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【社説】

「残業代ゼロ」法案 「働き過ぎ」増えないか

 政府は、労働時間の規制を外す新たな働き方を創設しようとしている。長時間労働が社会問題化するなかで、この規制緩和は「働き過ぎ」を増やさないか。

 長時間労働が社会問題となったのは産業革命が進展する十九世紀の欧州である。

 フランスの皇帝ナポレオン三世が即位する前、著書「貧困の根絶」で、当時の工場労働の様子を取り上げている。それを東京大の水町勇一郎教授が著書「労働法入門」で紹介している。

◆産業革命で問題化

 「貧困の根絶」は記す。

 「工場は、人間をまるで物質・材料であるかのようにその歯車のなかで押しつぶしながら、農村を過疎化させ、人びとを息の詰まる空間へ密集させ、その精神を抜け殻にしてしまい、そして、必要がなくなると、工場を繁栄させるためにその力、その若さ、その生涯を犠牲にしてきた人びとを路頭に迷わせてしまうのである」

 水町氏は「実際に、当時のフランスの工場では、日当たりも風通しも悪く、労働災害や職業病も頻発していた。一日の労働時間は一二時間から一五時間で、祝日や休暇はなく、場合によっては日曜休日もなく、継続して働かされるという劣悪な状況がみられた」と解説している。

 まさに人権が無視されていた。この時代、イギリスを起点にした産業革命は発展の過程で、工場労働者を生み過酷な労働環境をまん延させた。

 事態が深刻化すると健康や生活不安への危機から労働者保護の法律や健康保険、年金などの社会保障制度が生まれた。

 日本でも明治の近代化の中で、紡績工場などでの過酷な労働を強いられた歴史がある。

 第二次大戦後になると国内の労働法の整備が進む。

◆憲法にも規定される

 まず憲法である。

 二七条は「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」と規定し、賃金と並び労働時間の規制を真っ先に挙げている。長時間労働を防ぐには、時間規制は重要な労働条件だからだ。憲法と前後して「集団」で労働条件を交渉するための労働組合法や、労働災害・失業時の生活を支える法律も整備されてきた。

 今回、改正が検討されている労働基準法はその中核だ。長時間労働を防ぐため、時間外労働には割増賃金を支払う義務を経営者に課すことでその抑制を狙っている。

 何より忘れてならないのは、労働者の立場は、経営者に比べ圧倒的に弱いという事実だ。だからこそさまざまな労働法が整備されてきた。その一つ一つは労働者が勝ち取ってきたものだ。今後も大切に守る必要がある。

 では今、政府が創設しようとする「高度プロフェッショナル制度」はどうだろうか。

 新たな働き方の対象は、高度な専門知識を生かす高年収の仕事で、例えば金融ディーラーやコンサルタント、研究者などだ。高年収の立場なら自身の裁量で仕事が進められる。だから、時間規制から外し自由に働き成果を出してもらう働き方だ、と政府は言う。

 だが、新制度の最大の問題は、この時間規制をごっそり外すことだ。労働界や野党の「結局、成果を出すために長く働くことになる。残業代を払わずに長時間労働をさせられる『残業代ゼロ』制度だ」との懸念は共有する。休日の取得義務付けなど健康を守る対策は入っているが、不十分との指摘がある。

 新制度は経済界の要望だ。対象者は十数万人ほどだが将来、年収要件を下げ対象者を増やしたい意向だ。なぜそこまでして創設する必要があるのか、政府や経済界の説明は十分とは言えない。

 政府は秋の臨時国会で、働き過ぎを防ぐ残業時間の上限規制策と一体にして改正案を出し直す方針だ。働く人が求める改正と「抱き合わせ」にして強引に法案を通すことを狙うのなら許されない。

◆「第4次」革命を迎え

 現代は「第四次産業革命」を迎えているといわれる。蒸気機関が発明された第一次、石油や電力を利用して大量生産を可能にした第二次、コンピューターの登場で仕事の自動化が進んだ第三次、そしてさまざまなモノがインターネットにつながり人工知能(AI)がそれを操る産業社会が第四次だ。いつでもどこでも仕事ができる環境が整うことで、労働時間の柔軟化が求められているという。

 働くことは生活の糧と社会への参加や生きがいを得る営みだ。人間らしさを失うまい。新産業革命を前に、蒸気機関による工業化が進んだ時代と同様、どんな働き方を実現するのか大きな課題に直面している。働く人をどう守るのか、その原点に返る議論が必要ではないか。

 

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