Webの各種技術の標準化を行うW3C。秘密主義で知られるこの組織の幹部が、匿名を条件にインタビューに応じてくれた。元は英語のニュースサイトに掲載された文章であるが、少々ショッキングな内容を含むので、以下に拙訳する。
原文:
http://www.kh.rim.or.jp/~nagamura/misc/stroustrup-interview.txt
インタビューア(以下「I」): W3CはWebの世界を大きく変化させてきました。この23年を振り返ってみて、感想は。
W3C幹部(以下「W」): 最近昔の事をよく思い出します。覚えているでしょうか?誰もが固定幅のtableでレイアウトされたWebページを皆が作っていた時代を。
HTMLをコーディングするのに覚えることはシンプルでした。難しいのはせいぜい、可変幅にしたい部分をtable化してそこにはめ込む画像を上手くスライスすることぐらいでしたが、これらも良く出来たツールがほぼ自動化してくれました。
大それた演出や、派手な効果を加えたければFlashを使えば問題ありませんでした。
$1000程度を払って、これらの優れたツールを購入すれば、誰でもWebページを作ることができた時代だったのです。
そして、それこそが我々にとって最も大きな問題となりました。
I:問題?
W:当時のWebページのコーディング単価を覚えていますか?単に、HTMLでテーブルタグを入れ子にして、画像をはめ込むだけで、我々は1ページあたり$300は貰えていました。優れたFlash製作者の給与などは、天井知らずでした。
I:確かに、そういう意味ではいい時代でしたね。
W:高単価の仕事は、望まざる人々をこの業界に呼び寄せました。
ハイスクールを出たての無知なティーン・エイジャーですら、週末のアルバイトでFlashを作り始めたのです。
I:なるほど。Webは裾野を広げたと言えますね。
W:結果としてどうなりましたか?Webページ制作の単価は下がり、かつては法外な制作費を稼ぎ出すことができた、単なるスライドショーFlashは適正な価格に落ち着きました。Web制作は急速に儲からないビジネスに変貌していったのです。
I:う~ん。それが問題であったということですか?
W:その通りです。我々の使命は、Webのエコシステムを維持し、ユーザー企業が適切な額を投資し続けられるようにすることでした。
I:それが出来なくなりつつあった、と。
W:我々は考えました。そして、手始めにまず、エイプリルフールのジョークだったXHTMLとXSLTという規格を大真面目な顔で発表しました。
I:ちょっと待って下さい。あれはジョークだったのですか?…しかし幸いにもあれはあまり成功したとは言えない結果になりましたね。
W:いえ、我々の基準では充分、成功の部類になります。一部のベンダーやコミュニティが、これこそがWebの未来だと言わんばかりにXHTML+XSLTレンダラーの実装をしてくれました。HTMLコーディングは複雑怪奇なXSLTルールを記述することに変貌しました。
これこそが我々の狙いでした。tableレイアウトのHTMLページの単価は当時$100以下にまで下落していましたが、XSLTを記述できるエンジニアはほとんどいませんでしたから、それこそ「言い値」で予算が与えられました。
I:しかし結局はそれが、普及の妨げになったのでは?
W:それは事実です。XSLTエンジニアが、その規格の難解さ――もちろん意図的にそうしたわけですが――に次々とKAROSHIしてしまったのは、我々の誤算でした。
しかしXHTML+XSLTはセマンティックWebといった、Webページはマシンリーダブルにするべきだ、という「常識」を世間に植え付ける事に成功しました。
凝ったタイポグラフィのために文字を画像にしたり、無意味にtableで分割するといった事を、我々は辞めさせることに成功したわけです。
これで、Webページ制作費の下落ペースを多少抑えることができました。
I:確かにそのあたりから、HTMLコーディングはやけにアクセシビリティを要求されるようになった覚えがあります。
W:援軍もありました。ある日、Googleという新興企業が、我々の所にやってきて言いました。「私達がお手伝いできることはありませんか?」と。我々は彼らを歓迎しました。
I:え?まさか。
W:そうですSEOです。
Webページそのものをマシンリーダブルにすることの意味を理解できない愚かなユーザー企業にはこう言ってやることができました。
「お前の会社のホームページを検索結果の1ページ目から追い出してやるぞ!」とね。
彼らは泡を食って、我々の狙い通り、Web業界への投資を続けなければならなくなりました。
実際問題として、画像化された文字も適切なalt属性を与えてやれば、マシンリーダブルになることは自明でしたが、我々はそれらが高度なHTML+CSSコーディングでしかできないと思い込ませる事に成功したわけです。
I:すいません。そのような思惑があったというのは…その、実に…意外な発言です。
W:しかし、我々にはまだ課題がありました。Flashです。
I:え?
W:フレームアクションのおぞましい化物であるFlashが、まともな言語(ActionScript3)を持ち始めたのです。これは由々しき問題でした。
I:どういうことですか?
W:いいですか?プログラマというのはこの世界に掃いて捨てるほどいるのです。我々はMicrosoftとDHTMLという、ほど良い言語を発明していました。これは正常な神経をしたプログラマなら誰も近寄れないものでした。
こうして我々は注意深くWeb業界、それもフロントエンドの領域に彼らが参入するのを阻止していたのです。
彼らがJava2EEであるとかPHPといった、無限の終わりなき開発を続ける世界に留るようにね。
W:プロプライエタリだろうが、それを標準化するのは造作のないことです。(AjaxがMicrosoftのActiveXコンポーネントで出来ていたことを覚えていますか?)我々は意図的に、Flashを標準化の対象から外しました。SteveJobsも我々に賛同してくれて、iPhoneにはあのクソッたれ、失礼、少々分別がすぎてパフォーマンスも良好なFlashランタイムを導入することを拒否してくれました。
I:しかしFlashはWeb業界にとっては富の源泉ではなかったのですか?それを潰すのは矛盾した行動に思えます。
W:もはやその頃にはFlashは大した投資の対象にはなっていませんでした。それよりも、AS3によってFlashに殺到するであろう、まともなプログラマを押しとどめるほうが優先課題でした。このままではSEOの対象にならない、ログインが必要なWebシステムやサービスが全てFlashで作られる恐れさえありました。
幸い、我々は新しいアイデアを得ていました。かつてDHTMLと言われた言語をECMA Scriptとして、小刻みにバージョンアップさせることにしたのです。
I:それはどういう事ですか?
W:後方互換性を意識させつつ、小出しに仕様を変遷させるというのは、一つのプラットフォームを破壊し、混乱させるのに最も良い方法です。
今のフロントエンドを実装する困難さを見てください。タスクランナー、トランスパイラ、バンドラー、それらを全て駆使ししないとフロントエンドは書けません。
これこそ、我々が狙った効果そのものなのです。
I:少し、気分が悪くなってきました。本来なら私はここで、「ありがとうございました」と言うべきなのですが…
W:構いませんよ。我々は常にWeb業界と共にいます。彼らが受け取るべき報酬に常に注意を払ってきました。その事に疑問を抱いたことはありませんし、その事が、業界の外部にいる、例えばユーザー企業にとって不快だろうということは理解しています。
I:特に良心の呵責はない、と?
W:ありませんね。そもそもあなた方は我々を何だと思っているのですか?Webの業界団体ですよ?標準化やらオープンといったもので、本来自分たちが手にするはずだった利権を自ら手放す者がいるでしょうか?
我々は正しい事をしてきましたし、これからもし続けますよ。
I:このインタビューの内容を誰も信じないかもしれませんね。
W:そうかもしれませんね。我々がこれだけ露骨に利益誘導を計ってきたというのに、23年間誰もそれに気づきませんでした。いや気づいても気づかないフリをしているのかもしれません。
どちらにせよ、我々には同じことです。
I:後日、書き起こした原稿を送ります。
W:楽しみにしてますよ。
c.f
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