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宋美玄のママライフ実況中継

コラム

私が子供に手を上げない、たった一つの理由

アスレチックに挑戦する娘です

 世界的なミュージシャンが中学生に体罰を加えたことがニュースになり、賛否両論を巻き起こしているようです。私が子どもの頃は、家庭や学校だけでなく、学習塾などでも体罰が容認されていたので、隔世の感があります。そこで今回は、体罰について私見を述べたいと思います。

 私には5歳の娘と1歳9か月の息子がいます。2人とも、とても手間がかかるタイプです。息子は、2歳前後の時期に訪れる「イヤイヤ期」の真っただ中。娘はイヤイヤ期を過ぎた今も、たびたび 癇癪かんしゃく を起こすため、夏休みの間は、毎日へとへとになりました。感情がコントロールできなくなった子どもたちに蹴られたり たた かれたりして、生傷が絶えません。また、 前回 書いたように「できないことを頑張らせる」ことにも大変手を焼いています。

 参考になるかもしれないと思い、いろいろな人の体験談や、育児書、児童精神科医の著書などを読んでいます。でも、本にあるような「ほめる」「励ます」「言い聞かせる」という対応では、全く効果がない時がしばしばあります。正直なところ、バシーンと一発叩けばおとなしくなるのではないか、恐怖で支配すれば言うことを聞くのではないか、という思いが頭をもたげることもあります。

 しかし私は、いくら相手が記憶に残らないほど幼くても、子どもたちに手を上げたくはありません。理由はただ一つ。子供たちに「暴力という、最終手段がある」と思ってほしくないからです。

 体罰や暴力が身近にある環境に育つと、将来、パートナーからDV(家庭内暴力)を受けた時に、「この人はおかしい」と思えなくなる可能性があります。体罰や暴力が決して起きない家庭にいれば、他人に1回殴られただけで、「どういうことか?」と思うでしょう。子供たちに将来、暴力を振るう側にも受ける側にもなってほしくないのです。

 というわけで、どうにもならないときは、今のところ私が「子どもたちの目の前からいなくなる」という方法をとって、双方の気持ちが落ち着くようにしています。

 体罰については、様々な立場からの意見が聞かれます。問答無用に「いけない」というものや、「暴力や恐怖で支配するのは、教育ではない」「体罰で解決するのは、教育として思考停止だから」といった反対意見がある一方、「信頼関係があるならよい」「それも『愛』である」「自分は厳しくされたから頑張れた」などの容認論もあります。

 体罰に肯定的な人の中には、自身が受けたことのある人もいます。でも、それは、本人の立場が弱いために表立って反論できなかったり、暴力という最終手段から逃れられなかったりした体験を、自分の中で受け入れようと無意識に「意味付け」しているのではないか、と私は思います。

 暴力を用いるのは、適切な解決法を探すことからの逃避でしかありません。私は、これからも子どもたちに手を上げずに育てていきたいと思っています。 (宋美玄、産婦人科医)

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宋 美玄(そん・みひょん)

産婦人科医、医学博士。

1976年、神戸市生まれ。川崎医科大学講師、ロンドン大学病院留学を経て、2010年から国内で産婦人科医として勤務。主な著書に「女医が教える本当に気持ちのいいセックス」(ブックマン社)など。詳しくはこちら

このブログが本になりました。「内診台から覗いた高齢出産の真実」(中央公論新社、税別740円)。

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