アメリカ発の「強く、かしこく、やんちゃな」女の子向け雑誌

“A Magazine For Girls Who Aren’t Afraid to Make Some Noise”(声を上げることを恐れない女の子のための雑誌)――こんなキャッチコピーが毎号表紙を飾る、女子小学生がメインターゲットの雑誌『Kazoo』が、昨年アメリカで創刊された。

5~10歳の女の子向けの雑誌とはいえ、着回しコーデもダイエットもヘアアレンジの記事もない。代わりに載っているのは、科学実験、アートプロジェクト、レシピ、ダンスの仕方、ZINE(個人誌)の作り方、意見の言い方、コミック、女子アスリートや科学者へのインタビューなどだ。

『Kazoo』Webサイトのトップページ

『Kazoo』は、クラウドファンディングサイト「キックスターター」で支援金17万1215ドル(約1863万円)を集め、2016年に季刊誌として刊行された。資金を寄付した支援者は3136人と、雑誌プロジェクトとしては、キックスターター史上最高の人数となった。

新しい女児文化が生まれる

女の子向けの雑誌といえば、今も昔もおしゃれの話で埋め尽くされるのが定番だ。海外でも、傾向はさして変わらない。一方、多様な女の子の興味を早くから社会が限定してしまうことで、女の子の能力開発が阻まれるという考え方もある。

女の子だっておしゃれ以外のことに関心があっていい。頭や体を使うことの楽しさを知って、さまざまな夢や希望を抱けるように育てたい。アメリカではそんな問題意識のもと、多様な関心をかき立てる製品がクラウドファンディングで提案され商品化されてきた。

最近注目を集めたのは、エンジニアリングを学べる人形付き玩具「ゴールディブロックス」や電子工作ドールハウス「ルーミネイト」。人形やままごとといった伝統的な女の子向け玩具の傾向をふまえながらも、理系要素を加え、楽しみながら学べるよう工夫されている。

Photo by MARIA

本や雑誌にもそうした流れが出てきた。2016年に出た児童書『Good Night Stories for Rebel Girls』はその一つ。メキシコの画家フリーダ・カーロ、ミュージシャンのジョーン・ジェットといった女性100人のサクセスストーリーを読み聞かせしやすい物語仕立てにした本で、すでに50万部のベストセラーとなった。同書は、女の子のロールモデルとなるような児童書が少ないことを憂えた女性たちがクラウドファンディングで企画を立て、約86万ドル(約9429万円)を集めて刊行にこぎつけたものだ。本のクラウドファンディングで集まった額としては史上最高と言われている。

強くかしこく、そしてかわいく

冒頭でご紹介した『Kazoo』もまた、5歳の娘の興味をひくような女児雑誌がないことに困惑した女性編集者エリン・ブリーが、クラウドファンディングで立ち上げたプロジェクトだ。

エリンは米シカゴ・トリビューン紙の取材に対し、「女の子は、自分の髪がツヤツヤであるかどうかを気にするように生まれついたわけじゃありません」と答えている。「遊び場に行くと、女の子たちは走り、叫び、たくましく大声を出し、泥んこまみれになって遊んでいます。こうしたすてきさは、彼女たちが年を重ねるにつれてゆっくりと消えていきます。私たちの社会が奪い去ってしまうのです」

「ディスコボールをDIYする」という特集

そうは言いながらもKazooは非常にかわいらしいデザインで、現役の小学生女子の心をとらえるのに十分な魅力がある。(まさに今、『Kazoo』を眺めながら執筆しているのだが、長女10歳が「何それ超かわいい!」と声をかけてきた。)

たとえば17年夏発売の5号“GIRLS ROCK”(ガールズ・ロック)特集はこんな感じだ。「ソウルクイーン、アレサ・フランクリンの人生(レコード迷路付き)」「ミラーボールもDIY」「歌を視覚化するクラドニ図形ガジェットを作っちゃおう」……。

「グミでエンジニアリングを学ぼう」という特集

科学や工学に関する記事も掲載されているが、決して堅苦しくない。かわいいビジュアルが、子どもたちをひきつけるように工夫されている。「宇宙と生命について(2号)」は日本の昔の少女漫画のような挿絵がかわいい。ほかにも「グミでエンジニアリングを学ぼう(3号)」「本物のフルーツでロリポップ・キャンディーを作ろう(4号)」といった具合に、ワクワクできる読み物になっている。

すばらしいのは、女の子が自然にかわいいものを好む気持ちを、決して否定していないことにある。誌面も工作アイデアもかわいくデザインされている。ただし、女の子の写真は掲載しない。読者がグラビア写真と自分を比較して、自信をなくさないためだ。自身がかわいくあることを追求するあまり、強く賢く面白くありたいという願望をつぶさないための配慮である。

バックナンバーは日本からも注文できる

従来の女性役割とそぐわない内容であってもある程度の市場が見込める英語圏と違い、日本でこのような雑誌を商業的に成り立たせるのは難しいかもしれない。

しかし、ユニリーバ「ダヴ」とガールスカウトの協働プロジェクト「大好きなわたし~Free Being Me~」(15年)のように、女の子が容姿プレッシャーに押しつぶされないように勇気づける試みも登場しつつある。新しい選択肢を女の子に与え、自尊心を育む方法が日本でも増えてくるかもしれない。

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