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» 2017年09月14日 17時05分 公開

iPhone X発表会を林信行が語る それは人類が向かう確かな行き先 (3/3)

[林信行ITmedia]
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次の時代へと導く、新しい動き

 CEOがティム・クックに変わってから活発化した新しい動きも多く紹介された。製品単位で次から次へと別の重役が出てきて紹介するという基調講演のスタイルを最初に行ったのは、体力の衰えていた晩年のスティーブ・ジョブズだったが、その後このスタイルを確立させたのは今のティム・クックCEOだ。

 今回の発表会でも、ファッションブランドであるバーバリーのCEOからAppleへ転身し、ファッション業界で大きな話題となったアンジェラ・アーレンツの初登壇を含む、さまざまな重役がステージを飾った。

間もなくオープンするアップル・ミラノ店を紹介するアンジェラ・アーレンツ

 アーレンツ氏は、「Apple Store」からただの「Apple」に名前が変わり、店としてのコンセプトが地域コミュニティーに馴染んだタウンスクエア(都市の中心地にある広場)へと移行しつつある直営店ビジネスの最新状況や、パリやミラノなどに間もなくオープンする新しい直営店を紹介。設計を手掛けるのはノーマン・フォスター卿のフォスター+パートナーズで、その土地土地の文化的背景や景観に溶け込む店舗作りに変化しているのが感じられる。

 一方、スティーブ・ジョブズとは違って、常に身体を鍛え健康への関心が強いティム・クックのCEO就任以来、Appleは健康に関する取り組みが一気に増えた。

 今や世界中で数億人が使用し、人々の生き方、あるいは命そのものに大きな影響を与えるようになったiPhoneやApple Watch。特に新Apple Watchの紹介では、新製品を説明する前に、Apple Watchで人生が変わった人々のさまざまな物語を紹介するビデオが披露された。

交通事故で身動きが取れずiPhoneも手の届かないところへ吹き飛ばされた男性。Apple Watchから緊急連絡をして命が救われた、という

 小児性糖尿病の子どもを持つ親がApple Watchで常に子供の血糖値を監視して安心できるようになった話、交通事故でiPhoneが遠くに飛ばされたまま身動き取れない状態になりApple WatchのSOS機能で救援を呼んだ人の話、毎朝Apple Watchでジョギングをし人生が変わった盲目のランナー、よりアクティブになった義足のロシア人――これらはいずれもApple Watchの既存機能によって人生が変化した例だが、新しいApple WatchのOSでは、これまでの機能や新たなジムのフィットネス機器とのデータ連携機能に加えて、心拍数センサーの利活用を大幅に広げた。

 少ない手間で心拍数を確認できるようにした他、休憩時の心拍数やエクササイズ後に上がった心拍数がどれくらいで平常に戻るかなども記録するようにした。心拍数データを見やすくし、突然の心拍数の変化を通知で知らせる機能もつけた。

 さらに日々の記録を元に「心房細動」に代表される心筋梗塞の原因にもなる不整脈の症状がないかをモニターしてくれる機能「Apple Heart Study」も搭載され、これにはスタンフォード大学が全面的に協力しているという。

Apple Watchでは心拍数モニターの機能を強化し、今後は不整脈なども発見を目指すという

 日本でも毎年、心疾患で命を落とす人が20万人近くいるという。世界で最も売れている時計が、自分では気がついていなかった心疾患にいち早く気づいて教えてくれることで、これからどれだけ大勢の人の人生に変化が起きるのだろう。その影響の大きさは無視できないものとなることだろう。

 このように、健康を通して人々の人生を変える取り組みも、ティム・クックCEOになってから活発化したAppleの新しい特徴だ。そしてもう1つ、環境への取り組みも無視できない。

 冒頭でも少し触れたが、Appleの新社屋は太陽光や風の流れまで計算された設計になっている。近々、一般向けに公開されるApple新本社、アップルパークのビジターセンターには、巨大なアップルパークの模型が置かれ、ここに貸し出し用のiPadをかざすとなんとかなりリアルなAR映像が現れる。

 iOS 11のARKitのすごさをまざまざと体験できるだけでなく、時間帯を変更して日がどこから昇るか、何時ごろにはどこに日陰ができるかを確認するだけでなく、風の流れを可視化して確認する機能もある。こうした取り組みは今後、建築の世界にも大きな影響を与え、世の中の建築を少しずつ変え、やがては世界の気候環境にも変化をもたらすかもしれない。

 ここ数年の基調講演の中でも非常に力のこもった発表会。重役の中で最も古株で、今回iPhone 8とiPhone Xの発表を請け負ったフィル・シラーが10年前のスティーブ・ジョブズを振り返って、こんな引用を紹介した。

 「私が進むのはパックが向かう方向、それまであった場所ではない」。

 これはアイスホッケー界のカリスマ、ウェイン・グレツキーの言葉で、数あるスティーブ・ジョブズによる製品発表講演の中でも最高と言われる10年前の「初代iPhone発表」講演を締めくくった言葉でもある。

ウェイン・グレツキーの言葉で締めくくるフィル・シラー

 シラーは「今のAppleにもそれができているだろう」と問いかけるような表情だったが、これから大勢の命を救うであろうApple Watchも、新iPhoneのカメラ機能の優秀さや、確実に大きなブームとなりそうなAR関連の機能も、これから人類が向かう確かな行き先だと私には思えた。

取材協力:アップルジャパン

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