郵便局を支える技術 〜膨大な郵便物や荷物をさばく、郵便追跡システムの裏側を追う〜

ネット通販が隆盛を極めている。運送ニーズの拡大にともない、各運輸会社はさまざまなサービス拡充を行ってきた。たとえば、ヤマト運輸は2016年1月からコミュニケーションアプリ・LINEを使った荷物の再配達システムを整備。郵便局も同様のサービスを2016年3月から開始。日々、郵便物・宅配物を取り巻くシステムは進化している。

ヤマト運輸のLINE(画像左)と郵便局のLINE画面。郵便局はQRコードの写真をアップすれば、再配達の追跡番号(お問い合わせ番号)の記入が不要

しかし、筆者がこうしたシステムを利用していて疑問に感じるのは、LINEを使わない、インターネットや電話経由での再配達の申し込みについて。読者の多くが経験していると思うが、電話やインターネットで郵便物の再配達を依頼する際、「郵便番号」「追跡番号 または お知らせ番号」「お届け日」「郵便物等の種類」「配達先」などを入力する必要がある。

この中で筆者が特に疑問だったのは、次の2つだ。

疑問1. 「追跡番号」と「お知らせ番号」の2つが存在するのはなぜか

郵便局のシステムには、追跡番号(お問い合わせ番号)・お知らせ番号の2種類の番号が存在する。これが大変ややこしい。

インターネットで再配達を依頼する際、ユーザー側は配達状に記載されているのが「追跡番号」なのか「お知らせ番号」なのか確認した上で、どちらかを入力する必要がある。他社はもちろん、荷物の追跡・再配達に必要な番号は1つだけだ。

疑問2. 「郵便物等の種類」を選択しなければいけないのはなぜか

さらに、それぞれ「郵便物等の種類」を選択する画面では、追跡番号は「郵便物」「ゆうパック」「国際郵便物」「その他」の4カテゴリに分かれている。一方、お知らせ番号は「郵便物」「国際郵便物」「その他」の3カテゴリ。重複しているではないか。ここだけを見ると著しくユーザビリティが悪いように感じる。

区分はなんと27種類! 重複している項目もある中から指定するのは非常に面倒だ

他社はやはり再配達番号だけで解決するので、ここも使いやすいとは言い難い。以前に比べれば使い勝手が向上したとはいえ、なぜ郵便局だけがこのような複雑な仕組みになっているのだろうか? 逓信省(ていしんしょう)、郵政省の時代を経て、140年近く続いている郵便制度。きっと脈々と受け継がれてきた仕組みがあるに違いない。

多くの方が不便に感じているであろう追跡番号やお知らせ番号は、なぜ存在しているのか。その経緯とともに、膨大な郵便物をさばくがゆえのシステム部門の苦労や、それを裏で支える技術に迫りたい。日本郵便のシステム運用室の室長である中川真孝さんを訪ねた。

日本郵便株式会社 システム運用室 室長 中川真孝氏
1988年に大阪府立大学工学部卒業後、郵政省入省。2000年より郵便追跡システムを担当。JPエクスプレスシステム企画部門部長などを経て、2015年よりシステム運用室長

郵便局の追跡システムとは何か

――郵便局が取り扱っている、そもそもの荷物種別を教えてください。

日本郵便ではさまざまな荷物を扱っております。「郵便法」によって、そもそも郵便と荷物(ゆうパック)は異なるもの、と定義されています。

  • 郵便……通信
  • 荷物……物流

荷物の中に手紙(信書)を入れてはいけないという決まりは、この法律が関係しています。そもそも、他社は取り扱う荷物の物流・宅配事業のみに専従しています。日本郵便の事業はこれらと異なり、「通信と物流に関する事業を行っている」ことを最初にご理解いただきたいです。

郵便追跡システムとは、書留・国際郵便・ゆうパックなどの荷物を追跡・再配達するための仕組みの総称です。書留以外の郵便物は郵便追跡システムで管理しませんが、郵便受けに入らない郵便物もありますよね。そういった郵便物は例外で、郵便追跡システム上で再配達の管理がされています。

追跡番号とお知らせ番号、2つの番号が存在する理由

――郵便や小包などには、追跡番号と別にお知らせ番号が付いています。どうして2つも必要なのでしょうか?

結論から言うと、追跡番号とお知らせ番号の2つの番号が存在するのは、日本郵便株式会社が国際通信業務と郵便(通信)業務を行っているからです。

普段使うのは、追跡番号のみですが、再配達の際に配達した局員がイレギュラーな対応として「お知らせ番号」を発行することがあるのです。

  • 追跡番号(お問い合わせ番号)……本来の追跡番号で、荷物の輸送中に一貫して使われる番号。11~13桁の英数字が付与されている。なお、郵便物(通信)に追跡番号は発行されない。
  • お知らせ番号……再配達用に発行される番号。いわばイレギュラー対応の番号で、6~8桁の数字を発行する。

――最初から追跡番号とお知らせ番号が混在しているわけではないんですね。

実は、お知らせ番号を付けている理由は2つあります。

1つ目は、追跡番号が使えない場合があるからです。郵便受けに入らない定形外郵便などは、配達員が「持ち戻り」をします。その際に「追跡番号のない無記録商品」として扱うため、追跡番号とは別にお知らせ番号が必要になってくるのです。

定形外郵便にはそもそも追跡番号がありません。そのため、再配達が生じたタイミングで、お知らせ番号を発行する必要がある。お知らせ番号は追跡番号と違って、ほとんどがその場で発行するものなのです。

もう1つは、国際郵便物に関係します。海外とやり取りする郵便物・荷物には、UPU【※1】の規定に従って13桁の追跡番号が付けられています。この末尾2文字がカントリーコードです。
※1 郵便に関する国際機関「万国郵便連合」。郵便物の流れや料金など、郵便の「通信」としての機能を策定している。

日本からアメリカに送る場合の追跡番号(UPUの規定による。下線部がカントリーコード)商品種別を示す番号体としてアルファベットが頭に2文字、続いて数字9文字、最後に英字2文字が続く。末尾の2文字がカントリーコード

カントリーコードは日本発の荷物は「JP」、アメリカなら「US」ですが、自動音声応答システムで使うのは電話機。アルファベットが使えません。数字に変換する必要があるため、追跡番号とは別にお知らせ番号を付けているのです。

――番号が2つ存在するのは、国際通信業務および郵便(通信)業務を行っているという事情があったんですね。追跡番号からお知らせ番号への変換も国際ルールがあるのですか?

UPUで定めているのは、13桁の追跡番号の付与だけ。追跡番号は最初からラベルに印刷してありますが、お知らせ番号はお届け先の不在時に、集配担当者が携帯端末機で自動発行します。いわば、お知らせ番号は日本郵便の独自ルールなのです。

郵便物の種類を選択しなければならない理由

――インターネット再配達などの申し込み時に「郵便物の種類」を選択しなければいけないのはなぜですか?

「なまもの」など種別によって転送先等が制限される場合があるからです。内容物の品質を損ねないためにも、再配達時に郵便物の種類を指定することで保管情報をきちんと管理する必要があるのです。お客さまにはご不便をおかけしますが、こういった理由で郵便物の種類を入力いただいているのです。

「郵便物の種類」を記入しなくて良い仕組みにはできないのか

――追跡番号の中に「郵便物の種類」の属性を示すような数字を入れるといった方法で、「郵便物の種類」記入の手間を省くなど、ユーザビリティを高めることはできないのでしょうか?

そうですね、バーコードや追跡番号で一元管理できれば非常に便利ですよね。しかし、

  • 法人のお客様から大量の荷物を一度にお受けする場合
  • 回線にトラブルが生じた場合

などに対応するため郵便物の種類をご記入いただいています。

法人のお客様から大量の荷物を一度にお受けする場合

実は、やろうと思えば追跡番号だけである程度の区分は識別できるんです。

荷物に貼り付けるラベルのバーコードはAからDまでの「スタートコード」と「ストップコード」の組み合わせにより作られた、NW-7【※2】というバーコード規格に準じています。一例ですが、小包の場合は「スタートコード」「ストップコード」が「A」、書留の場合は「C」です。
※2 CODABAR規格。印刷精度が要求されないことから、図書館の会員証など、さまざまな場所でバーコードとして利用されている

とはいえ、ECサイトやショップのように、大量の荷物・郵便物を送る大口のお客さまもいらっしゃいます。送る荷物の種別により、伝票を書き分けていただくのは大変な手間。生もの、チルド、冷凍などの「特殊取扱」が加わると、さらに複雑性は増し、現実的ではありません。本来であれば追跡番号だけで商品を特定することが望ましいのですが、どうしてもこのような事情があります。

回線にトラブルが生じた場合

郵便局内の回線にトラブルが生じた場合など、「不在持ち戻り」した郵便物のデータが未到着になるケースもあります。こういった場合に、バーコードの追跡番号だけで再配達の受付を行ってしまうと、荷物の特定に時間がかかる。もしデータがなかったとしても荷物を見つけやすくするために、再配達時に郵便物の種類情報をお客さまにご入力いただいています。

ここまでご説明したように、本来は追跡番号だけで荷物・郵便物を特定できればいいのですが、「大口対応」「回線トラブル」といった事情から、お客さまに郵便物の種類を記入してもらう形で、ご協力いただいている状況です。

――やはり「郵便物の種類」の記入は仕方ないことなんですね……。

しかし、お客様から「郵便物の種類がわかりにくい」とのご意見をいただくことが多いのも事実です。現在、改善のためのシステム整備を行っています。

荷物以外の郵便物・郵便ハガキには追跡番号が存在しない

――ところで、郵便局オタクの間では、ハガキに紫外線を当てるとバーコードが浮かび上がることが知られていますが、あれも郵便追跡システムと関係があるのでしょうか?

紫外線を当てると浮かび上がるバーコード

前述の通りです。郵便物を追跡するための仕組みは存在しませんので、郵便物に印字されているこのバーコードは、郵便追跡システムとは無関係の「道順組み立て」用のバーコードです。

これをもとに、書状区分機で、コード化した住所情報をもとに配達順路で並べます。郵便局員はお客さまの配達先に着いてからハガキを選別しているわけではなく、順路のとおりシステマチックに並んでいる郵便物を投函しているのです。このシステムは郵便番号が7ケタ化した1998年2月から導入されました。

――配達の道順まで組み立てるなんてすごいですね! 私は郵便仕分けのアルバイトをしていたことがあるのですが、こんな仕組みがあったとは知りませんでした。

お客さまが手書きで記載した住所をOCR【※3】で読み取りバーコード化するわけですが、OCR読み込みだけでは対処できない場合、読み取れなかった情報部分をオペレーターが手入力することもあります。郵便物が区分機を通過する際、郵便物に記載された宛名の画像情報と紐づけるための一時的なIDを印刷するのです。
※3 Optical Character Recognition/Reader。スキャナなどで読み取った文字をテキスト情報に起こす技術

――私が働いていた当時は手作業で仕分けをしていましたが、いまはIDやバーコードで一元管理しているのですね。技術の進歩を感じます。

郵便局を支えるハードウェア

ハードウェアの面にも触れておきましょう。郵便局の表側だけでも、さまざまな機器端末を使っています。

郵便追跡システムを支えているハードウェアには、窓口端末機や携帯端末機、内務事務PC、JP-PCと呼ばれる日本郵便グループ共通のパソコンなどがあります。全国規模での窓口端末機は約2万6000台、パソコンは約11万4000台、外務用携帯端末機は約14万5000台、それ以外に内務用携帯端末が2万~3万台ほどあります。

――規模がすごすぎて想像できません。

膨大な郵便物をさばく仕組み

現在郵便局を支えている追跡系システムのフロー。郵便・宅配事業における郵便の流れを管理しており、追跡情報をもとに、集配品質の遵守サービスや顧客サービス(メール配信、配達ステータス情報など)を提供している

追跡商品を受け付けた場合、まず、はかりと連動した貨物の重量表示をする窓口端末機でバーコードスキャンし、荷物情報を登録します。

郵便物の種類によって追跡情報の入力方法は異なりますが、集荷先あるいは窓口で「引き受け」情報を入力し、ネットワークのハブになっている地域区分局を通過するごとに「通過情報」を付加します。ゆうパックの場合は、小包区分機でバーコードを読み込んでデータを取得します。追跡番号が付与されるのはこのタイミングです。

追跡番号が付与された荷物は全国各地に運ばれ、最終配達をする郵便局に届いたタイミングで「到着」情報を入力します。配達する時には「持ち出し」を、お届け後には「配達完了」を入力します。不在の場合は「持ち戻り」になり、郵便局留めや私書箱宛ては「局留め」という情報を足します。

受け取り方や配達場所、商品によって入力する端末はさまざまです。たとえば、窓口端末機が混雑して入力できないケースではPC側から情報を入力したり、渉外社員用の携帯端末機から登録したりしています。

――携帯端末機はよく目にする気がします。PCからもその情報が入力できるようになっているのですね。

集配の担当者が腰に付けて持ち歩いているのがこの携帯端末機です。郵便局外での引き受けと引き渡しに使います。

クレードルから携帯端末機を抜いた瞬間に電源が入る仕組み

――誰がどの携帯端末機を持ち出しているか、紐付けはしているのですか?

はい。起動時に社員コードとパスワードの入力が必要です。ログイン情報によって、誰が持ち出したかだけでなく、いつまで使っていたのかを突き止めるためですね。集配担当者間でやり取りする場合も、この携帯端末機で記録・管理し、誰の手元に郵便物があるかわかります。郵便物・荷物の取り扱いは、このようにしてミスを減らしているのです。

――くだらない質問かもしれませんが、担当者はそれぞれ「マイ端末」を持っているんですか? たとえばステッカーを貼って自分流に “デコる” 職員がいるとか……?

ほぼ1人1台持っていますね。デコるのは禁止です(笑)。

端末にはさまざまな機能があります。不在票に貼るシールの出力や大口取引の引き受け、年賀状ハガキや切手を販売したときの領収証発行もできます。実は、端末には電話機能も搭載しており、通話もできます。再配達の指示などは携帯端末機の電話機能で行っているんですよ。

――そうなんですね! 通信手段はどうなっているんでしょうか?

携帯端末機の通信は、局内では無線LAN、局外では携帯電話のFOMAで行っています。収納庫内ではクレードル経由で郵便情報ゲートウェイというサーバーと通信し、データセンターに情報を上げています。

――FOMA網を使っているんですか。確かに離島など、どんな場所でも必ず郵便集配網がありますし、そうしたインフラ全体が郵便追跡システムを支えているんですね。

携帯端末機には電話機能が付いている

郵便局にはWi-Fiが飛んでいる

――郵便局内にWi-Fiがあるのは、個人的にびっくりしました。無線LANを使うことによって、セキュリティ上のリスクなどはありませんか。

無線LANは、外務用携帯端末を導入して集配する全ての局(集配局)で導入されています。セキュリティ面を鑑み、通信そのものは暗号化通信で行います。PNET(郵政総合情報通信ネットワーク)はグループ共用回線ですが、リスクヘッジのために意図的に1系網と2系網に分けています。1系網は貯金や保険など金融取引に使用し、各郵便局端末とデータセンターをつなげる追跡データは2系網回線で情報をやり取りしています。

――PCは社内で全て統一されていることにも驚きました。

JP-PCは、ゆうちょ、かんぽ生命などの金融サービスも含めたグループ共通のPCです。メールシステムなどセキュリティを共用しており、OS上の設定やソフトなどは共通の仕様で動いています。

追跡システムの歴史

――そもそも、現在のような追跡システムができたのはいつ頃でしょうか?

ゆうパックとEMS(国際スピード郵便)の追跡システムは1988年10月に、書留の追跡システムは1991年10月にそれぞれスタートしました。

この頃はもちろん、一般家庭向けのインターネットはありませんし、パソコン通信も広くは普及していません。サービス開始当時は、電話もしくは郵便局の窓口で「荷物は着いていますか?」と問い合わせていただくことが主流でした。

個人向けのPCが登場してからは、郵便局も時代の流れに対応していくようになります。利用者の利便性を図り、当時はまだ走りの技術だったPC-VAN【※4】やニフティサーブ【※5】などのパソコン通信で、追跡照会が可能になりました。郵便局内、センター側のネットワークもまだ貧弱で、局内にISDN回線【※6】を導入していたような時代でしたので、もちろん電話回線とは分けていましたね。
※4  1986年から日本電気(NEC)が運営していたパソコン通信サービス。2003年に廃止された
※5 1987年から2006年に、ニフティが運営していたパソコン通信サービス。2006年3月末で全サービスが終了
※6 電話回線をネットワーク用回線として使う技術。一般家庭では郵便局のようにデータ通信専用回線を用意するわけにもいかず、音声通話とデータ通信が共用だった。そのため今では考えられないが、「電話が鳴るとネットワークが切断される(キャッチホン回線の場合)」のが、Windows95世代のおっさん的には常識だった

――さすがにセンター側は電話の着電で落ちることがないとはいえ、今では考えられないほど貧弱なネットワークだったのですね!

インターネット追跡システムとLINE「ぽすくま」

現在のインターネットによる追跡サービスが始まったのは1997年4月のこと。インターネット上での再配達受付は2003年4月、差出人への配達完了報告メールサービスは同年5月にスタートしました。現在はLINEでも再配達受付や追跡ができます。

現在のインターネット再配達受付システム

――2016年1月からは、LINEの「ぽすくま」が始まりましたね。

郵便局では140年以上続く郵便の取り組みに負けないよう、常に時代に対応してきました。

「ぽすくま」もその流れのひとつです。日常のコミュニケーション手段として多くの方が使っているLINEから「気軽に郵便局のサービスをご利用いただきたい」と思い、本サービスを導入しました。

郵便局「ぽすくま」の使い方

ぽすくまは「荷物の追跡サービス」「再配達のお申し込み」「集荷のお申し込み」「配達状況のお知らせ」などの機能をLINEで提供しています。

「ぽすくま」の画面。以前の再配達依頼(画像左)は入力例どおりにメッセージを送らなければならなかった。現在は、画像をタップするだけでも日時指定が完了するなど、LINEに最適化されている

現在のお友だち数は約770万(2017年9月現在)。従来の電話等の不在再配達のお手続きに比べると、格段に早く手続きが可能となり、かつ手続きそのものも「簡単になった」と既に多くの方からご利用いただいております。

――郵便追跡システムは、膨大な機器やさまざまな工夫で成り立っていることがわかりました。いろいろと教えていただき、ありがとうございました!