかし同時に、ハラ軍曹は本当に死を覚悟していた、ただ単に友人との最後の別れを楽しみ、そして惜しんでいたようにも見る事ができました。
僕はこの最後のシーンで感動の涙を流すことは無かったのですが(決して心が冷たいわけではないですよ)、そうした余韻や、考えさせられるラストシーン。そして何よりも、そこに至るまでに丹念に描かれた過程に震えました。
正直、語りたい事はまだ沢山あるのですが、全部書いていたらおそらく短編~中編小説くらいの分量になりそうなので、こんな感じで失礼します。
最後に一言。
大島渚監督すげぇ