脚本の岡田惠和さんとは20年以上前から何度もお仕事をさせていただいています。『ひよっこ』は今までの岡田さんの脚本の中でいちばんすてきだと感じました。台本を外で読んでいたときに、涙が止まらなくて鼻をすすりながらどうしよう…ってなるくらい。みね子(有村架純)が世津子に言う「幸せでいてもらわないと困るんです。じゃないと、お父ちゃんに起きてしまった悲しい出来事がなしになんない」というセリフや、みね子が島谷(竹内涼真)との別れで、大好きな人の手を自ら離してしまうところとか、そんな繊細な感情を表すセリフやシーンが岡田さんらしさだと思います。
世津子は途中から出てくる役なので、岡田さんから、とても丁寧なキャラクター設定をいただきました。私、恥ずかしながら、昭和の名作映画をほとんど見たことがないということに気づいたんです。今回改めていくつかの作品を見たところ、女優の皆さんが若くても達観したたたずまいで、落ち着きと円熟した魅力にびっくりしました。
なんでそんな大女優の役を私にやらせたいと思ったのか、いまだに分かりません(笑)。
あのシーンは、長回しの一発撮りでした。世津子はきっと、「悪いのはこちらだから、ちゃんと謝るべきだ」と思う人。自分としては、本当はこうだと弁明したい部分もあるけど、それを全部言っちゃいけないというのもわかっている。実さん(沢村一樹)を好きな女性である一方で、女優だからこそ、その場にいる人の立場や気持ちが台本を読むようにわかる。美代子さん(木村佳乃)の気持ちも、何も言えないみね子さんの気持ちも。もし、番組を見た方に世津子もかわいそうだと思えてもらえたのなら、それは、女優という職業がよかったのかもしれません。
本当に微妙なシーンだったので、こうしようと考えるのもあざとくなるかなあとか、気持ち一本勝負でやるほうがいいのかなあとか。いろいろ考えて…いまだだにあの演技でよかったのか分かんなくて…。一つ言えるのは、美代子さんが木村佳乃さんでよかったです。
世津子が登場してからの前半はシリアスなシーンが多かったですけど、みね子ちゃんにマンションから助け出してもらうあたりから、チャーミングな部分も出てきますよね。逃げなきゃいけないのに大きなスーツケースを引っ張ってきたりして(笑)。本当はマイペースでお姫様みたいなところがある人なんじゃないかな。あかね荘に行ったら全然“姫感”がなくなって、メイクも薄くなるし、初期設定とだいぶずれたなあ…と思っています(笑)。
愛子さん(和久井映見)ともこれからどんどん仲良くなりますが、孤独な世津子にとって、愛子さんとじゃれあうことはすごく楽しいことだと思うんです。私は和久井映見さんを大尊敬しているので、じゃれあうシーンなんて前日からドキドキしちゃいました。
ビアガーデンのシーンは楽しかったですよ。幅広い世代の演者さんがこんなに集まるのは、大河ドラマや朝ドラならではだと思います。本番もわちゃわちゃしていておもしろかったです。三宅さんの「ヤスハルぅ〜」がおかしくて(笑)。白石さんが、「役者がたくさん集まるとおもしろいわね〜」っておっしゃっていて、それを聞いたらなんだかうれしくなりました。
気になるキャラクターは青天目澄子ちゃん(松本穂香)。澄子ちゃんて、向島電機が倒産したあとに、ポッと出てきてもずーっと澄子ちゃんで、喜怒哀楽を表現していてもずーっと澄子ちゃんで。世津子でもそれができればいいんですよね。服装が変わっても世津子は世津子ってことができればいいんだろうなあっていうのを“青天目ちゃん”を見ながら思いました(笑)。