高校生が日本初の「騒音トラブル解決モデル」を発足。周辺住民からの苦情も激減
◆猛暑でも体育館の窓を閉めて練習、応援団は太鼓にタオルを当てて消音
長野県松本深志高校では、10年ほど前から吹奏楽部の楽器や応援団の太鼓、球技などの音に近隣住宅から「うるさい」との苦情が寄せられていた。このため、運動部は猛暑でも体育館の住宅側の窓を閉めて練習、吹奏楽部は屋外練習を自粛し、応援団も太鼓にタオルを当てて消音に努めてきた。
昨年9月、応援団と放送委員会に所属する柳原真由さん(当時2年生)は、応援団の顧問から「住民から『うるさい』と苦情があった」ということを聞き、この問題を考え始めるようになったという。
「『どうして部活動が理解してもらえないの?』と思うばかりでした。ほかの生徒も『この場所は学校が先に建っていて、住宅地が後にできたのだから、苦情を言うのは違うだろう』との意見も多かったです」
◆苦情を寄せる住民は、実は少数だとわかる
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柳原さんはこれを機に、応援団だけでなくほかの部活動、そして他校にも同じ苦情があることを知った。文化祭の後夜祭での打ち上げ花火を中止した高校、文化祭のコンサートでは窓に消音用のべニアをはめこむ高校……。
「私も、“騒音”を出す2つの部(応援団と放送委員会)に所属しています。そこで『そもそも、住民の方々は私たちの出す音をどう思っているのかな?』との疑問を覚え、近隣住民との意見交換会を企画しました」
柳原さんは“騒音”を出すと言われる部活の部長ら20人で実行委員会を立ち上げる。20人は、学校から2区画の範囲に住む140軒の一軒一軒を訪ね、「意見交換会」のチラシを渡しながら交換会への参加を呼びかけた。そして11月20日、第1回意見交換会が実現する。
生徒はそれまで近隣住民と話したこともなければ、話す必要も感じたことがなかった。だが、住民を直接訪問したことと意見交換会をしたことで、双方に収穫があったという。
「住民全員が苦情を言っているのではなく、実は少数の人だけだということがわかりました。住民の方々も、『生徒たちがここまで我慢をしていたのか』と驚いていたようです」
その後、吹奏楽部に試験的に屋外で演奏してもらい、それが地域でどう聞こえるかを生徒と住民で検証した。その結果、住民たちは部活動への理解を深めていったのだ。
◆生徒、地域、学校の三者で常設フォーラムを設置
今年3月19日に開催された第2回意見交換会では、住民から「町会でもっと積極的に取り組んでは」との意見が出た。それを受けて、1人の町会長が「意見交換会は意見の交換だけで、議決機関ではない。生徒、地域、学校の三者間で何かしらの議決ができる常設フォーラム設置を検討したい」と提案。この提案は了承され、すぐに三者が動くことになる。
生徒側の代表は柳原さん。柳原さんは「地域交流委員会」を設立し、同委員会がフォーラムに参加するための原案を生徒会本部会で協議。次いで評議員会の議決、そして最後に生徒大会での承認と走り続けた。
◆日本初の「騒音問題解決モデル」が発足
地域住民を動かしたのは生徒たちの「覚悟」だった。放送部員でもあった柳原さんは、一連の記録をドキュメンタリー映像「鼎談深志」にまとめ、今年のNHK全国高校放送コンテストのテレビドキュメンタリー部門で優勝を勝ち取るのだが、その映像の中で地域住民がこう発言している。
「生徒さんがあれだけ努力しているのに、住民が黙っているわけにはいかなかった」
そして5月27日、学校周辺の町会役員9人、生徒10人、学校の管理職などが集い、「鼎談深志」と名づけられた三者協議会が発足した。
さっそく、体育館や吹奏楽部部室の窓の開放を夏の3か月間、試験的に行うということが決まった。病気がちな住民への音の配慮など、その都度話し合うべき課題はあるが、生徒たちは『深志高校新聞』を近隣に配布したり、球技大会の前にはその旨を周知したりと、顔が見える関係づくりに腐心している。その結果、松本深志高校に寄せられる苦情の数は確実に減っているという。
騒音問題解決のヒントがここにある。地域で人と人とが交流すること、トラブルに備える組織を設置しておくことだ。この組織「鼎談深志」は、柳原さんが卒業する来春後も残る。そして、年1回の定例会や臨時会で、双方が納得できる問題解決を目指すのだ。
松本深志高校の活動は、おそらく日本で初めてといってもいい騒音問題の解決モデルだ。これがどう伝播するのかを注視したい。
※週刊SPA!9月12日発売号掲載記事「騒音トラブルで殺されない方法」より
取材・文・撮影/樫田秀樹 写真/松本深志高校