お好み焼きをつくるロボット 2010年4月、エイチ・アイ・エス(HIS)会長だった沢田秀雄氏は、地元の佐世保市から請われてハウステンボスの再建に乗り出しました。自ら同社の社長に就き、開業以来18年間赤字続きだった巨大テーマパークをわずか半年で黒字にしたばかりか、旅行業と並ぶHISの収益源に育てました。沢田氏はその成功に満足せず、ハウステンボスで新エネルギーやホテル事業など様々な次世代のビジネスの種をまいています。ロボットや人工知能(AI)の可能性について希代のベンチャー起業家に展望を聞きました。
この2、3年、ロボットに注目してきました。日本のサービス業の生産性が、欧米に比べて低いのは広く知られています。生産性を上げるには、自動化が有効です。かつて自動車などの製造業がロボットを取り入れて生産性を飛躍的に高めたように、サービス業もロボットによる自動化、省力化で変わらないといけません。少子高齢化で日本の労働人口は減り続けます。サービスの質を維持しながら、労働力を人からロボットに変えることは必須なのです。
8月1日、第3の「変なホテル」が愛知県蒲郡市で開業した。フロントの恐竜の前で記者らと話すHISの沢田氏(中央) 一つの挑戦が「変なホテル」(総客室数144)です。ハウステンボスの園内で、ロボットがチェックインからチェックアウトまで全て対応し、生産性が世界一高いという触れ込みのホテルを営業中です。万一を考えてバックヤードに人間のスタッフが待機していますが、それも6~7人で済んでいます。これは通常のホテルの3分の1程度です。オープン当初は30人くらい配置していたので、生産性が5倍に上がった計算です。売り上げもどんどん増えています。
もちろん、今の技術では全部ロボットでこなすことはできません。例えば、芝刈りロボットは庭の芝の大半は刈れるけれど、隅っこの部分は人がやるといった具合です。室内の掃除も、ロボットで8~9割はできますが、1割は人間でケアします。人間のようになんでもこなせる完璧なロボットは30年待たないと出てこないでしょう。ですが、今のような運用でも、10人でやっていた仕事の8割をロボットに任せ、2人で足りるようになります。生産性は飛躍的に上がります。そういう風にモノを考えた方がいいですね。
ハウステンボスの「変なレストラン」では、調理ロボがお好み焼きを作っています。結構、おいしいですよ。現在は、カクテルやジュースを作るロボットを開発中です。この秋には「変なホテル」にロボットバーをオープンします。「変なホテル」にはホテルマンがいないから「シンとして寂しい」という声がお客さんから寄せられました。そこでロボットバーでおもてなししようという趣向です。
キレのあるダンスでお客をもてなすアイドルロボット 「変なホテル」ではチェックインのお客さんを迎えるのに20台のロボットを使い、コンサートもやらせています。ハウステンボスの最初のロボットは、ソフトクリームづくりでした。それがどんどん進化し、色々な場面で使えるようになってきたのです。ドーナツやチャーハンを作るロボットもいます。
ソフトバンクグループの孫正義さんが展開されている人型ロボット「ペッパー」との違いは、人間らしさです。「変なホテル」の受付の恐竜ロボットは愛嬌(あいきょう)があってお客さんにも好評です。目をパチクリさせるし、とぼけたことを言う。こちらは思わず笑顔になる。ペッパーはロボットらしいロボットで、私たちの方向性とは違いますね。
ロボットと並んで最近、注目されている技術がAIです。21世紀になってディープラーニング(深層学習)と呼ばれる、人間の脳構造にヒントを得た類推をする技術が台頭し、「AIを制する者がビジネスを制する」とはやされています。ただ、私はAIはそれほど簡単なものではないと思っています。
ディープラーニングをする新世代のAIは、膨大な情報を投入され、そこから独自に考え出していきます。情報をまず用意しないといけないから、それが大変です。幅広く実用化されるとは思いますが、その有効性は情報の質や量に左右されます。
例えば、旅行のインフォメーションセンターにAIを導入するとしましょう。顧客の色々な好みに応じられるよう、まず膨大な旅行情報をインプットしなければなりません。大量のインプットがあって初めて、AIはその人にふさわしいプランを考え出したりするわけですから。旅行会社のプロの助言や提案内容に肩を並べるには、まだまだ時間がかかるとみています。
沢田氏 旅行業界のサービスも、将来はAIを搭載したロボットが担うようになるでしょうから、徐々に研究はしています。ですが、まずAIに教え込む旅行情報を準備する必要があります。こうした情報を確保しやすい業界・ビジネスと、確保しにくいビジネスがあります。弁護士や医師は前者でしょう。いったん情報をインプットしてしまえば、弁護士よりも的確に助言し、医者よりも的確に診断できるAIが生まれる可能性があると思います。要は膨大な情報をいつまでに、誰が集め、どんなタイプのAIを使うかが決め手になります。
新世代AIが生きるかどうかは、インプットする情報量にかかっています。それを集めるのに成功した企業で、人間よりも早く正確に業務をこなせるAI・ロボット革命が起きると思います。それがいつなのか、私にも分かりません。だからこそ徐々に研究させているのです。
沢田秀雄
1951年大阪府生まれ。73年、西ドイツのマインツ大学に留学。日本に戻り、毛皮製品の輸入販売などを手掛ける会社を設立。80年にインターナショナルツアーズ(現HIS)を設立し社長に。96年、スカイマークエアラインズ(現スカイマーク)を設立。2010年、ハウステンボス社長に就任。
(シニア・エディター 木ノ内敏久)
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