Photo Stories撮影ストーリー
今は廃墟となったホモワック・ロッジのボウリング場。(Photograph by Pablo Iglesias Maurer, postcard published by Bill Bard Associates)
ポコノ山地とキャッツキル山地は、米国東海岸に暮らす人々にとって、華やかな1950年代を象徴する絵に描いたようなリゾート地だった。
ところが今やかつてのにぎやかさは消え、人はほとんど足を踏み入れることがない。ゴミの山が築かれ、草木が手入れされないまま至るところに生い茂り、もはやリゾートというよりは廃墟だ。(参考記事:「中国にディズニーランド似の廃墟 朽ちゆく夢の世界」)
写真家のパブロ・マウラー氏は、捨てられたこれらのリゾート・タウンを3年間かけて撮影した。きっかけは、廃墟好きのマウラー氏がペンシルベニア州ポコノ山地にあるペンヒルズ・リゾートの事務所跡を訪れたときのこと。そこで見つけた古いマッチ箱に、屋内プールの写真が印刷されていた。さらに敷地内を歩いて行くと、写真のプールに行き当たった。マウラー氏は、マッチ箱の写真がどのアングルで撮影されたのかを突き止めると、同じ位置に立って、数十年の時を経たその風景をカメラに収めた。
「ほかにも、当時の印刷物を探してみようと思いつきま、オンラインオークションや近くのアンティークショップで古い絵葉書を手に入れました」と、マウラー氏は語る。
それらのアンティーク写真を持って、マウラー氏は撮影された場所を探し出し、ビフォーアフターの比較写真を作成した。
「写真はどれも、哀愁を帯びたような何とも言えない感情を呼び起こしてくれます」。ワシントンDC在住のマウラー氏は、この感情をとらえようと、3年間ポコノとキャッツキルに通いつめ、時の経過を思わせる写真を撮り続けた。
訪れた建物や空間はどれもマウラー氏にとって特別なものになったが、なかでもとりわけ強く印象に残っている場所がある。
キャッツキルにあるホモワック・ロッジのボウリング場だ。「クリスマスの日、家族が出かけていて、私は何もすることがなかったのでここを訪れたんです。中に入って、ボウリングをしました。すごく非現実的な瞬間でした。つい最近までここに人がいたように感じたのです」
キャッツキル山地一帯は、1930年代から80年代にかけてにぎわい、映画の題材にもなった。米ブラウン大学キャッツキル研究所の報告によると、このリゾート地の衰退は、人々が「古いものに飽きた」ことと、もっと遠いリゾート地へ安く旅行できるようになったためだという。
同様に、ポコノのペンヒルズ・リゾートも、20世紀末から緩やかに下降線をたどり、2009年に閉鎖された。(参考記事:「【動画】廃墟と化した旧ユーゴの「生き地獄」」)
この作品を発表して以来、マウラー氏は写真に写るリゾート地で夏を過ごしたことがあるという人々から多くのメールやメッセージを受け取ったという。
「人々は、写真の中の荒廃した風景を、もっと広い意味での荒廃という概念に結び付けています。あの頃輝いていたものが、今は荒れるがままになっている。多くの人はこれを見て、人間がどれだけ物を無駄に捨てているかを改めて感じるのだと思います」(参考記事:「森の教えにしたがい暮らす、小さな生活共同体 写真14点」)