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» 2017年09月14日 17時05分 公開

iPhone X発表会を林信行が語る それは人類が向かう確かな行き先 (2/3)

[林信行ITmedia]

ハード、ソフト、そしてルールメーカー

 Appleと言えば、ユーザーに高い価値を提供するために、時には戦略的に業界のルールを変える伝統や、新時代の標準技術を一気に世に広めるスタンダードセッターとしての伝統もある。今回の発表会でも、その伝統はしっかりと受け継がれていた。

 Appleはご存じの通り、収益の面でも時価総額の面でもあらゆる企業の頂点に立つ会社だ。iPhoneの発売では世界すべてのスマートフォンの総利益の8割をiPhoneが占めている。他のスマートフォンメーカーのように、単に出荷台数なら薄利多売の製品を大量に出すことで大きく見せることはできるが、健全に利益を生みながらビジネスを続けているのがAppleだ。他社と異なり、毎年発表する新モデルが2~3種類なのに、年間出荷台数は2億台を超えている。

 この他にも数々の世界1位の記録を持つAppleは、そのリストに今回「世界最大の時計メーカー」という項目を加えた。2016年までトップにいたROLEXを抜き去り、年率50%でユーザー数を伸ばして、見事1位の座についたという。

Apple Watch Series 3は、iPhoneを持ち歩かなくても腕からApple Musicの4000万曲を再生してくれる音楽デバイスという側面もある。16年前の初代iPodのキャッチフレーズは「1000曲をポケットに」だったことを考えると驚きの進化だ

 そんなAppleは、その圧倒的な影響力を行使して、世の中のインフラ企業に働きかけ、新しいルール作りに取り組むことがある。

 同社はこれまで表面からは分かりづらい販売流通の仕組みや、精密機械の製造における常識などを何度も覆してきているが、今回は世界の20の電話会社と組んで、いわゆるIoT機器における通信回線のルールを手直しすることに取り組んだ。

 そう、単体での通信通話ができる「Apple Watch Series 3」のことだ。リューズの先が赤く塗られたセルラーネットワーク(携帯電話通信)対応のApple Watch Series 3では、ユーザーが自分でSIMカードを差し込んで使うのではない。SIMカードは「eSIM」という組み込み型で、情報は書き換え可能。iPhoneとペアリングすることにより、そのiPhoneで使っていた電話番号と同じ回線を共有可能になる。契約している番号に電話がかかってくるとiPhoneとApple Watchが同時になり、どちらでも受けられるのだ。

Apple Watch Series 3の特徴はセルラー通信対応モデルが用意されたこと。対応モデルではコントロールパネルから通信機能をオン/オフできる

 1回線の契約で複数の携帯電話、あるいは携帯電話と別の機器で利用できるサービス形態は、実はNTTドコモが過去にも何度か行っている。

 ただし、2回線を新旧の通信規格で分ける必要があったり、利用する機器を切り替えるのに特殊な操作が必要だったりと、新Apple WatchとiPhoneの組み合わせほどうまい連携にはなっていない。

 そんな中、Appleは「ユーザーの使い勝手の良さを考えるとこれがベスト」だと、世界20社の携帯電話会社を説得して回ったのだろう。一気にこのスタイルを世界標準として広めてしまい、日本のキャリアも月々数百円の追加料金でこれを提供している。

AppleはiPhoneとApple Watch Series 3の回線共有で世界20事業者を説得した

 同様に4Kに対応したApple TV 4Kでも業界にメスを切り込んだ。新しいApple TVの登場に合わせてiTunes Storeで販売していた映画などのコンテンツは順次4K対応が行われるが、その際、購入済みのハイビジョンコンテンツに関しては無償で4Kにアップグレードしてくれるという。

 これまでVHSビデオ、DVD、Blu-ray DiscそしてiTunes Storeと、再生環境の主役が入れ替わるたびに自分の好きな映画を買い直してきた人は、プラスチックメディアからクラウド型メディアに移行したことの恩恵を強く感じるはずだ(しかも、それがDolby VisionとHDR 10の両方に対応した超画質となればなおさらで、作品の見え方が変わってくる映画も少なくないだろう)。

 Appleはこうした業界のルール作りをするルールメーカーであるのと同時に、業界のデファクトスタンダードを作ることにも長けている。

 例えば、そもそものUSB規格なども(確かにいち早く積極的に採用していた他メーカーはあったが)、世界規模で圧倒的な台数を売って広めたということでは初代iMacがそうだった。無線LANも、まだ規格策定途中のものをiBookが本体にアンテナを内蔵する形で真っ先に採用したし、3.5インチのフロッピーディスクを広めたのも、3.5インチを廃止する流れを広めたのもAppleだと筆者は見ている(これについてはネット上で賛否が分かれたので注記しておく)。

 そんなスタンダードセッターとしてのAppleに期待を抱かせる部分が今回の発表にもある。iPhone 8とiPhone Xでのワイヤレス充電規格「Qi」の採用だ。

 Appleは、iPhone 8やiPhone Xの背面がiPhone 4/4sシリーズ以来となるガラスに戻ったことを受けて、ワイヤレス充電規格を標準で採用した。置き方にあまり注意を払わなくても充電が失敗しづらい充電パッド「AirPower」を発売予定だ。これを使えば、iPhone本体だけでなく、Apple Watchと後日発売のワイヤレス充電ケースに入れたAirPodsヘッドフォンを置くだけで同時に充電できるようになる。AppleはこのAirPowerのほかにも、飲食店や空港、ホテルなどと組んでQi規格を広めるための使い方を提案していくとしている。

AppleはQi規格のワイヤレス充電を世界に広めるべく、自社でも充電マット「AirPower」を開発中

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