名門校「武蔵」が守り切る「変わらない勇気」

塾歴社会「最後の楽園」の驚くべき実態

私立武蔵高等学校中学校は東京都練馬区にある

いまどきの進学塾とスポーツジムの共通点

受験勉強とはもともと、個々の受験生が自ら作戦を立て、自らを奮い起こして取り組むべきものであった。特に大学受験は、入試当日に至るまでのプロセスの踏み方を含めて、総合的人間力を試すものだった。

だが、ルールは変わった。

作戦立案は、塾のカリキュラムによって不要になった。自らに打ち勝つ意志力の代わりに、度重なる塾のテストが受験生を勉強へとかき立ててくれるようになった。より効率のよい戦い方が模索されるうちに、本来受験生自身に求められていた能力の大部分を塾が肩代わりするようになったのである。

"結果にコミットする"スポーツジムに似ている。トレーナーが完璧なメニューを用意して、それをやり切るまで追い込んでくれるシステム。トレーナーの指示にいちいち自分の考えなど差し込まなくていい。ただ従順に言われたとおりにやっていれば、筋肉がついたり、減量できたりする。

その結果、受験生に求められるものとして、大量の課題をこなす処理能力と忍耐力だけが残った。余計なものとしては、与えられたものに対して疑いを抱かない力が求められるようになった。

受験システムそのものが、塾に完全に分析され攻略されている。その状況を私は「塾歴社会」と称し、2016年「ルポ塾歴社会」(幻冬舎新書)を著した。塾歴社会の波は、学校教育をものみ込んでいった。塾さながらの受験対策を行う学校が大学進学実績を上げるようになっていった。

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  • NO NAME62d506c59500
    武蔵の記事は面白く読める。
    以前の理科の実験も良かった。
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    2017/9/15 13:46
  • OB52e5fc2c464a
    答えのある問題の答えをできるだけ速く正確に出す子どもが「できる生徒」なら、そういう子は他の学校に行った方が幸せです。東大も、そういうのが得意な人が入りやすいから、東大に行きたいなら武蔵は最適な学校じゃありません。

    ただ、世の中で答えのある問題なんてほとんどないし、答えのない問題に手探りで挑んでいける、決断していける能力が(大学を出た後は)重要であり、そういう力を磨くのが武蔵という環境だと思います。

    自分は武蔵から東大に行きましたが、東大に入って周りがいかにつまらない学生ばかりか、問題を解くのは速いけど、自ら考える力の無さにうんざりしました。武蔵の友人たちは、自分で考える力が重要なアカデミアのポストにたくさん就いてますが、答えがない問題を考え続ける根気があるからでしょうね。(それが優れている、という意味ではなく、そういう仕事に向いている、そういう生徒を選抜している、という意味です。)
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    2017/9/15 18:13
  • NO NAMEcb5893b225e6
    「東京の名門校「武蔵」の生徒はムダから学ぶ」

    武蔵の理科の実験授業について書かれた今年8月の記事。

    面白く読めた。
    up6
    down0
    2017/9/15 19:41
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