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グローバリズム 自由貿易

日本よ、いい加減、現実を見よう 自由貿易が社会を傷だらけにする

世界も国内も、グローバル化で分断された

「アメリカ・ファースト」を強調するトランプ大統領。EUからの離脱を決めた英国。先進各国では「アンチ・グローバリズム」の動きが、今も続いている。一方、日本政府は「自由貿易こそ経済発展のかなめ要だ」という構えを崩さない。しかし、それは「時代を読み違えた態度」なのではないか? そう語るのは、経済思想が専門の京都大学准教授・柴山桂太氏だ。近著『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』(集英社新書)で、自由貿易が社会に深刻な「分断」をもたらすと指摘した柴山氏に、グローバリズムがもたらした矛盾をどう見るべきかを聞いた。

自由貿易の擁護にまわったBRICs

自由貿易についての国際世論に、変化の兆しが見られる。

これまで自由貿易の推進役だった先進国で反自由貿易の機運が高まり、どちらかと言えば保護貿易に傾きがちだった新興国から、「自由貿易を守れ」との声が上がり始めている。

先日開かれたBRICs首脳会議では、「あらゆる国と人々がグローバル化の利益を分かち合える、開放的な世界経済の重要性を強調する」とする共同宣言が採択されたという。これが、保護貿易に傾きつつあるアメリカ・トランプ政権への牽制であることは明らかだ。

BRICsBRICsサミットに集まったブラジル、ロシア、中国、南アフリカ、インドの新興5ヵ国首脳(Photo by Getty Images)

少し前まで、世界中の国々に市場開放を押しつけていたのはアメリカだった。ところが今では、新興国が自由貿易の意義を強調し、当のアメリカでは反自由貿易派の大統領が選ばれる。時代の変化をこれ以上、雄弁に物語るものはない。

 

自由貿易への幻滅が拡がっているのはアメリカだけではない。

世界18ヵ国を対象に行われた英エコノミスト誌の調査によると、「グローバル化で世界は良い方向に向かっている」と考える人の割合は、アメリカ、イギリス、フランスなどの先進国で軒並み5割を切っている。ベトナム、フィリピン、インドで、8割以上がグローバル化に好意的なのとは対照的だ。

この調査では、総じて新興国の方がグローバル化に好意的で、先進国は批判的という傾向が見られる(残念ながら、日本は調査対象に入っていない)。

「グローバル化が人々に利益をもたらす」は本当か? 

なぜ、先進国で反自由貿易の機運が高まっているのだろうか。マスメディア等でおなじみの解釈は、「自由貿易の利益が正しく理解されていない」というものだ。

自由貿易は先進国、新興国を問わず全ての国に恩恵をもたらす。それぞれの国が、自国のもっとも優位な分野に特化した生産を行えば、世界全体の労働生産性は上昇し、消費者は安くて質のいい財やサービスを享受できる。保護貿易で海外製品をブロックすると、一部の生産者は助かるかもしれないが、消費者は割高な国産品しか買えなくなるので、社会全体で見ると損失の方が大きくなる――。

こうした説明を、誰もが一度は聞いたことがあるはずである。

実際には、経済学者は市場が教科書通りに働かないケースが多々あることを認めており、貿易についてももっと複雑な見方をしている。しかし世間一般には、自由貿易についての通り一遍の説明で済ませることが多い。

世界中のメディアも、この立場を支持している。日本も例外ではない。自由貿易に反対する者は、経済学の基本(特に「比較優位の原理」)をわきまえていないか、関税や補助金をあてにする圧力団体(JAなど)に与しているかのどちらかだ、というわけである。

この伝でいくと、アメリカなどの先進国で保護貿易派の政治家が出てくるのは、「有権者が貿易について正しい知識を持っていないからだ」ということになる。反対に、グローバル化を歓迎している新興国の人々は、「立派に教育されている」ということになるはずだが、本当にそうなのだろうか。