「9条は全面削除しても何の支障もない」

戦争を放棄したのは日本だけではない

2017年9月13日(水)

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安倍晋三首相が、憲法9条に「自衛隊の存在を明記する条文を加える改正を目指す」との意向を示したのを受けて、改憲論議がにわかにあわただしくなってきた。果たして、どのように改憲すべきなのか。議論は百家争鳴の様相を呈す。「9条は削除してよい」と語る篠田英朗・東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授に聞いた。

(聞き手 森 永輔)

日本国憲法の署名原本。一番右に当時首相の吉田茂、その左に幣原喜重郎の署名がある(写真:毎日新聞社/アフロ(国立公文書館所蔵))

篠田さんは憲法9条を削除してもかまわないとされています。その意図は何でしょう。

篠田英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授
専門は平和構築。早稲田大学政治学研究科政治学専攻修了、ロンドン大学(LSE)Ph.D.(国際関係学)。平和構築と法の支配、平和構築と現地社会のオーナーシップ、国際秩序、国家主権、平和構築の政策的課題の研究を中心に、国際社会の秩序や国家主権の問題を研究。大佛次郎論壇賞(2003年10月)およびサントリー学芸賞(2012年12月)を受賞。主な著書に『集団的自衛権の思想史』『国際紛争を読み解く五つの視座』『ほんとうの憲法』など。(写真:加藤康、以下同)

篠田:9条は、先の大戦で負けるまで「ならず者国家」だった日本が、二度と国際法を破ることなく平和国家として歩んでいくことを宣した条項です。日本は満州事変を起こし、第一次世界大戦後の国際的な法規範に挑戦しました。東アジアを中心に空前の侵略行為を繰り返した。このようなことは、もう絶対にしないという1946年時点での宣言です。

 その後、日本は戦争を違法とする国連憲章を遵守することを約束し、1956年に国際連合に加盟した。したがって、9条の内容は、国際法を遵守することで確保できることが確定しました。よって削除してもかまわないと考えています。

 しかし、既に70年も歴史がある条項で、削除すると政治的なマイナス効果も生じ得るので維持しても構わないと考えています。9条を、政治的な立場に寄ることなく素直に読んで解釈すれば実害はありません。自衛隊を違憲とするような解釈にはなりませんから。

篠田さんは9条をどのように解釈すべきと考えていますか。

第九条

①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

篠田:私は、起草の経緯、特に国際法を遵守する国際協調主義に沿って、解釈すべきだと考えています。日本国憲法を起草したのは米国人を中心とする連合国軍総司令部(GHQ)です。日本の憲法学者の中には、国民が「8月革命」を起こし、絶対主権を行使して日本国憲法を制定したと論じ、米国の影響を無視する向きがありますが、それは非現実的ではないでしょうか。国際法とは、不戦条約および国連憲章を指します。

 まず9条1項は、日本国憲法前文が掲げる目的「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」を確認するものです。

日本国憲法 前文(抜粋)

 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。

 9条1項の「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては」の部分は、1928年に署名された不戦条約(ケロッグ・ブリアン条約)にある表現を焼き直ししたもの。戦争を一般に禁止する取り決めです。国連憲章は2条4項で武力行使を一般的に禁止しています。憲法9条1項の内容は、憲章2条4項の遵守で確保されます。

不戦条約 第一条

締約国は、国際紛争解決のため、戦争に訴えないこととし、かつ、その相互関係において、国家の政策の手段としての戦争を放棄することを、その各自の人民の名において厳粛に宣言する。

国連憲章 2条4項

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。

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「「9条は全面削除しても何の支障もない」」の著者

森 永輔

森 永輔(もり・えいすけ)

日経ビジネス副編集長

早稲田大学を卒業し、日経BP社に入社。コンピュータ雑誌で記者を務める。2008年から米国に留学し安全保障を学ぶ。国際政策の修士。帰国後、日経ビジネス副編集長。外交と安全保障の分野をカバー。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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