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娘に牛乳をがぶ飲みさせ「太ることは女になること」…飲食拒否すると体罰
ヌアクショットの自宅で、太るために大量の牛乳を飲むマンスーラさん(右)。飲まないと足を締め付ける道具を見せてくれた
西アフリカのモーリタニアでは「太った女性は美しい」という考え方が根強い。そうした価値観は女性に何をもたらすのか。
大きなおわんいっぱいに注がれた牛乳。首都ヌアクショットの自宅で、中学生のマンスーラ・シェイバニさん(16)はおわんを両手で抱え、がぶがぶと飲み始めた。4分の1ぐらい飲むと「学校にはもっと太った子がいる。負けたくない」と真顔で話した。
マンスーラさんは1日に約5リットルの牛乳を飲む。胃を大きくし、高カロリーの食品をたくさん食べられるようにするためだ。食欲を増進させる薬も1日1錠飲んでいる。身長160センチ、体重65キロ・グラムだが「まだまだ足りない」とこぼした。
この食生活を指導するのが母親のテケイバさん(42)だ。自身も7歳から牛乳を毎日たくさん飲んできたという母は「モーリタニアの男は太った女が好き。太ることは女になること」と娘を見つめた。
太り具合が結婚の前提条件
モーリタニアはもともとサハラ砂漠の遊牧民の国だった。農耕が困難な過酷な生活環境で、太った娘は豊かな家の象徴となった。やせた娘は貧しい家の出身とみられ、嫁に出せないとも言われた。いつしか太った女性が好まれるようになり、モーリタニア人男性の7割が太った女性を好むという調査結果もある。社会習慣に詳しいヌアクショット大学のシジ・ムフタール教授は「若い女性の太り具合は、一家の社会的・経済的なレベルを示し結婚の前提条件となった」と指摘した。
結果として、娘を無理やり太らせる「ルブル」という習慣が広まった。ラクダなどの乳を大量に飲ませ、飲めなくなると足先を2本の短い木で挟んで罰を与え、さらに飲ませる。2011年の調査によると、モーリタニア人女性の6割が、10歳までに太るよう無理な生活を強いられた経験があるという。
無理に体重を増やして死亡した少女も
ヌアクショットの市場を歩く女性。街角ではふくよかな女性が多くみられる
街を歩くと実際、ふくよかな女性が圧倒的に多いという印象だ。記者が街角で男性10人に聞いたところ、5人が「やせた女性より太った女性が好み」と答えた。
ところがムハンマド・マデン医師は、「ルブル」の悪影響として心臓病や糖尿病、関節痛をあげた。
世界保健機関(WHO)が定めた「体格指数」で見ると、モーリタニアは女性が「肥満」の前の「太り過ぎ」に分類される。無理に体重を増やして少女が死亡したケースもある。
社会問題・子供・家族省は、メディアなどを通じて「ルブル」を撲滅する運動を展開している。健康被害を訴えたことで「ルブル」は昔よりは減っており、テケイバさんの友人のアイシャトゥ・アジウさん(38)も「今は娘に牛乳をたくさんは飲ませない」と話した。だが地方を中心に娘を無理に太らせる習慣は根強く残っている。(ヌアクショットで 本間圭一、写真も)
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【モーリタニア】 1960年にフランスから独立した共和制国家。国土は日本の約2.7倍で、人口は約430万人。イスラム教を国教とし、元首はウルド・アブドルアジズ大統領。日本にとって、タコの有力な輸入先となっている。
拒食症や骨変形…美の追求、悲劇の歴史
女性の美しさに対する考え方は、古今東西で異なるが、美を極めることに弊害が伴う点は共通している。
アラブ首長国連邦(UAE)のザハラット・アルハリジ誌などによると、中東では、細い腰回り、大きなお尻、濃いまゆ毛、黒色のアイシャドーが女性の美しさの象徴で、ふくよかさや豪華さが異性にもてる
WHOによると、女性の「肥満度」で見ると中東の国々の多くは「太り過ぎ」に分類されている。太ることをあまり気にしないことが一因といわれる。トルコでは女性の目元の整形手術が盛んだが、失敗例が相次ぐ。
一方、欧米や日本では、やせている方が美しいという意識が強く、ダイエットに関心がある女性は9割といわれる。だが拒食症になったり、死亡したりするケースもある。フランスでは今年、「やせ過ぎモデル」を規制する法律が施行された。
美の追求は、悲劇の歴史でもある。近代欧州では、ウエストを細く見せるコルセットが広まったが、骨が変形したり、血流が悪くなったりする症状が相次いだ。中国では伝統的に小さい足が美人の条件とされ、足の発育を止める「てん足」が行われた時代もあった。
一方、世界には「美しいも