「メジャーデビュー」という言葉自体には、今さら何の新鮮味もない。しかし、今回は話が違う。
「チップチューン女子」として注目を集める傍ら、自身もネット上で音源を配信するネットレーベルを主宰してきたTORIENAさん。
そして、彼女がデビューするトイズファクトリーでその担当を務めるのは、2000年代後半から2010年代前半の音楽シーンを賑わせたネットレーベルの最大手「Maltine Records」を主宰してきたtomadさんだ。
今回、デビュー記念として、TORIENAさん、そしてメジャーレーベルで音楽制作に従事するようになったtomadさんを迎え、リリースされたばかりのEP『MELANCOZMO』についてはもちろん、今の音楽シーンでメジャーを戦場に選び取った2人の考えについて、お話をうかがった。
取材・文:須賀原みち 写真:稲垣謙一 編集:新見直
場所提供:PLUG IN STUDIO by nana × 2.5D
KAI-YOU.netに登場いただくのは初めてなので、改めてTORIENAさんの来歴からうかがいたいと思います。そもそもチップチューンとの出会いは?
TORIENA チップチューンっていうと「ゲームが好き」と思われがちなんですけど、私、ゲームはたしなむ程度です。
18歳頃に京都にある大学のオリジナル楽曲をつくるバンドサークルに入っていて、そこで仲の良かったサークルの先輩がチップチューンをやってたんです。
もともとAlva Notoといったミニマルテクノが好きだったこともあって、YouTubeでSaitoneさんのライブ映像とかを見て、音がすごい好きだなって。それで、京都でチップチューン・アーティストが集まるゲームバー「cafe la siesta」に連れて行かれて、マスターからゲームボーイの音楽制作ソフト「Little Sound Dj」をもらったんです。ちょっと遊んで放置してたんですけど、ある日先輩からいきなり「TORIENAちゃん、『cafe la siesta』でライブ決まったよ!!」って言われて(笑)。
──いきなりチップチューンでライブをすることに!?
TORIENA え、全然曲つくってないけど…みたいな(笑)。でも、曲をつくり出したらすごいハマっちゃって。一カ月くらいかけて30分尺のフレーズを並べただけの曲をつくりました。初めてだからライブのやり方もわかんなくて、一回再生ボタンを押して後は爆踊りしてました(笑)。
でも、そのライブに出てるアーティストは当時からチップチューン界隈で活躍されてたOmodakaさんやUSKさん、NNNNNNNNNNといったすごい豪華なメンツだったんですよ。そこでUSKさんとNNNNNNNNNNに「お前、面白いな」って言われて、仲良くなって面倒見てもらうようになったって感じです。
当時、ミニマル系のイベントでも一人で聞く方だったんですけど、チップチューンの活動を始めてから、みんなでワイワイ盛り上がる楽しさを覚えて、音楽の嗜好もすごい変わりましたね。
──作曲には元から興味があった?
TORIENA 音楽を始めたのは大学に入ってからで、本当はライブをしようとかネットに楽曲をあげようとは思ってなくて、家でカチカチつくって自己満足してました。でも、ゲームボーイの実機で演奏するチップチューンのライブって、電子音だけどすごく生っぽいエモーショナルさや躍動感があって、一度味わうとぞっこんになるくらい楽しかったんです。
──大学に入るまでに音楽活動は?
TORIENA 地元の北海道でも、高校生の時はバンドをやりたかったんですけど、親に「勉強と部活もあって両立できないから」ってことでやらせてもらえなかったんです。でも、音楽はやりたかったから、バイト代を貯めて大学進学のために京都に引っ越してから音楽制作ソフト「Cubase」を買いました。
小さい頃から絵を描いたり、何かしら自分でつくってみたい欲望はずっとあって、高校の放送部でやったラジオドラマでも、シナリオやSEをつくったり、演技指導をやったりしてたんです。そのラジオドラマが「NHK杯全国高校放送コンテスト」で全国2位になったりして。
──何かをつくって人に見せるということは高校生からやってたんですね。
TORIENA ラジオドラマづくりでは「コンセプトが一番大事」とか、いろいろなノウハウを勉強しました。本もめっちゃ読んだし、地方のラジオ局がやってる「シナリオのつくり方講座」に通って勉強したり。そうやって自分の考えてる仮想世界を具現化するのは楽しかったです。
TORIENA 私、こだわりが強くて曲げないタイプなので、当時から顧問の先生とかバンド仲間とも衝突してました。それで、他人とやるのはあまり向いてないのかもなって。始めはプロになろうと思っていたわけじゃないので、ただ自分の思い描いたことを自由に楽しくつくりたい、楽しくなかったら別にやる意味ないなって思ってました。
──さまざまな表現方法がある中で、音楽を選んだ理由は?
TORIENA 音楽は曲に歌詞をつけて、MVがあって、歌って表現をしたり、アートワークをつくったり…総合芸術をやりやすくて、自分の一番やりたいことにピッタリ合ってたっていうのがひとつ。
それに、最初はインスト曲ばっかりつくってたんですけど、言語化できないような気持ちも音にしたら伝わるかなって。自分でも意識していない、言葉にできない部分を形として残してくっていう意味で、音楽は“無意識の保存”だと思ってるんです。そうやって、音楽なら日記的に自分の気持ちを残していけるっていうのが2つ目の理由です。
TORIENA 3つ目の理由は、ライブで大きいスピーカーを使って音を鳴らすと、私が言葉に出来なかったことや日常で感じたことをみんなが真剣に聞いて時には盛り上がってくれ、「会話が成立してる!」って思えるからです。本当に伝わってるわけじゃないと思うんですけど、そう思って満たされるんですよね。だから、曲をつくるのも楽しいし、ライブも楽しくて大好きなんです。
──2012年にネットレーベル「MADMILKY RECORDS」を始めた理由も、お客さんとより近づこうという気持ちから?
TORIENA 2012年に世界最大のチップチューンの祭典「BLIP FESTIVAL TOKYO」に出た時、楽しすぎて世界がスローモーションになる“ゾーン状態”に入ったんです。「私、もうチップチューンから逃れられないわー」って感動したんですけど、最大級のイベントでも会場は最大300人のところでした。その時に、チップチューンというシーンはまだまだ開拓の余地があるなって。
チップチューンで面白い人がいたら世に出したいし、もちろん自分の作品をコンスタントに発表できる場が欲しかったので、レーベルを始めました。
TORIENA 「音楽のジャンル」とも考えられますけど、私はゲームボーイやファミコンに入っていた「音源チップから出る音を使う」という手法だと思っています。あるいは、その音をリスペクトして、PCとかで再現してつくっていく音楽。
だから、チップチューンの中でジャズだったりポップスだったり、シューゲイザーみたいなことをやってる人もいっぱいいますよね。ジャンルでもあり、手法でもある。
でも、昔は「実機から出る音以外は認めねー!」みたいなガチガチのチップチューン原理主義者でした(笑)。
TORIENA そんな時に、チップチューンの専門イベント以外でもライブをしていたら、お客さんに「格好良いけど、全部同じに聞こえる」って言われたんです(苦笑)。確かに、それはそうだよなって…。ジャンルを気にするのは制作者側と一部のコアファンだけで、世の中の大半の人が持ってる「音が良かったら正義」みたいな感覚を忘れてしまってたんです。
あくまでもチップチューンはTORIENAという柱を表現するための手段で、もっと考えを柔軟にしてアーティスト側が手段として利用しないといけないって思いました。
──そういう意味で、メジャーデビュー作となる『MELANCOZMO』は良い意味でチップチューンにこだわらず、かなりポップスを意識しているように思えました。
TORIENA 私的には、(表題曲「MELANCOZMO」は)チップチューンを始める前に遡る原点回帰のような曲だと思ってます。チップチューンに出会ってからはずっとぞっこんだったけど、それ以前には洋楽だったりポップスを聞いて音楽が好きだったわけで、そういうのも全部含めてフラットにした状態で曲をつくりました。
やっぱりメジャーデビューということもあって、「もう一度生まれ直す」を体現した曲になったと思います。
──本当にバラエティーに富んだ楽曲の収録されたEPでした。
「チップチューン女子」として注目を集める傍ら、自身もネット上で音源を配信するネットレーベルを主宰してきたTORIENAさん。
そして、彼女がデビューするトイズファクトリーでその担当を務めるのは、2000年代後半から2010年代前半の音楽シーンを賑わせたネットレーベルの最大手「Maltine Records」を主宰してきたtomadさんだ。
今回、デビュー記念として、TORIENAさん、そしてメジャーレーベルで音楽制作に従事するようになったtomadさんを迎え、リリースされたばかりのEP『MELANCOZMO』についてはもちろん、今の音楽シーンでメジャーを戦場に選び取った2人の考えについて、お話をうかがった。
取材・文:須賀原みち 写真:稲垣謙一 編集:新見直
場所提供:PLUG IN STUDIO by nana × 2.5D
ミニマルテクノからチップチューンへ その出会い
──TORIENAさんは、もともとチップチューンの音楽ネットレーベル「MADMILKY RECORDS」をNNNNNNNNNNさんと共同で立ち上げ精力的に活動するなど、いまやチップチューン界で知らない人はいない存在になっています。KAI-YOU.netに登場いただくのは初めてなので、改めてTORIENAさんの来歴からうかがいたいと思います。そもそもチップチューンとの出会いは?
TORIENA チップチューンっていうと「ゲームが好き」と思われがちなんですけど、私、ゲームはたしなむ程度です。
18歳頃に京都にある大学のオリジナル楽曲をつくるバンドサークルに入っていて、そこで仲の良かったサークルの先輩がチップチューンをやってたんです。
もともとAlva Notoといったミニマルテクノが好きだったこともあって、YouTubeでSaitoneさんのライブ映像とかを見て、音がすごい好きだなって。それで、京都でチップチューン・アーティストが集まるゲームバー「cafe la siesta」に連れて行かれて、マスターからゲームボーイの音楽制作ソフト「Little Sound Dj」をもらったんです。ちょっと遊んで放置してたんですけど、ある日先輩からいきなり「TORIENAちゃん、『cafe la siesta』でライブ決まったよ!!」って言われて(笑)。
──いきなりチップチューンでライブをすることに!?
TORIENA え、全然曲つくってないけど…みたいな(笑)。でも、曲をつくり出したらすごいハマっちゃって。一カ月くらいかけて30分尺のフレーズを並べただけの曲をつくりました。初めてだからライブのやり方もわかんなくて、一回再生ボタンを押して後は爆踊りしてました(笑)。
でも、そのライブに出てるアーティストは当時からチップチューン界隈で活躍されてたOmodakaさんやUSKさん、NNNNNNNNNNといったすごい豪華なメンツだったんですよ。そこでUSKさんとNNNNNNNNNNに「お前、面白いな」って言われて、仲良くなって面倒見てもらうようになったって感じです。
当時、ミニマル系のイベントでも一人で聞く方だったんですけど、チップチューンの活動を始めてから、みんなでワイワイ盛り上がる楽しさを覚えて、音楽の嗜好もすごい変わりましたね。
──作曲には元から興味があった?
TORIENA 音楽を始めたのは大学に入ってからで、本当はライブをしようとかネットに楽曲をあげようとは思ってなくて、家でカチカチつくって自己満足してました。でも、ゲームボーイの実機で演奏するチップチューンのライブって、電子音だけどすごく生っぽいエモーショナルさや躍動感があって、一度味わうとぞっこんになるくらい楽しかったんです。
──大学に入るまでに音楽活動は?
TORIENA 地元の北海道でも、高校生の時はバンドをやりたかったんですけど、親に「勉強と部活もあって両立できないから」ってことでやらせてもらえなかったんです。でも、音楽はやりたかったから、バイト代を貯めて大学進学のために京都に引っ越してから音楽制作ソフト「Cubase」を買いました。
小さい頃から絵を描いたり、何かしら自分でつくってみたい欲望はずっとあって、高校の放送部でやったラジオドラマでも、シナリオやSEをつくったり、演技指導をやったりしてたんです。そのラジオドラマが「NHK杯全国高校放送コンテスト」で全国2位になったりして。
──何かをつくって人に見せるということは高校生からやってたんですね。
TORIENA ラジオドラマづくりでは「コンセプトが一番大事」とか、いろいろなノウハウを勉強しました。本もめっちゃ読んだし、地方のラジオ局がやってる「シナリオのつくり方講座」に通って勉強したり。そうやって自分の考えてる仮想世界を具現化するのは楽しかったです。
“無意識の保存”としての音楽
──ドラマ制作やバンドは人との共同作業ですけど、TORIENAさんはこれまで「セルフプロデュース」という形でご自身のみで活動されてきましたよね。TORIENA 私、こだわりが強くて曲げないタイプなので、当時から顧問の先生とかバンド仲間とも衝突してました。それで、他人とやるのはあまり向いてないのかもなって。始めはプロになろうと思っていたわけじゃないので、ただ自分の思い描いたことを自由に楽しくつくりたい、楽しくなかったら別にやる意味ないなって思ってました。
──さまざまな表現方法がある中で、音楽を選んだ理由は?
TORIENA 音楽は曲に歌詞をつけて、MVがあって、歌って表現をしたり、アートワークをつくったり…総合芸術をやりやすくて、自分の一番やりたいことにピッタリ合ってたっていうのがひとつ。
それに、最初はインスト曲ばっかりつくってたんですけど、言語化できないような気持ちも音にしたら伝わるかなって。自分でも意識していない、言葉にできない部分を形として残してくっていう意味で、音楽は“無意識の保存”だと思ってるんです。そうやって、音楽なら日記的に自分の気持ちを残していけるっていうのが2つ目の理由です。
TORIENA 3つ目の理由は、ライブで大きいスピーカーを使って音を鳴らすと、私が言葉に出来なかったことや日常で感じたことをみんなが真剣に聞いて時には盛り上がってくれ、「会話が成立してる!」って思えるからです。本当に伝わってるわけじゃないと思うんですけど、そう思って満たされるんですよね。だから、曲をつくるのも楽しいし、ライブも楽しくて大好きなんです。
──2012年にネットレーベル「MADMILKY RECORDS」を始めた理由も、お客さんとより近づこうという気持ちから?
TORIENA 2012年に世界最大のチップチューンの祭典「BLIP FESTIVAL TOKYO」に出た時、楽しすぎて世界がスローモーションになる“ゾーン状態”に入ったんです。「私、もうチップチューンから逃れられないわー」って感動したんですけど、最大級のイベントでも会場は最大300人のところでした。その時に、チップチューンというシーンはまだまだ開拓の余地があるなって。
チップチューンで面白い人がいたら世に出したいし、もちろん自分の作品をコンスタントに発表できる場が欲しかったので、レーベルを始めました。
「チップチューンはジャンルであり手法である」
──そもそも、さっきから当たり前に出てきている「チップチューン」ですが、TORIENAさんにとってチップチューンって何なんですか?TORIENA 「音楽のジャンル」とも考えられますけど、私はゲームボーイやファミコンに入っていた「音源チップから出る音を使う」という手法だと思っています。あるいは、その音をリスペクトして、PCとかで再現してつくっていく音楽。
だから、チップチューンの中でジャズだったりポップスだったり、シューゲイザーみたいなことをやってる人もいっぱいいますよね。ジャンルでもあり、手法でもある。
でも、昔は「実機から出る音以外は認めねー!」みたいなガチガチのチップチューン原理主義者でした(笑)。
TORIENA そんな時に、チップチューンの専門イベント以外でもライブをしていたら、お客さんに「格好良いけど、全部同じに聞こえる」って言われたんです(苦笑)。確かに、それはそうだよなって…。ジャンルを気にするのは制作者側と一部のコアファンだけで、世の中の大半の人が持ってる「音が良かったら正義」みたいな感覚を忘れてしまってたんです。
あくまでもチップチューンはTORIENAという柱を表現するための手段で、もっと考えを柔軟にしてアーティスト側が手段として利用しないといけないって思いました。
──そういう意味で、メジャーデビュー作となる『MELANCOZMO』は良い意味でチップチューンにこだわらず、かなりポップスを意識しているように思えました。
TORIENA 私的には、(表題曲「MELANCOZMO」は)チップチューンを始める前に遡る原点回帰のような曲だと思ってます。チップチューンに出会ってからはずっとぞっこんだったけど、それ以前には洋楽だったりポップスを聞いて音楽が好きだったわけで、そういうのも全部含めてフラットにした状態で曲をつくりました。
やっぱりメジャーデビューということもあって、「もう一度生まれ直す」を体現した曲になったと思います。
──本当にバラエティーに富んだ楽曲の収録されたEPでした。
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