今冬、ラノゲツクールMVというのが発売されるそうです。
ここ数年、個人企業問わず、どんどんと新しいノベル・アドベンチャーゲーム制作ツール(以下AVG制作ツール)がリリースされており、喜ばしいことです。同人ノベル・アドベンチャーゲームはこれらツールの発展と共にありました。そこで今回はその歴史をあらためて調査し、振り返ってみることにしました。
執筆にあたっては一部、ニコニコの自作ゲーム大年表を参考にしました。FGOでもおなじみのチャールズ・バベッジは、自作ゲームの元祖的な存在でもあったんですね。
- 1980年~90年代、ツクールシリーズとの歩み
- IT革命前夜、フリーの制作ツールが続々登場
- 『月姫』『Fate』『ひぐらし』への採用。2大ツールの時代
- 携帯電話でもノベルゲームを
- 海外でもノベルゲーム開発が盛んに
- スマホの普及。マルチプラットフォーム対応へ
- HTML5&Unityの時代へ
1980年~90年代、ツクールシリーズとの歩み
AVG制作ツールの元祖は、かの名作と意外な関わりがあったようです。
1986年12月
1987年月刊ログイン1月号 PC-8801用「アドベンチャー・ツクール」のサンプルプログラムとして、「オホーツクに消ゆ・東京編」のプログラムリストが掲載される。その名の通り、東京編のみプレイ可能。
出展:オホーツクに消ゆクロニクル(年代記)
ご存じツクールシリーズの最初の作品は、アドベンチャー用でした。今も昔も、テキストベースのゲームは比較的作りやすいということなのでしょう。しかも『オホーツクに消ゆ』のサンプルプログラムとして掲載されたというのは、私も今回初めて知りました。
1992年にはPC-9801用『アドベンチャーツクール98』がリリース。これがツクール博物館に情報が掲載されている最初の作品です。プレイヤーが画面の任意の場所をクリックすることで物語が進行していくタイプのアドベンチャーゲームが作成できる、とのこと。
その後もパソコンの機能向上に伴い『アドベンチャーツクールⅡ』(1994年)、『アドベンチャーツクール FOR WINDOWS』(1995年)、『恋愛シミュレーションツクール』(1999年)といったシリーズが出ました。
スーパーファミコンでも『サウンドノベルツクール』(1996年)が発売されました。もちろん『弟切草』『かまいたちの夜』のヒットを受けてのものでしょう。
当時は家庭用パソコンを所持する人がまだまだ少なく、インターネットも整備されていません。そもそもお金を出してツールを買いゲームを作ろうという人は、かなり珍しかったはずですが、コミックマーケットや同人ショップの拡大もあり、自作ゲーム文化の土台が着々と整えられた時期と言えそうです。
IT革命前夜、フリーの制作ツールが続々登場
パソコンとインターネットが本格的に普及しはじめ、IT革命と呼ばれたのは2000年頃のことです。その少し前から、フリーのAVG制作ツールがいくつか登場しています。
コミックメーカー
公式サイト:みっくす☆パフェ
最初のバージョン『インタラクティブコミックメーカー』は1997年にリリースされていたようです。その後『コミックメーカー2』『コミックメーカー3』とバージョンアップしていきました。先日記事を書いたサークル銀の剣は、当初このツールを使っていましたね。とにかく制作者に優しく、がコンセプトだったのでしょう。プレイヤーからすると、当時においても操作性などは今ひとつな感じでした。
とはいえ、誰でもノベル・アドベンチャーゲームを無料で作れるようにした、記念碑的ツールには違いありません。これである程度経験を積んだら、他のツールに乗り換えるという人が少なくなかったと思います。
Yuuki! Novel
公式サイト:Yuuki!
作者サイトとreadmeファイルには初出の正確な時期の情報がなかったのですが、窓の杜にα版のリリースが1999年とありました。こんな昔の情報まで取ってあるとは、さすが窓の杜。
コミックメーカー同様に初心者向けで、グラフィカルなインターフェイスが特徴です。後述のNscripterや吉里吉里/KAGはちょっと難しい、だけどそれなりにいい感じのゲームを作りたい……という人にはピッタリのツールだったかと思います。私もこのツールでおかげで、魅力的なフリーゲームの数々に出会えました。
NScripter
公式サイト:nscripter.com
プログラマーにしてシナリオライターの高橋直樹氏が開発した、スクリプト記述型のツールです。自作ゲーム大年表によれば初出は1999年。『Scripter3』というのがこの前身としてあるらしいのですが、詳しい情報は見当たりませんでした。
スクリプト記述型の中でも文法は比較的わかりやすく、それでいて充分な機能で、プレイヤーにとっても操作性は抜群。多くのユーザーを獲得したのも自然な流れでしょう。解説本も複数発売され、また数多の商業美少女ゲームに採用されることになります。
現在は後継の『NScripter2』が公開されています。
吉里吉里/KAG
公式サイト:kikyou.info
吉里吉里はTJSと呼ばれるスクリプト言語を記述してマルチメディアタイトルを作成することができるソフトウェアで、それをゲームとして動作させるためのスクリプトがKAGになります。readmeファイルを読むと「1998/4/16 最初のTJSスクリプト構想」とありますね。
先日の記事でも軽く触れましたが、私が最初に触ったのがこのツールでした。NScripterより若干扱いが難しく、その代わり自由度は上、という感じです。
現在はあいにくと開発が中断されているのですが、有志による改良版『吉里吉里Z』が公開されています。
『月姫』『Fate』『ひぐらし』への採用。2大ツールの時代
2000年冬、同人ノベルゲームの歴史に金字塔が打ち立てられました。そう、『月姫』の登場です。
この作品に採用されたのがNScripterでした。後にリリースされた月姫シリーズのセット『月箱』内の『月姫PLUS+DISC』と、商業第一作の『Fate/stay night』には吉里吉里が採用されることになります。
2002年には『ひぐらしのなく頃に』が登場します。この頃はまだ無名でしたが、2004年の夏頃、一挙に有名になりました。この作品にもNScripterが採用されています。07th Expansionはその後も一貫してNScripterを使っていますね。
プレイしやすさと機能性を併せ持ち、解説サイト等も充実していたNScripterと吉里吉里は、当時の2大ツールと言えるものでした。フリーゲームだと他のツールもありましたが、有料頒布の作品だとほとんどこのふたつでしたね。
とはいえ、他にも魅力的なツールがこの時期いくつか生まれています。
Livemaker
公式サイト:Livemaker
2002年初出。個人ではなく企業による開発です。GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)のおかげで、とっつきやすさはNScripterや吉里吉里よりも上、しかもシステム面も決して見劣りしません。グリグリと画面を動かす、動的な演出にも強いのが特徴です。利用者数でいえば、当時における第3のツールの位置にありました。
ここ数年はすっかり更新が途絶え、さすがに役割は終わったか……と思っていたら、今年の2月に突如バージョンアップ。Windows10にも対応して昔からの利用者を喜ばせていました。
ADVRUN
公式サイト:Buin2gou Laboratories
2004年初出。すでに開発は終了しており、利用者もそれほど多くはなかったと思いますが、便利なセーブロード画面やシステム設定ダイアログがデフォルトで用意されており、プレイヤーの目で見ても機能的には非常に優れていたと思います。
このツールを採用した一番の大作は、おそらくサークルCircle Mebiusの『夏の燈火』。「真の感動を求める人以外は買わないでください」なんて自信満々の宣伝をしていたのですが、この作品のメインシナリオライターだったのが、後に『車輪の国、向日葵の少女』『G線上の魔王』などで有名となったるーすぼーい氏でした。中古ショップでも相当高値がついているようです。
YU-RIS
公式サイト:YU-RIS
2003年初出。早い段階から商業作品への採用実績があり、こちらも機能的には最高クラスです。採用作品をサイトで紹介してくれるというサービスも、クリエイターにとっては嬉しいところ。
かれこれ3年ばかり更新されていないのが、ちょっと気になるところですが……。
Famous Writer
公式サイト:Famous Writerホームページ
2005年初出。WindowsだけでなくMacにも対応していたのが特徴です。鳩との恋愛というぶっとんだ内容で話題を呼んだ『はーとふる彼氏』はこのツールを使っていました。
もう更新は行われておらず、最新OSにも対応していません。しかしWindows以外にも対応という現在では当たり前のことを行っていた、先駆者的なツールであったと言えるでしょう。
携帯電話でもノベルゲームを
2001年にiアプリが登場して以来、携帯電話というパソコンと同等以上に大きなプラットフォームでゲームを作れる道が開けました。容量の制限は厳しいものでしたが、パソコンゲームとは一味違う意欲的な作品が数々登場します。そして2006年に登場した「メガiアプリ」から1MB使えるようになり、それなりに豪華な作品も作れるようになりました。
とはいえ、Windowsのようなプログラムの知識がない人でも扱えるAVG制作ツールはありませんでした。そんな中、『Novel-Press』というツールが登場します。このツールを採用したゲームの代表作はサークルsweet ampouleの『LOOP THE LOOPシリーズ』。全編無料公開という太っ腹も相まって人気を博し、最近は舞台化やコミカライズも果たしています。
そして私の『BAD END』も、最初はこのツールを使ったiアプリだったんですね。正直言って予想以上に売れました。この手応えがその後のスマホ移植、Steam進出に繋がったわけです。
時代の流れでガラケーは淘汰され、ドコモのiアプリ公式ストアも姿を消しました。Novel-Pressも作者サイトが消失してしまいましたが(ブログはまだ残っています)、モバイルゲーム市場に一定の貢献をしたことは間違いありません。
海外でもノベルゲーム開発が盛んに
ノベルゲームは何も日本人の専売特許ではありません。海外にも以前から愛好家はおり、AVG制作ツールも生まれていました。その代表がRen'Py(レンパイ)です。
The Ren'Py Visual Novel Engine
日本ではメジャーとは言えませんが、海外ではそれこそNScripterや吉里吉里のような位置にあるツールです。リリース履歴を見ると初出は2004年で、かなり早いですね。今も定期的にアップデートされており、今後も海外のクリエイターにとってよきツールであり続けることでしょう。
日本でも話題となった『かたわ少女』などがこのツールで作られています。
スマホの普及。マルチプラットフォーム対応へ
2010年代に入って、いよいよスマホが普及します。
相変わらずNScripterと吉里吉里の2大ツールが人気でしたが、時代の要請に応えてマルチプラットフォーム、特にスマホ対応を謳うツールが登場するようになりました。
Artemis Engine
公式サイト:Artemis Engine
スマホ対応ツールのパイオニアと言えるのがArtemis Engineです。吉里吉里/KAGと似たスクリプト文法もあって、また当初は他にスマホ対応のツールがなかったこともあり、瞬く間にクリエイターの間で人気になりました。
スマホアプリ市場にノベル・アドベンチャーゲームが広まったのは、このツールの功績が大と言えるでしょう。
LemoNovel
公式サイト:LemoNovel AS3
Webブラウザ、Flash Player上で動作するノベルシステムです。ブラウザ向けに作れるツールは、それまでほとんどなかったかと思います。
現在のバージョンではAdobe AIRを用いたWindows、Mac、モバイル向けの開発環境も用意されています。先日Flashのサポート終了が発表されましたが、まだまだ使えるツールでしょう。
実は私が初めてスマホアプリを出したとき、このツールを使わせてもらいました。それが高じて、電子書籍で解説書を出したりもしました。
AIRNovel
公式サイト:AIRNovel
こちらもAdobe AIRを基幹としたツールです。スクリプト文法は既存のツールのいいとこ取りをしたように平易で、その他数々の魅力的な機能がデフォルトで搭載されています。さらに初心者向けの解説ページが充実しているのが嬉しいですね。
先日レビューをした『親愛なる孤独と苦悩へ』も、AIRNovelによって作られました。この素晴らしいツールがあってこそ、あの素晴らしい作品が生まれたわけです。
ADV+++
公式サイト:YOX-Project
初出は2000年代前半ですが、現在はWindows、Mac、iOS、Androidに対応。プロフェッショナル仕様と銘打ったシステムは、使いこなせればまさに商業作品に劣らないクオリティに仕上げることができます。
私が現在メインに使っているツールこそ、このADV+++なのです。このツールのおかげでスマホ進出、そして海外進出を果たすことができました。あらゆるツールの中でもトップクラスの機能であることは、私が保証します。
これから使ってみたいという方向けに、電子書籍で解説書をリリースしていますので、よろしければどうぞ。
HTML5&Unityの時代へ
そして現在、HTML5やUnityをベースとした制作ツールが多くなりました。これによりパソコン・スマホ両方のブラウザでプレイさせることや、スマホアプリとしての書き出しが比較的容易になりました。
Almight
公式サイト:Almight
同人ダウンロードショップDLsite.comの運営で知られるエイシスが開発したツールです。DLsite.comと完全提携し、パソコン&スマホ向けに簡単に配信できます。
……これしか書けることがないのが残念。β版のまま更新が途絶えています。ポテンシャルは高いツールだと思うのですが。
ティラノスクリプト&ティラノビルダー
公式サイト:ティラノスクリプト
HTML5で動かすツールの中で、今もっとも人気なのがティラノスクリプト&ティラノビルダーでしょう。スクリプト記述型がティラノスクリプト、GUI型がティラノビルダーで、後者のほうがより簡単です。
初心者への手厚いサポート、ゲームコンテストの開催などで、着実に利用者数を増やしています。このツールを採用した『奴隷との生活』(18禁)はDLsite.comの販売数1位を塗り替えました。ちなみに私もこれでスマホ向けのブラウザアプリを作ったことがありました。
頻繁にバグ修正、機能追加が行われているのも安心できるポイント。お手軽ツールを使いたいという人はこれを選んでおけば間違いないでしょう。
ジョーカースクリプト
公式サイト:ジョーカースクリプト
ティラノスクリプト&ティラノビルダーと同じ開発者による、Unity上で動くエンジンです。もちろん作りやすさはそのままで、ボタンひとつでそれぞれの環境に出力できます。
以前からUnityを使っていたけど、ノベル・アドベンチャーゲームにも手を出してみたい……そんなクリエイターには最適のツールとなるはずです。
宴
公式サイト:Unity用ビジュアルノベルツール「宴」
こちらもUnity上で制作できるツールです。とても細かく充実したチュートリアルやリファレンスが用意されています。
CEDEC AWARDS 2016のエンジニアリング部門優秀賞、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン主催の第1回アセットコンテストで大賞を受賞するなど、その機能性は折り紙付きというところでしょう。商業作品への採用も目立ちます。
ノベルスフィア
公式サイト:ノベルスフィア
言語社が開発しているツールです。作品の配信サイトが整備されているので、自分でページを作らなくていいのが最大のセールスポイントです。
デベロッパー登録をすれば、誰でも制作と配信ができます。ただ、作品の増加ペースは今ひとつといったところでしょうか。企業開発を生かした大きな展開を期待したいところです。
Light.vn
公式サイト:Light.vn
読みはライト・ヴィエン。C++とHTML5に同時対応しており、あらゆるプラットフォームでの高速動作が実現しています。
開発コンセプトのひとつとして、クリエイターの手間をいかに減らすかということを掲げています。リアルタイムプレビュー機能を備えた専用エディターというのは、大いに助けになるはず。誕生して日が浅いですが、今後の充実が楽しみなツールのひとつです。
以上、おおまかですが現在までの流れをまとめました。
アマチュアからプロになったノベルゲームクリエイターの多くが、こういったツールのお世話になってきました。何よりゲーム作りの楽しさを覚えることができたのです。
かつて『月姫』をプレイした私は、作品の内容もそうですが、アマチュアでもこんなに面白いノベルゲームを作れるということに、もっとも感動したのです。これからもそんな人たちが増えることを願っています。