“大型ベビーカー”は車道に?

“大型ベビーカー”は車道に?
小さな子どもたちが何人も乗ったリヤカーのような大型のベビーカー。見かけた方は多いのではないでしょうか。都心の保育園で小さな子どもたちを近くの公園に連れて行く時などに使われています。この大型のベビーカーに電動アシスト機能が付いた特定の製品について「軽車両として車道を通行する必要がある」という国の見解が出されたのに対し、ネットでは「ベビーカーが車道を通行するなんて危ない」と疑問の声が相次いでいます。見解の真意と議論の背景を取材しました。(ネットワーク報道部記者 戸田有紀 郡義之 伊賀亮人)
発端となったのは9月7日に経済産業省が出したニュースリリースです。「電動アシスト機能が付いた6人乗りのべビーカーは『軽車両』に該当するため、道路交通法上、車道もしくは路側帯の通行が求められ、道路運送車両法上、警音器の設置など、『軽車両』の保安基準に適合する必要がある」と見解を示したのです。
これに対して、ネットではさまざまな意見が飛び交いました。

ネットで議論 “ベビーカーは「軽車両」か”

発端となったのは9月7日に経済産業省が出したニュースリリースです。「電動アシスト機能が付いた6人乗りのべビーカーは『軽車両』に該当するため、道路交通法上、車道もしくは路側帯の通行が求められ、道路運送車両法上、警音器の設置など、『軽車両』の保安基準に適合する必要がある」と見解を示したのです。
これに対して、ネットではさまざまな意見が飛び交いました。
賛否さまざまな声があがり、ネットで議論となったのです。

経済産業省では

ではそもそもなぜ、こうしたリリースを出したのか。経済産業省に聞いてみました。まず回答があったのは、「これは特定の製品についての見解で、大型ベビーカー全体に出したものではない」ということ。

経済産業省によると今回の見解は商品やサービスを提供する上で規制のあいまいな部分を解消して企業の競争力を高めることを目指す「グレーゾーン解消制度」に基づいて検討した結果だとしています。この制度は、企業が事業を始める際にどんな規制がかかるかを企業側が事前に確認できることで規制が多い分野でも新規参入を促すことが目的です。今回のケースでは、電動アシスト機能付きの大型ベビーカーの輸入販売を検討している企業から、法律上の扱いを照会されたということです。

道路交通法を所管する警察庁、道路運送車両法を所管する国土交通省に確認したところ、観光地で使われる人力車などと同じように「軽車両」にあたると回答があったことから冒頭の見解を示したということです。

そもそも警察庁では平成27年1月に、電動アシスト付きのベビーカーは、大きさとして、長さが120センチ、幅が70センチ、高さ109センチを超えないことや、最高速度が時速6キロを超えないことなどを条件として、車道を走らなければいけない「軽車両」ではなく歩道の通行が可能な「乳母車」として扱うという見解を示しています。

今回、照会があった大型ベビーカーは、この基準に照らし合わせてみると車体の大きさなどが超えていて、「乳母車」ではなく「軽車両」と判断したということです。

一方、経済産業省では、今回の見解は、あくまで照会元の企業が指定した「特定の製品」についてのもので、アシスト機能が無い手押しのものなど、大型のベビーカーすべてに適用されるものではないとしています。

大型ベビーカーの需要は増加

ベビー用品の輸入を手がける大手代理店によると、過去に電動アシスト付きの大型のベビーカーを販売したもののあまり売れなかったことから、現在は扱っておらず、国内ではほとんど普及していないと見られるということです。
一方で、手押しの大型ベビーカーそのものの需要は増えているということです。背景には、大きな庭のない保育園の存在があります。
園庭のない保育園
国は待機児童の解消のため、保育所の設置について規制を緩和。商用ビルなどの中でも保育所の新設を可能とし、さらに近くの公園を使うことも奨励したことで、土地の確保が難しい都市部を中心に、園庭の無い保育園が増えているのです。こうした保育園では子どもたちの外遊びの機会を確保するため、近くの公園に散歩に出かけることが多くなっています。歩くのもおぼつかない小さな子どもたちを公園に連れて行くためには、大型ベビーカーが欠かせないというのです。

保育士の負担解消に

東京・世田谷区にある「太子堂なごみ保育園」では、これまで4人乗りの大型ベビーカーを1台使っていました。園庭が無いため、少しでも外で遊ぶ機会を増やそうと、今年になって手押しの大型ベビーカーを2台購入し、来月までにもう1台購入する予定です。
園の担当者は「子どもは行動が予測不可能なため、保育士が園児の手を引いて外出するのは交通事故のリスクもあり、負担が大きい。そうした負担を軽くする点からも大型のベビーカーは本当に重宝している」と話しています。

どう扱うべきか?

こうした大型ベビーカーの需要の高まりを見て、電動アシスト付きも一定の需要が見込めると考えたことが、販売を検討している企業が法律上の扱いを経済産業省に照会した理由だということです。結果的に車道を通行する必要性があるという形になったことで、販売につながるかは不明ですが、今回示された見解では、別の疑問が解消されていません。
そもそも手押し型の大型ベビーカーの法律上の扱いはどうなるのかは、見解が示されていなかったからです。政府の待機児童対策に合わせて保育の現場で必要性が増している大型ベビーカー。法律上の扱いを明確にするだけではなく、子どもたちの安全と保育士の負担軽減という観点を大切にして、対応を検討していくことが求められています。
(追記)
私たちが取材した後、動きがありました。警察庁が14日、手押しの大型ベビーカーに対する見解を明らかにしたのです。

手押しのものは大きさに関わらず、すべて「歩行者」と同じ扱いとなり、歩道を通行できるというものです。ちなみに、障害者や高齢者が使用する電動の車いすも「歩行者」として扱われ、歩道を通行できます。歩行者もベビーカーも歩道を安全に通ることができるよう配慮しあえるといいなと思いながら取材を終えました。
“大型ベビーカー”は車道に?

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小さな子どもたちが何人も乗ったリヤカーのような大型のベビーカー。見かけた方は多いのではないでしょうか。都心の保育園で小さな子どもたちを近くの公園に連れて行く時などに使われています。この大型のベビーカーに電動アシスト機能が付いた特定の製品について「軽車両として車道を通行する必要がある」という国の見解が出されたのに対し、ネットでは「ベビーカーが車道を通行するなんて危ない」と疑問の声が相次いでいます。見解の真意と議論の背景を取材しました。(ネットワーク報道部記者 戸田有紀 郡義之 伊賀亮人)

ネットで議論 “ベビーカーは「軽車両」か”

発端となったのは9月7日に経済産業省が出したニュースリリースです。「電動アシスト機能が付いた6人乗りのべビーカーは『軽車両』に該当するため、道路交通法上、車道もしくは路側帯の通行が求められ、道路運送車両法上、警音器の設置など、『軽車両』の保安基準に適合する必要がある」と見解を示したのです。
これに対して、ネットではさまざまな意見が飛び交いました。
ネットで議論 “ベビーカーは「軽車両」か”
賛否さまざまな声があがり、ネットで議論となったのです。

経済産業省では

経済産業省では
ではそもそもなぜ、こうしたリリースを出したのか。経済産業省に聞いてみました。まず回答があったのは、「これは特定の製品についての見解で、大型ベビーカー全体に出したものではない」ということ。

経済産業省によると今回の見解は商品やサービスを提供する上で規制のあいまいな部分を解消して企業の競争力を高めることを目指す「グレーゾーン解消制度」に基づいて検討した結果だとしています。この制度は、企業が事業を始める際にどんな規制がかかるかを企業側が事前に確認できることで規制が多い分野でも新規参入を促すことが目的です。今回のケースでは、電動アシスト機能付きの大型ベビーカーの輸入販売を検討している企業から、法律上の扱いを照会されたということです。

道路交通法を所管する警察庁、道路運送車両法を所管する国土交通省に確認したところ、観光地で使われる人力車などと同じように「軽車両」にあたると回答があったことから冒頭の見解を示したということです。

そもそも警察庁では平成27年1月に、電動アシスト付きのベビーカーは、大きさとして、長さが120センチ、幅が70センチ、高さ109センチを超えないことや、最高速度が時速6キロを超えないことなどを条件として、車道を走らなければいけない「軽車両」ではなく歩道の通行が可能な「乳母車」として扱うという見解を示しています。

今回、照会があった大型ベビーカーは、この基準に照らし合わせてみると車体の大きさなどが超えていて、「乳母車」ではなく「軽車両」と判断したということです。

一方、経済産業省では、今回の見解は、あくまで照会元の企業が指定した「特定の製品」についてのもので、アシスト機能が無い手押しのものなど、大型のベビーカーすべてに適用されるものではないとしています。

大型ベビーカーの需要は増加

ベビー用品の輸入を手がける大手代理店によると、過去に電動アシスト付きの大型のベビーカーを販売したもののあまり売れなかったことから、現在は扱っておらず、国内ではほとんど普及していないと見られるということです。
一方で、手押しの大型ベビーカーそのものの需要は増えているということです。背景には、大きな庭のない保育園の存在があります。
大型ベビーカーの需要は増加
園庭のない保育園
国は待機児童の解消のため、保育所の設置について規制を緩和。商用ビルなどの中でも保育所の新設を可能とし、さらに近くの公園を使うことも奨励したことで、土地の確保が難しい都市部を中心に、園庭の無い保育園が増えているのです。こうした保育園では子どもたちの外遊びの機会を確保するため、近くの公園に散歩に出かけることが多くなっています。歩くのもおぼつかない小さな子どもたちを公園に連れて行くためには、大型ベビーカーが欠かせないというのです。

保育士の負担解消に

東京・世田谷区にある「太子堂なごみ保育園」では、これまで4人乗りの大型ベビーカーを1台使っていました。園庭が無いため、少しでも外で遊ぶ機会を増やそうと、今年になって手押しの大型ベビーカーを2台購入し、来月までにもう1台購入する予定です。
園の担当者は「子どもは行動が予測不可能なため、保育士が園児の手を引いて外出するのは交通事故のリスクもあり、負担が大きい。そうした負担を軽くする点からも大型のベビーカーは本当に重宝している」と話しています。

どう扱うべきか?

こうした大型ベビーカーの需要の高まりを見て、電動アシスト付きも一定の需要が見込めると考えたことが、販売を検討している企業が法律上の扱いを経済産業省に照会した理由だということです。結果的に車道を通行する必要性があるという形になったことで、販売につながるかは不明ですが、今回示された見解では、別の疑問が解消されていません。
そもそも手押し型の大型ベビーカーの法律上の扱いはどうなるのかは、見解が示されていなかったからです。政府の待機児童対策に合わせて保育の現場で必要性が増している大型ベビーカー。法律上の扱いを明確にするだけではなく、子どもたちの安全と保育士の負担軽減という観点を大切にして、対応を検討していくことが求められています。
(追記)
私たちが取材した後、動きがありました。警察庁が14日、手押しの大型ベビーカーに対する見解を明らかにしたのです。

手押しのものは大きさに関わらず、すべて「歩行者」と同じ扱いとなり、歩道を通行できるというものです。ちなみに、障害者や高齢者が使用する電動の車いすも「歩行者」として扱われ、歩道を通行できます。歩行者もベビーカーも歩道を安全に通ることができるよう配慮しあえるといいなと思いながら取材を終えました。