売り上げ2兆円近く 巨大企業に
昭和35年(1960年)、創業者の江副浩正氏が大学卒業直後にプレハブの小屋を借りて、大学新聞の広告代理店として立ち上げたリクルート。その後、就職・転職から、旅行・住宅・結婚・中古車・グルメなど専門情報誌を展開し、インターネットの活用にもいち早く取り組むなど、次々と新たな分野でビジネスを開拓。平成26年(2014年)には株式上場を果たし、昨年度のグループ全体の売り上げ高が2兆円に迫る巨大企業に成長しました。
現在そのグループを率いているのが、リクルートホールディングスの峰岸真澄社長、53歳です。結婚情報誌の「ゼクシィ」の事業責任者などを経て、5年前に社長に就任。その5年間で、売り上げ規模が2倍以上に増えています。
3年前に上場した時の時価総額が1兆9000億円弱だったのが、昨今は3兆7000億円を超える水準になってきましたので、私が想定していた以上に好調に推移してきたなと思う。
企業買収も“カルチャーは変えず”
この急成長の原動力となったのが、海外事業です。株式上場で得た資金を、積極的に海外での投資に振り向ける戦略が功を奏し、売り上げの40%以上を海外事業が占めるまでになりました。
例えば、求人検索サイトの「Indeed」。ネット上の膨大な求人情報を検索し、仕事を求めるユーザーへ無料で情報を提供しています。世界60か国以上、毎月2億人以上が利用しているということで、海外事業の柱となっています。
日本企業による海外企業の買収と言えば、うまく経営をかじ取りできず失敗したケースも目立ちますが、峰岸社長は買収について、ある哲学を持っています。
買収戦略の一つは、買収した企業のカルチャーを変えないというのがあります。企業の独自のスタイルとか、カルチャーを尊重して、リクルートからは経営ノウハウだけ提供する。企業の持っているポテンシャルを引き出していくのと、リクルートのノウハウをミックスさせることで、その企業の価値を向上させていく。何もかも変えてしまうのはむしろマイナス。(峰岸社長)
実際に私も東京にあるIndeedの開発拠点を見せてもらいましたが、多くの従業員が外国人のオフィスにあったのは、なんと卓球台。社員が卓球に興じながら仕事の話を交わしている姿は、さすがのリクルート本体でも見られない自由さでした。
“起業家精神”どう維持するか
カルチャーといえば、リクルートの歴史をつくってきたのが、社員が次々と新たなビジネスを開拓し、やがて会社から飛びだしていく“起業家精神”です。いまでも、リクルートへの入社を足がかりに、ベンチャー企業を立ち上げようという若者が会社の門をたたいています。
峰岸社長によると、新卒入社で定年退職まで勤め上げたのが創業から57年の間に、なんと2人しかいないそうです。会社としても、そのカルチャーを維持するための仕掛けを用意しています。その名も「リクルートベンチャーズ」という新事業を提案する社内コンテストです。新たなビジネスの提案が主題ですが、あえて「自分が担当している事業以外の分野で」というのもポイントです。専門の審査員が見極め、認められれば、みずからがリーダーとなって新たな事業を始めることができます。
私も提案を検討する様子を取材しましたが、若手社員にも審査員が遠慮せず「勝ち筋はあるのか?」などと厳しく指摘する姿に、こうした場を通じて若い頃から社員の起業家精神を育てようという会社の姿勢を感じました。
リクルートには起業家精神旺盛な人材が集まって、機会を提供して、出るくいを打たないで、どんどんチャレンジしてもらって、自分の頭で考えて実行して成果を出していく。失敗したとしても成功したとしても、自分の糧になって、個人個人が成長していく。経営陣はシリコンバレーでいう、ベンチャーキャピタリストのように新しいアイデアを持っている人間はどこにいるんだ?とか、やる気のある人材はどこにいるんだ?とか、いつも探している。(峰岸社長)
「さびないことが重要」
今のリクルートに死角があるとすれば、それは国内事業かもしれません。上場を挟んだここ数年の急成長は海外がけん引する形になっていて、国内の伸びはわずかです。峰岸社長は「国内事業も持続的に成長させる」と強調したうえで、そのてこ入れにはリクルートの原点とも言える起業家精神が欠かせないと考えています。
リクルートのこれまで成功してきた要因というのは、大きな企業文化だと思う。それは経営理念の一つである「個の尊重」。そこから醸成されてきた「起業家精神」。これに尽きると思う。ですから、この言葉、この仕組みが少しでもさびないことが最も重要なこと。企業文化をブラッシュアップしていくために、常に組織を修正していくことに尽きる。(峰岸社長)
峰岸社長の言葉からは、起業家精神の衰えが会社自体の衰えにつながってしまうという、カルチャーそのものを成長の源泉としてきたリクルートならではの危機感も感じられます。海外事業が拡大する中で、起業家精神を維持しながら、人口減少やネット・スマホ分野での競争激化など難しい課題が山積する国内でも、会社を持続的な成長に導いていけるのか。「峰岸リクルート」の真価が問われます。
- 経済部記者
- 佐藤庸介
- <経歴>
平成13年入局
釧路局をへて経済部
現在、流通・商社を担当